第38話

 しずくはどうして自分がいじめられているのか分からなかった。


 明確に誰のどの行為がいじめであると断言できるわけではなく、周囲に蔓延したクスクスとしずくを馬鹿にして笑う雰囲気が、自分がいじめられていると感じる理由だった。


 無視されるわけでも、仲間外れにされるわけでもないが、いじられキャラ的な性分がしずくには合わず、周囲の人間も他人をいじるのが下手というのが、いじめが生まれてしまっている理由だ。



「じゃあ、もずくが鬼な」



 かくれんぼで最初に見つかったしずくが鬼になる。

 何も不当なことはなく、かくれんぼを遊ぶ中で、たまたま前回しずくが最初に見つかった。


「じゅーう」


 木に顔を伏せて、十を数える。


「きゅう」


 もずくというのは、しずくのあだ名だ。


「はち」


 もずくと呼ばれていることが、いじめられている証拠とするのは、ちょっともずくに失礼な気がする。


「なな」


 しずくの灰色被りの白髪は日本ではちょっと浮いている。


「ろく」


 誰かにいじめを相談したことはない。


「ごー」


 お父さんは日本人で、お母さんは北欧系の女性だ。


「よん」


 しずくの灰色被りの白髪は、周囲から受け入れられなかった。


「さん」


 大好きなお母さん譲りの髪なのに、どうしても好きになれない。


「にー」


 なんとか自分で解決したいけど、どうしたらいいか分からない。


「いち」


 時間は過ぎていく。

 時が解決してくれることもあるだろうか。


 こうして目をつむっていれば、いつかは終わるだろうか。

 いつかっていつだろう。

 今すぐに終わってくれないだろうか。



「もういいかい!」



 しずくは声を張り上げた。

 公園にかすれた声がこだました。



「……」



 しかし、返答はない。



「もーいいかい!」



 もういいよって言ってほしいのに、いつまで経っても声は返ってこない。

 しずくの身体に孤独感が巡った。

 この怖さが悪夢みたいに、眼を開けたら覚めてくれればいいのに。



「もう、いいかい!」



 返答はない。

 17時を告げる民謡が流れてくる。



「……」



 しずくは目を開けて振り返った。

 そこには、パンダがいた。

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