第16話

 アリスはりりがクラスの男子から告白されているのを見かけた。それが、かつてアリスがボコボコにされた校舎裏で行われていたのだから彼女にとってたちが悪い。首筋がひりつく。未だに火傷の傷が残っていた。


 りりは苦笑いで頭を下げていた。

 断られていた方の男子の顔は見えない。



「大変だな」



 アリスは校舎裏でタバコを吸っていたりりに話かけた。タバコを咥えたまま、口角を上げるだけで返事をする。その卑猥さに目をそむけたくなる。正義は自分にあるのだと、アリスは心の中で言い聞かせた。



「ポイントカード分かる?」


「あ?」



 りりの隣に座った。


 タバコの匂いよりも女の匂いが強い。

 いつものりりからそんな匂いはしないのに。


 男から告白されたからだろうか。



「買い物するとポイントがもらえるじゃん? さっきの彼はポイントカードを作ってなかったんだよね。でも、何度も買い物をしてしまった。もちろん、買い物をするたびにポイントは失われていく。彼はそのことを後悔していた」



 何を言っているのか分からなすぎて、アリスの口は動かない。



「ある日、彼はタイムマシンを手に入れた。過去に戻ったら一つだけ何かをやり直すことができる」


「タイムマシン……?」


「失われたポイントを求めて彼はここに来た。でも中学生の姿になった彼は、私のことを思い出した。彼には後悔していることがもう一つあった。それは、その日、つまりは今日、私に告白しなかったこと」



 アリスはこれがりりの妄言だと気づいた。

 意味は分からなかったが、そもそも意味なんてないのだろう。



「しかし、やり直せる人生の出来事は一つだけ」


「あいつはお前に告白することを選んだわけだ」


「はたして彼はポイントカードを選ばなかったことを後悔しているのか、それとも告白が失敗したとしても後悔なんてないのか。どっちだと思う?」


「少なくとも、告白をネタにしてイジるのは良くない。告白したヤツが下で、断ったヤツが上という考え方は間違っている。いますぐ捨てろ」


「っは、そのとおりだね。どうでもいい話だった」



 りりはタバコを捨てて立ち上がる。

 アリスはそれを拾った。火の消えたタバコを見つめる。



「どうしたの?」


「……お前、未来から来たのか?」


「逆だね。過去から来た」



 今の自分は過去から来ているというのは、みんながそうだ。


 なにも特別なことじゃない。


 りりが歩き出すと、アリスは背中を追った。


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