第2話

 モニカと並んで歩を進めるアルフォンス。彼は終始にこやかな鉄面皮を崩さない。彼女の目的が、交友ではなく政略であるというのが分かったからだ。


「アルフォンス様は二千年の歴史を持つホワイト家の中でも、歴代最高峰の魔法の才覚をお持ちであるとか。なんでも、若干十二歳にして風魔法のAAAランク『プロト・フォル・アネモス』を会得なさったと」


 魔法にはランクがある。Aランクの魔法は彼ら魔法使いにとって一つの到達点。魔道を極めた達人である事の証明であった。それを十二のアルフォンスは、二段階上の領域に踏み込んでいるのだから、どれほどの異次元ぶり、規格外ぶりが伺える。


「それは少し大げさです。あれはまだ未完のままですし、真の魔法使いであらせられる四聖賢しせいけんの皆様からすれば、まだまだ未熟者です」


 四聖賢。レムリア王国内で火・水・風・土の魔法をそれぞれ司る、真の魔法使い。彼らは、魔法のさらなる発展と健全な運営のために、新しい魔法体系を編み出したり、禁忌指定などの魔法の規制について、最終決定権を持つ魔法の番人でもある。そんな魔法界における絶対王者から、まだ若いと評されるのは、それほどまでに認められた存在であるか、はたまた精一杯の抵抗であるか。


「しかし、その時分には四聖賢の方々しか使えないAAA魔法の習得に挑戦されていたのでしょう?まさに怪物。神童。神の子。そういった形容では、貴方様を表現しきれませんわね。今度ご享受願おうかしら!」

「……おだてたってなんにも出てきやしませんよ。モニカさん」

「あらあら、そういったつもりは全くございませんよ?オホホー」


 わざとらしく誤魔化すモニカ。さては、この人嘘が下手な人だな?


「それではわたくしは、これにて。派閥の御子息・御令嬢同士の交流がございますので、失礼いたしますわ」


 貴族っぽい高笑いが似合いそうな金色の少女は、足の長さも相まってまるでトップモデルの風格があった。


 道行く男子生徒が釘付けになるのは分かる。

 道行く女子生徒の羨望の眼差しを感じる。


 キレイな金髪をなびかせて、自信満々に堂々とブルーロードを歩く様子は、まるで彼女のために用意されたランウェイに他ならなかった。


 モニカとの話しの最中、アルフォンスは彼女がどんな顔であった知らなかった。ついさっきまで、会話していたのに目を見て話したかどうかすら分からなかった。だから、彼女がこんなにも美しかったんだと、アルフォンスは今更ながら思い知った。


 ブルーロードを抜けると、いよいよ校内に入る。砦のような門をくぐれば、そこには庭園が広がっており、噴水の女神像は、微笑んでるのかどうなのか、イマイチ表情が読めない。ただ、そんな女神像などどこ吹く風で歩く生徒達は、誰も女神様など気にしてなどいない。いつしか、そうやって今この瞬間の『新しい』が『日常』に切り変わってしまうのだろう。アルフォンスは、それがいつになってしまうのか少し考えた。が、やっぱり馴染める想像など到底できなかった。才能は花開いた。教育は彼を為政者たらんとした。努力は裏切らなかった。故に、アルフォンスは崇敬という名の孤高の頂きにいた。


 彼を真に理解できる者など、きっと地上のどこにも存在しない。もしも、アルフォンスの孤独を理解できる者がいるとするならば、それはきっと彼と同等で同類の人間か、月並みではあるが愛だったりするのかもしれない。


 いずれにせよ、春は出会いの季節。井の中の蛙が世界を知るには、丁度いい、嵐の季節だ。



 

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