商人の魔王、僕が攻撃スキルをゼロたない魔王だった件（新）

６．迷宮と誤解

　この世界には、不思議なものである「迷宮」というものが存在しています。誰が造ったのか、そして何の目的で造られたのかは誰も知りませんが、古来から存在していることは知られています。

　後になって誰かが興味を持ち、迷宮を探検し始めました。しかし、迷宮内には魔物や罠が満ちており、一般の人々はそれに抗することは難しいです。何度も試行錯誤し、訓練し、対処することで、人類は迷宮の奥深くへと探検を進め、最も貴重な秘宝を手に入れました。

　宝石、武器、美術品、鉱石、材料、薬水、さまざまなものがあります。中には今でもその用途が分からないものもあります。もちろん、奇跡もあります。その中でも最大の奇跡の一つは、「天職」と呼ばれるものの解放です。

　天職は人々にスキルを与えます — 魔物と戦う手段です。人々は迷宮から得た奇跡を利用して迷宮都市を築き、冒険者学校を設立し、次々と冒険者を育て、そして再び迷宮からさらに多くのものを得るのです。

　しかしながら、現在まで誰も一つの迷宮を完全に制覇することはできず、その階層の数さえも分かりません。

　そして、迷宮がもたらすもう一つの有名な奇跡は、勇者と魔王です。

　勇者遺物の認定を受けた人は、「勇者」と呼ばれる種族に変わります。種族が勇者になると、その人の能力は大幅に向上し、最も重要なことは、潜在能力の上限が大きく向上することです。努力さえすれば、勇者は人類で最強になるチャンスがあります。

　例えば、アレクは勇者の槍の認定を受けた人で、本来の職業は竜騎士です。

　一方、魔王もまた種族です。魔王になると個人の能力は少し向上しますが、それだけで、一部の人々はいくつかのスキルを得ることがあります。しかし、魔王自体は勇者ほど高い潜在能力は持っていません。むしろ、魔王の才能や潜在能力は人間とほとんど変わりません。

　魔王の本当の力は、強力な統率力を持っていることです。一部の魔物さえも統率することができます。以前は戦士だった職業の人物が魔王になったことがあり、最終的にオルクを首領とする一部の魔物を統率し、オルク王となりました。魔王の従者となった魔物は、迷宮に従属しなくなるため、迷宮の門を超えて地上に来ることができます。

　もちろん、他にも多くの魔王がいます。例えば、エルフ王は元々ローグだった魔王です。彼は従者を全員耳の長い種族に変え、彼らをエルフと呼んでいます。これは彼の趣味だと言われています。彼の子供たちはもちろん彼の従者であり、彼の子供たちと結婚する者は彼の従者となります。

　勇者と魔王には善悪はありません。例えば、エルフ族は今でも人間と同盟を結んでいますが、オルク王は既に討伐されています。また、力で人類を支配しようとする勇者もいましたが、結果的に殺されてしまいました。

　　　　　＊

「もう大丈夫ですよ。」

　医務室では、僕は上着を脱ぎ、先生に背中の怪我を治療してもらっていました。元凶のレベッカとヴェローニカは横で見守っています。オフィーリアは黙って壁に寄りかかっています。三人とも心配そうな表情を浮かべており、ヴェローニカは何度も首をのばしてじっくり見ようとしています。

　傷口に消毒薬を塗られるのは痛かったですが、先生が治療薬を浸した包帯をしっかり巻いてくれ、治療薬も飲んで体全体が楽になりました。

　レベッカを従者として受け入れた後、ヴェローニカも同じようにしたがって騒ぎたてましたが、僕は断りました。彼女の友人が僕の従者になったからといって、その理由だけで他の人を受け入れるつもりはありません。僕は誰かを無理に従者にしたりはしません。

「ふん！」

　しかめっ面をするだけでは意味がありません。

「そうだよ、ヴェローニカ。まずはマスターをもっと理解しないとね。」

「……はい……」

　しかめっ面をするだけでは僕は揺るがないです。

　その後、僕たちの探検は非常に順調でした。たったの五人ですし、僕は戦闘力のないビリ君ですが、他の四人とのコンビネーションがうまくいきました。レベッカとヴェローニカが攻撃を主導し、オフィーリアが防御と警戒を担当し、トレーシーが適時にサポートしました。僕たちは素早く前進し、ついに地下四階まで登っている階段で、逃げていた三人の男子生徒に出会いました。彼らは先生を連れ戻しに来たのです。そして僕たちが地上に戻った後、僕はすぐに医務室に運ばれました。

「ちょっと邪魔するぜ！」

　ドアを開けて駆け込んできたのはデニスで、その行動に先生は眉をひそめました：

「デニスくん！」

「先生、悪いな……」口頭で謝罪しながらも、顔には謝罪の気持ちはありません。「オフィーリア、お前を探してたんだ。」

　しかし、オフィーリアは彼を淡々と見つめ、風を受けないように壁に寄りかかったままです。

「いいよ、こっち来い。話がある。」

　デニスはオフィーリアを無理やり連れ出そうとし、再び先生から叱責を受けます：

「デニス！」

「先生、オフィーリアをちょっと借りるわ。」

　その時、オフィーリアは私を見つめました。デニスが何を言おうとしているかは僕が察していました。唇で「気をつけて」と伝えると、オフィーリアはうなずき、デニスについて行きました。

　彼女の背中を見送りながら、僕の胸は不安でいっぱいになりました。バーバラが去っていった時の気持ちがよみがえります。彼女は僕を裏切ることはないはずです。理性的には魔王の従者契約は非常に強力で、終生解除することはできず、決して裏切ることもありません。しかし、心の中では不安から解放されません。彼女を送り出したのは自分だからです。

　レベッカが自分を指差すと、私は溺れる人が藁をつかむように必死でうなずきました。レベッカは優しい微笑みを浮かべ、ヴェローニカと一緒に部屋を出て行きました。

　私たちを見送っている先生は苦笑いを浮かべました。

「ああ、ザカリーくん、後でソフィア先生のところにちょっと寄ってみてくださいね。」

「了解しました。」

　　　　　＊

「その奴に脅されてるのか？」

　中庭に到着する前に、デニス殿はすでに尋ねてきた。顔には不快そうな表情が浮かび、ザカリー殿に対する軽蔑も見える。脅迫？どんな脅迫だ。

　拙者はレベッカ殿も同じような気持ちであることを感じる。おそらく私たちが共に従者だからだろうか？ザカリー殿を心配させてしまったようだ。拙者としては、こんな従者は失格だが、誰かが心配してくれるのはいい気分だ。

「それともビリ君の手に抱えられてるのか？奴隷にされてるのか？安心しろ、俺が助けてやる。たかがビリ君が何様だと思ってやがる、許せねえ！」

　彼は一連の言葉をどういう意味で言っているのだろうか？ 脅迫？そんなものはない。

「いいえ、拙者は脅迫されたり、奴隷にされたりしていない。」

「じゃあなんでそいつが近づいてくるんだ？気をつけろ。バーバラのときもうざがってたって話も聞いたぞ？お前も次か？」

「ザカリー殿は拙者を絡んだり脅したりしていません。拙者はただ彼の従者として選ばれただけです。」

「従者？」

「はい、学校のウェブサイトにはすでに掲載されているようですが、デニス殿はまだ見ていないようです。ザカリー殿が魔王になり、拙者が彼の従者となったのです。」

「魔王？ふははははは、ビリ君が魔王になったって？ありえねえ、笑わせんなよ、ふはははははは！」

　ビリ君…彼はザカリー殿を呼ぶ上位グループたちが使う呼び方だ。しかし、ザカリー殿の努力はあまり見られない。彼はチームで行動するとき、常に正しい指示を出し、デニス殿のように無茶な指示を出したり、他の人のことを無視して駆け回ったりしない。アレクはもっと悪い。彼は他人が彼らに従うことができない場合は逆に疑問を投げかけるだけだ。

「だから彼に魔王の力を使われたって？助けるぞ！頼れよ！」

「いいえ、そんなことはない。拙者は自ら従者となったのです。」

　ザカリー殿は拙者にとって初めて、一緒にチームを組むことが非常に心地よく感じられ、彼に背を任せて守られる安心感すら感じられる人物だった。拙者は生まれつき騎士の家に生まれ、家族の使命はすべて騎士に関するものであることを知っていた。だからこそ、良い主君を見つけるには顔や家柄だけではなく、性格が最も重要であると。

「なに！？」

　デニス殿は怒り狂っているようだ。彼は自尊心の塊だ。

「なんでだよ！？いや、何か呪いでもかかったのか？あの奴は商人だろ、魅了するアイテムでも買ったのか……そうだ、間違いなくそうだ！安心しろ、俺が解いてやる。」

「いいえ、誤解です。ザカリー殿は正直な人間で、そんなことはありえません……」

　彼は聞く耳を持っていないようだ、もう振り返って走り去ってしまった。まったく。

　レベッカ殿とヴェローニカ殿が影から出てきた。拙者の肩を軽く叩いた。拙者は苦笑いを返すしかなかった。

　レベッカ殿がいてくれて本当に良かった。彼女の優しさと親切さは聞いていた通りだ。そして彼女もザカリー殿を常に注視している。