新しい友人、とばっちり

最早無白

 

 春が訪れておよそ一か月、しかし未だ訪れていない者もいて。

 眼前にいる彼女と私では、もはや吸っている空気すら違う気がした。


「いや~、案外ホームシックってのはバカにならないんだねぇ」


「いくらゴールデンウィークったって、そんなすぐ帰ってくるもんかね。もうちょい耐えらんないの? しかもここ私の家だし」


 こいつにとってのホームは一体どこなんだ。それか、地元全体を『ここがうちのホームだ』と主張するタイプなのかもしれない。


「これが意外と耐えらんないわけさ。ホームシックっていうか、あんたシック? あ~あ、ほんとはシェアハウスの予定だったのになぁ~」


「うっせ。これから一年、せいぜい私にオゴる用の貯金でもしててよ。ねぇ、せんぱぁ~い?」


 これでプラマイゼロ。私たちはずっとこう、テキトーでゆるい友達の関係。たとえ足並みを揃えられなくても、軽口を叩き合うノリは一切変わらない。それに私も安心感を覚えていた。


「何にも変わってなくて安心したぁ~……じゃあ、本題に移るとしますかねぇ。はい来て!」


 そう言って彼女は扉の方に視線を移す。え、なに? 今の今まで、誰かを廊下に立たせた状態で私トークしてたの!?


「あの、本当にわたしまで来なきゃいけなかったんでしょうか? わたしがいたら、お二人の邪魔になると思うのですが……」


 見るからに『都会の女』感満載の女性が、扉から顔だけ出して至極全うな質問をする。

 なんでただの付き添いで、知らんやつの家に上がらなきゃいけないんだ。言葉にこそ出していないが、熱い視線がそう訴えている。


「まあまあ。うちとあんたって結構ディープな仲じゃん? だけどこの子は知り合って日が浅いから、話してるとどうしてもあんたの顔がちらつくんだよね~。無意識に比べちゃうっていうか」


 たった一手で二人を敵に回しかねない発言だけど、彼女は小さい頃から『こういう人』であり、本人も自覚アリだ。ある上で、それを直す気はさらさらないらしい。


「そこでだよ。元祖親友的には、うちの新しい友人はどう映る? それを聞きたくて連れてきたってわけ!」


「いや勝手に私を審査員にしないでよ。どうって……まあ、マジメそうな人だとは思う。あんたの友達にはもったいないくらいしっかりしてそう」


「あ~、しっかりしてるのはガチだね。よくノート見せてもらってるし」


「ちゃんと自分でやりなさいよ。ほんと、こんなんでごめんね? でもこいつって、仲良くしたい人にしかこうしないから……あと一年だけ構ってあげてね」


 ――そう。あと一年、あと一年したらこいつと同じキャンパスで、今みたいにグダグダ喋ってさ。その景色の中に、彼女も無理なく収まっているんだろうな。


「……待ってますね。あ、もうノート見せないようにすれば、二人仲良く一年生で春を迎えられるかもしれないですね! そっちの方が丸く収まる感じしません?」


「いやいや、さらっと友達を留年させようとしないで!?」

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新しい友人、とばっちり 最早無白 @MohayaMushiro

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