チョコケーキ姫と探偵部
うもー
プロローグ
高校の入学式、桜の花びらが落ちる正門の前で初めて彼女を見た。
すっと通った鼻筋と白い肌、茶色がかった綺麗な瞳。そのあまりに端正な顔立ちは、私の目をしばらく釘付けにさせた。一瞬、精巧につくられたロボットなのではないかと思ったほどで、私の知る限り、彼女ほどいい意味で人間離れした容姿の人物を見たことがなかった。もっとも、私の好みの顔であったということもある。
彼女は玄関口に貼ってあるクラス分けの紙を何秒か見た後、腰まで伸びた長い黒髪をはらりとなびかせながら、つかつかと校舎へ入っていった。
私もすぐに紙を確認し、彼女の背中を追うように自分の教室へ向かう。
行き先が同じだったと分かったとき、私の口元がどれだけ気持ち悪く緩んだことだろう。
二十代前半に見える若い女性教師が私たちの担任だった。担任は緊張した様子で今後の予定を説明した後、余った時間で一人一人の自己紹介の時間を設けた。
あがり症の私は自己紹介が大の苦手である。
「こ、
などと、前の人の流れに合わせて私はなんとか当たり障りのない自己紹介をした。言葉に詰まらなかっただけ及第点といえる。
例の彼女の番になった。椅子を引く音を最小限にとどめ、流れるように立ち上がった彼女は、クラスメイト達をひと舐めするように目線を動かす。
機械音声だったらどうしよう……。
私はまだそんなことを思っていた。
私を含め、好奇に満ちたクラスメイトの期待を華麗に無視するかのようなそっけない顔つきで、彼女は口を開いた。
「
私たちの顔色をうかがう様子もなく、また流れるように座ろうとする彼女を担任は慌てて止める。
「もうひとこと言いましょう、ほら、好きな食べ物とか!」
「好きな食べ物……」
彼女はわずかに首を傾げる。
「チョコレートケーキの一口目です」
訳の分からないことを口にし、悪びれることなく座った。
数時間前、教室に入ってきた彼女を見て「めっちゃ可愛い子来た!」と浮かれたセリフを吐いていたクラスの男子は、この自己紹介を聞いてどう思っただろうか。クラスメイトの大半が苦笑いをしていた。
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