第1話『デッド・ワイズ・サーキット』3
ライムがリュカに手を差し出すと、手を掴み、一緒に飯を取りに向かう。
他の子供たちはライムたちが向かうのに着いて行くように列を作る。
そして、乱雑に積み重なったろくに洗われていない皿を台からライムが取ると、嫌みな顔をしたブースが皿にスープを入れる。
「食費分、たっぷり働けよ!」
ライムはブースの顔を見ることなくテーブルに戻る。
チッ。相変わらず、いけ好かねぇガキだぜ。
ブースはライムの後姿を見ると不敵な笑みを浮かべる。
まぁ、この後はそんな態度取れないだろうがな。
その後もブースは次々と雑に配膳すると、リュカの番でピタリと動きを止める。
「よう! 腕の調子はどうだ、嬢ちゃん!」
——ニヤリ……。
リュカの腕を見ながらブースは満足げに笑みを溢す。
それに対してリュカはじっと俯く。
「ハハハァ。精々頑張って里親を見つけろよ! じゃないと、お前も死ぬまで
ブースはデイヴたちを見る。
「コイツらみたいにな!」
デイヴたちは怒りを抑えて静かに震える。
皆の配膳を終えると、汗をかいたブースはそそくさと職員室に向かう。
ったく……。暑くてかなわねぇよ。
そして、ドアを開けると冷房が効いた部屋に入り、幸せそうな表情を浮かべる。
テーブルに着席したライムたちは怒りを抑え、俯いている。
「アイツ、今に見てろよ!」
怒りを隠しきれないテリーをマイカは
「こんな所、早くみんなで出よう。計画が無事に進めば、あんなヤツと二度と会わないで済む」
「そうだな……」
不服そうにテリーは返事をすると、黙々とスープを食べ始める。
ライムがスプーンでスープをかき混ぜると吐き捨てられたガムが出て来る。
アイツ、わざと入れやがったな!
ライムはガムをスプーンで
リュカはじっとライムの方を見つめる。
それに気が付いたライムはリュカに笑みを作る。
「俺は大丈夫だ。早く食え。冷めちまうぞ」
心配させまいとライムは黙々とスープを食べ始める。
リュカはそんなライムに続くようにスープを無理やり喉に通す。
まずい……。
リュカは顔を歪ませながらスープをかき込んだ。
皆がスープを飲み終わるとライムは時計を見る。
「あと一時間あるな……」
すると、バッカスは手に持っていた皿を置く。
「進捗も話したいし、一旦部屋に戻ろう」
「ああ。リュカ、部屋を案内する」
リュカは嬉しそうにライムを見ると頷く。
——ガチャッ!
ドアを開く音が聴こえ、皆がその方向を見るなり空気が凍り付く。
「おーい! ライムちゃ~ん! ちと、こっちへ来い!」
そこには不敵な笑みを浮かべながら手のひらにポンポンと警棒を当てているパロメが居る。
「俺は後から合流する。飯食ったらリュカを部屋に案内してやってくれ」
そういうと、覚悟を決めてライムは席を立つ。
テーブルの皆は恐怖と怒りに小刻みに震えていた。
リュカは訳も分からず心配そうに皆を見つめる。
「また後でな……」
ライムはリュカにそう言うと、重い足取りでパロメの方へ向かっていく。
「おい、来るのが遅ぇじゃねぇか! 懲罰室ちょうばつしつに行くぞ」
そう言うと、パロメはライムの肩を持ち、部屋から連れ出す。
——バンッ!
勢いよく絞められたドアをリュカたちは心配そうに只々見つめることしか出来なかった。
重苦しい雰囲気の中、バッカスが気持ちを切り替えるために口を開く。
「リュカ! 部屋を案内するよ!」
マイカはリュカの肩を軽く触る。
「行くよ」
「うん……」
バッカスたちは立ち上がるとドアを開けて部屋を後にする。
ライムを除いた皆はデイヴの案内でボロボロのネズミが這はうような廊下を歩いていた。
「ここは?」
リュカの問いにバッカスが食い気味に答える。
「旧校舎さ。この施設自体は元々学校で戦争中、廃墟になったものを建て替えずにそのまま使っているのさ」
日中だというのに薄暗く、換気をされていないため、薄暗い廊下は湿気でどんよりとしていた。
——ギィッ……。
今にも落ちそうなカビが生えた床は歩く度に嫌な音を出した。
そして、廊下の突き当たりにある部屋で一同は止まる。
「ここが俺らの部屋だ」
——ガラガラガラ……。
デイヴが引き戸を開けると
リュカは部屋を見るなり、その酷い光景に目を疑った。
これが人の住む場所なの?
そこは、半壊した閉まらない窓に
「平日は工場の寮に泊まり込みだから、ここよりは多少マシだけどな」
リュカは言葉を失う。
こんな所で寝泊まりしないといけないなんて……。体がどうにかなってしまう。
よく見ると、半壊した窓からは山のように積まれた土がいくつもある。
「あれは……」
リュカが指さすと、悲しそうにマイカが答える。
「アレは死んだ仲間たちが埋められているの。こんな生活していたら長生きは出来ない」
リュカは思わず口を押える。
「だからこそ、死んだ皆んなの為にもこんな所をぶっ壊さなくっちゃ!」
日差しが一切入らない一個のランプのみが照らす薄暗い四畳半程の地下室。
——バチンッ!
鈍い打撃音が木霊する。
パロメは警棒を大きく振りかぶり、ライムの胴体を殴りつける。
「うっ……」
——ガチャンッ!
ライムは手錠を付けられ、天上に設置された金具に吊り下げられていた。
足はプラプラと浮いており、続けざまに行われるパロメの打撃で縦に揺れている。
「ハハハハハァ」
パロメは満面の笑みで揺れるライムを眺める。
「はぁ。スカッとするぜ!」
ライムの手首は手錠のみで全体重を支えていたため、血が滲んで赤黒くなっていた。
消えそうな声でライムは尋ねる。
「一体、俺が何を……」
すると、パロメは焦ったように答える。
「そっ、それはお前。さっきブースの事を睨んでたろ! 反抗的な態度は粛清しなければならん!」
取って付けたような理由を聞き、怒りからライムは歯を食いしばる。
「そんなことで……」
「あ?」
「そんな理由でこんなことをしてんのか!」
腹から声を出すライムの迫力でパロメは後ずさりする。
「そんな理由だと?口答えしたな!」
パロメは再び、大きく警棒を振りかぶる。
「そんな性格だから、元官僚のくせに、お前はこんなところにいるんだ!」
ライムの一言で我を忘れたパロメは警棒をライムの額に向かって力いっぱい振り下ろす。
——バコッ!
今まで聞いたことない程の鈍い打撃音が部屋を木霊し、ライムは白目をむく。
血がべっとりと付いた警棒を見てパロメは我に返る。
「やべぇ!」
手錠を外して地面に降ろすと、口から泡を出すライムの首筋に手を当てて、脈を確認する。
「し、死んではないな……」
すると、足早にパロメはドアへ向かう。
「目が覚めたら部屋から出てよし!」
気を失ったライムにそう言い放つと開けっぱなしで地下室を後にする。
黙々と階段を上がるパロメは額に汗をかいていた。
「工場に連絡しないと……」
無線を取り出すと、
『なんだ?』
無線から野太い声が聴こえ、パロメはため息を吐く。
「ライムは今日、戻れそうにはない……」
『おい! またやらかしやがったな!』
「チッ……分かってるよ」
『分かってんだったらやんじゃねーよ! こっちは人手不足なんだ! お前は仕事が出来るガキばかり壊しやがる! まさか死んでねぇだろうな?』
「ああ……脈は確認した」
『っで、そいつは今どこに居る?』
パロメは男の質問に口ごもる。
『まさか、置きっぱなしかよ……』
「……」
『応急処置ぐらいしろ! 糞が! 復帰に時間がかかると、こっちの仕事に支障が出る』
「分かったって」
『ったくよ! また
「何とか明日には復帰させる」
——ブチッ!
男はパロメの返事を聞くと無線を切る。
「クッソ……」
To Be Continued..
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