第28話 クエスト挑戦前

 僕とシンシアは、冊子さっしにまとめられた、クエストの数々かずかずに目をとおしていく。


下級かきゅうクエストは、アイテムの採取さいしゅものがほとんどだな」


 しかも、その採取対象の多数は、薬草やくそうである。


「薬草は、いくらあってもこまらないものだからね。こういう採取クエストは、じつはとても重要なクエストらしいよ」

「へえ……」


 ……薬草。

 まあ、医療いりょうに関わるアイテムであるだろうから、重要と言われれば重要な気もする。


「モンスター討伐とうばつクエストは、このスライムの撃退げきたいのみが、唯一ゆいいつのCランク冒険者ぼうけんしゃでも挑戦ちょうせんできるクエストになっているのか……」

「スライムは、比較的ひかくてき弱いモンスターだからね。初心者でも、安心していどめるクエストだと言われている。だから、Cランクの冒険者でも挑戦できるの」

「つまり、あれだな。僕たちは、採取クエストをおこなうか、スライム討伐クエストをおこなうかの、二択にたくになるというわけだな」

「そ、そうだね。ナオキくんは、どっちを希望する?」

「僕は……」


 どうせ、異世界に来たしな――とか考える。


「スライム討伐クエストに一票だ」

「それなら、多数決たすうけつでスライム討伐クエストで決定だね」


 どうやら、シンシアも同意見どういけんだったようだ。


 僕とシンシアは、クエスト挑戦の申請しんせいおこなう。

 れつに並び、僕たちのばんがやって来て、受けたいクエストめいを口に出した。

 受付嬢うけつけじょうした用紙ようしの、右下にあるわくの中にチェックサインを入れるだけで、申請は終わる。

 あれは、何のチェックだったのだろうか?

 おそらく、いのち保証ほしょうはしないが同意どういするか? というものだろうが。


 僕は、受付嬢から一枚の紙をもらった。

 手のひらサイズの、小さなクリーム色の紙切かみきれである。

 どうやらこれは、クエスト挑戦の証明書しょうめいしょになるらしい。

 いどむクエストの対象地点たいしょうちてんまで行き、そこに立っている番人ばんにんにこの証明書を見せると、対象地点の中に入らせてもらい、クエストが始まるということだ。


 何だか、ゲームみたいだな、とか何となく思った。


 僕とシンシアは、ギルドから退室たいしつする。


「とりあえず、スライム討伐とうばつクエストの対象地帯――アルド高原こうげん――にかえばいんだよな」

「うん。ここから、徒歩とほ40分の場所にあるから、気長きながに目的地まで目指めざかたちになるけど」

「じゃあ、早速さっそく歩くか」

「そ、そうだね」


 を進める。


「シンシアは、昨夜さくやはよくねむれたか?」

「う、うん。一応は」

「何か、夢とか見たか?」

「夢は、見たよ」

「どんな夢だ?」

「泣きたくなるほどの悪夢あくむだったけど、聞きたいかな……?」

「この話は、やめにしようか」

「ナオキくんは、優しくて助かるよ」

「…………」


 悪夢、か。

 せっかくの大事な睡眠なのに、大変だな。

 今夜こんやは、彼女が気持ちよく眠れればいものだが。


「ナオキくんは、何か夢を見たの?」

「ああ、よく分からない夢は見たな」

「よく分からない夢……?」

「そうだ」

「それは、どんな内容の夢?」

「大量のかみなり無数むすうに落ちていてだな……」

「うん」

「それに当たって、僕は死んで……」

「う、うん……?」

「そして目がめた」

「な、ナオキくんも、そこそこの悪夢を見ていたんだね」

「……これは、悪夢ではなくないか?」

「し、死ぬのは、悪夢ではないかな?」

「死ぬくらい、夢の中では普通だと思うが」

「ナオキくんの悪夢の基準きじゅんが、鬼畜きちくすぎるよ……!」


 よく分からないが、シンシアにおびえられた。


「ナオキくんは、その、睡眠が好きって聞いたけど……」

「そうだな。睡眠は大好きだ」

「サラさんが、言っていたよ。ナオキくんは、一大欲求いちだいよっきゅうの人間だって」

睡眠欲すいみんよくしか無いという認識にんしきは、大きな誤解ごかいだが」

「それと、最強のスリーパーとも」

「……それは、否定ひていできないな」


 しかし、たして言葉ことばなのだろうか?

 最強のスリーパー……。

 名前だけ聞くと、なまものにしか聞こえなかった。


「どうしてナオキくんは、睡眠にかれたの……?」

「それは、長くなるけど大丈夫だいじょうぶか?」

「え……っ?」


 僕は、言った。


「睡眠の魅力みりょくについて、説明したらキリが無い。覚悟かくごは、できているだろうか?」

「こ、これは。れてはいけないところに、れてしまったかな……?」


 そこから目的地までは、僕の睡眠教室すいみんきょうしつひらかれた。

 シンシアは、ただただ返事をかえしていた。

「はい」「はい」――と。


 そんなに反応はんのうしてくれるとは、相当そうとう面白おもしろかったという事だろうか? また今度、続きのはなしをしてあげるとするか……。


 僕の睡眠教室に、一つの予約がまった。

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