第10話 寮の噂

 朝食後ちょうしょくご、僕とサラさんは家を出て、昨日きのうみたくギルドへ向かった。

 道中どうちゅう、僕は思ったことを口に出す。


「僕も、いつまでもサラさんの家にお邪魔じゃましているわけにはいきませんね……。何か、僕がを手に入れる手段しゅだんはあるんでしょうか?」

「あるにはあるのですが……」

「何か問題点もんだいてんがあったりします?」

「いわゆる、くに運営うんえいする異世界人いせかいじんれる専用せんようりょう存在そんざいするんです。ソメイユじゅうに、その寮が二軒にけん存在しておりまして、このエリアないでも一軒だけてられているのですが……。そこにある寮がなかなかの不評ふひょうなんですよね」

「不評……ですか?」

「はい」


 サラさんは、不評の原因げんいんならべていく。


寮長りょうちょうあたまがおかしい、というのが不評の原因にたるらしいです」

「寮長の頭がおかしい……」

「クエスト達成たっせいで受け取った報酬ほうしゅうを持って帰ってきた異世界人にたいして、つぼ購入こうにゅうすすめてくるそうです」

「ああ、そういうタイプですね」

ことわると、いやがらせのように、断った人の部屋へや電気でんきみずめ、これはかみからのさばきだとか何だとか、言ってくるとか」

たしかに、それはあたおかですね」

わるうわさは、それだけにとどまらず……」

「まだ何かあるのですか?」

夜中よなかになると、廊下ろうか子守歌こもりうたうたってくるらしいです」

「子守歌……ですか?」


 それは、ありがた迷惑めいわくに感じるが、悪いことに入るのだろうか?

 どちらかといえば、親切心しんせつしん空回からまわりしているようにも感じるのだが。


聖典せいてん大声おおごえで読み上げる――という内容の子守歌で、睡眠すいみんを邪魔してくるとのことなんです」


 聖典を大声で読んで、睡眠を邪魔してくる……か。

 最悪さいあくの寮長だな。


「サラさん……」

「何でしょう?」

「あともう一軒の寮は、まともなのでしょうか?」

「悪い噂は聞きませんが、とおいところに位置いちしているものでして……」

「遠いところ、というと。ここから、どれくらいの距離きょりになりますか?」

交通手段こうつうしゅだん駆使くしして大量たいりょう交通費こうつうひと30時間ですね」

「遠いですね」


 それに、金銭きんせん必要ひつよう……か。


「そうなんです」

「…………」


 しかし、このエリアの寮には、入りたくないものだな。

 だが、いつまでも彼女の家に居候いそうろうしているのも問題もんだいありだし。

 しょうがない。

 我慢がまんして、その寮に入るしかないな。

 と、思っていると――


「しばらくは、私のところにまってもかまいませんよ」


 ひとすぎるサラさんが、そんな提案ていあんをしてくる。

 正直しょうじきに言うと、その言葉にあまえたい。

 しかし、それに甘えていたら、彼女に迷惑がかかる。

 やっぱりだ。ここは、寮に入ることにしよう。


「サラさん――」

「――ダメですよ」

「…………」


 かぜく。

 薄桃色うすももいろかみをなびかせながら、サラさんは口を開けた。


みずか不幸ふこうみちあゆんでしまっては、幸福こうふくとおのくばかりですから」


 それに――と彼女は続ける。


「一人くらい泊まっていたって、何の問題もございません。むしろ、ナオキさんがいばらの道を歩むほうが、私的わたしてきには心苦こころぐるしいですよ。安泰あんたいした生活せいかつおくれる住み家を手にするまでは、私の家にお邪魔していてください」

「サラさんは、どうして……」

「はい?」

「サラさんは、どうしてこうも、僕に親切しんせつなのですか?」

「さて、なぜでしょう。いてげるとすれば……」


 サラさんは、言った。


「ナオキさんなら、何とかできるのでは? と思っていまして」

「何とかできるとは、何のことですか……?」


 サラさんは、パチンと両手りょうてを合わせてたたく。


「話は、そこまでにしましょう。とにかく、ナオキさんは今日きょうも私の家にまる。それだけの話です」

「…………」


 まあ、あまり話を深堀ふかぼりされたくないのだろう。

 彼女がぎゃくに泊ってくれというのなら、僕がことわる理由はどこにも無い。

 なるべく早く、自力じりきで住み家を手に入れないといけないな……。

 僕は言った。


「でしたら、今日もよろしくお願いします」

「はい」


 そして、僕たちはギルドへたどりいた。

 サラさんは職場しょくばへ向かい、僕は広場ひろば待機たいきする。すると、開店前かいてんまえなのにサラさんが僕のところまで走ってやって来た。


「ナオキさん!」

「何でしょう?」

伝書鳩でんしょばと手紙てがみはこんできてまして」

「手紙ですか?」

「はい、こちらなのですが……」


 サラさんが、一通いっつううすいクリームいろまった手紙を僕にわたしてくる。

 文面ぶんめんってみるが、普通ふつう文字もじが読めないのだった。


「これは、何と書かれているのですか?」

王宮おうきゅうからの手紙で……」

「王宮……」


 となると、騎士きしとの顔合かおあわせのけんだろうか?


「今すぐ、ナオキさんを王宮まで行かせるようにと」

「今すぐ、ですか?」

「ええ。ですので、今から王宮まで向かうかたちでお願いします」

「これは、騎士との顔合わせの件なんですよね?」

「そうですね。しかし……」


 サラさんは、言った。


「ハズレの騎士を引かなければいいのですが……」

「ハズレの騎士?」

「はい。たまにいるんですよ。日常業務にちじょうぎょうむ失敗しっぱいたりとして、目下めした人間にんげんに大きな態度たいどをとる騎士が」

「なるほど……」

「私は、仕事しごとがあるので同行どうこうできませんが」

大丈夫だいじょうぶです。場所ばしょさえ分かれば、一人で行くくらいはできますので」

「では、今から王宮までのみちのりをしるした地図ちずを作って、ナオキさんに渡しますので……」

「ありがとうございます」

「あと、ですが」

「何ですか?」


 彼女は、人差ひとさゆびを立てる。


「一つだけ、絶対ぜったい注意ちゅういしなければならないてんがありまして」

「はい……」

「王宮には当然とうぜん王族おうぞく方々かたがたがいます」


 王宮という名前なまえがつくのだから、そうだろうな。


「くれぐれも、王族の方々には危害きがいくわえないようにをつけてください。これだけは、絶対にまもらなければならないことです」

「……分かりました」

「ナオキさんがそういう人でないことは、重々じゅうじゅう承知しょうちしておりますが。ただ、いかんせん王族の方々に怪我けがでもわせようものなら、問答無用もんどうむよう牢屋ろうやきが確定かくていしてしまうので。ねんため大事だいじなこととして、おつたえしました」

「気をつけるようにします」


 そして僕は、サラさんに王宮までの案内地図あんないちずをもらい、ギルドの建てられた広場からはなれた。

 徒歩とほで50分くらい歩いたところに、王宮はあるらしい。

 僕は、そこを目指めざす。

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