第9話 睡眠負債

 次の日の朝をむかえる。


 僕は、布団ふとんの上で上半身じょうはんしんを起こし、目覚めざめたばかりのまなここすりながら、時計どけいに目をやった。


 ――7時15分。


 きっちり、7時間の睡眠すいみんをしていた。


 となりにいるサラさんは、まだねむっている。

 気持ちよさそうだ……と思っていたら、彼女もひとみをうっすらと開け始めた。

 僕と目があったサラさんは、みを見せる。


「おはようございます、ナオキさん」

「おはようございます、サラさん」


 サラさんは、僕と同じく上半身をたてにし、時計を見ながら口を開けた。


「いつもより早く寝たので、そのぶん早く起きれるかなと思っていたのですが。そうでも無かったようですね」

「それは……睡眠負債すいみんふさいまっているからではないですか?」

「睡眠負債? というのは、何でしょう?」


 僕は、説明せつめいを始める。


睡眠不足すいみんぶそく蓄積ちくせき……てきなものです。借金しゃっきんと少しているのですが……」

「借金ですか?」

「はい。借金は、おかねりたら、その借りた分のお金を返済へんさいしないといけません」

「そうですね」

「それと同様どうように、睡眠もまた、睡眠負債を溜めたその分の時間……ようは蓄積された睡眠不足すいみんぶそく時間じかんを、どこかのタイミングで返済しないといけないんです。だから、睡眠負債が溜まっていると、睡眠時間が通常つうじょうより長くなる。そういう日が、睡眠負債を完全かんぜんに返済するまでかえされる。だから、おそらく睡眠負債が溜まっているサラさんは、いつもより睡眠時間が長かったんです……」

「へえ……ナオキさんは、物知ものしりなんですね」

「まあ、一応いちおうは睡眠オタクを自称じしょうしているので。教養きょうようかんしては、これくらいしかがありませんが……」

「とても良いことだと思いますよ。取り柄があるということは」

「それも……そうですね」

「もしかしたら……」


 サラさんが、僕に言った。


「ナオキさんが、寝るだけで強くなるというスキルを手にしたのは、偶然ぐうぜんではないのかもしれませんね」

「偶然ではない?」

「ええ」

正直しょうじき僕は、ただの偶然だと思うのですが」

「本当にそうでしょうか? 睡眠が好きなナオキさんに、睡眠強化すいみんきょうかという名前のスキルがあたえられた。もしかしたら、睡眠の神様かみさまだれかが、そんなナオキさんをって、力を与えたのかもしれない」

「確かに、僕は睡眠が大好きですが……」

「人にかれて、いやな気持ちになる人間はそうそういません。きっと、神様も同じですよ……神様がいればの話ですけれども」


 …………。


「もしもかりに、睡眠の神様がいるというのなら……僕は特別視とくべつしされてもおかしくないのかもしれませんが」

「……睡眠を一途いちずあいして、それに関連かんれんする力を手にする。これは、偶然ぐうぜん片付かたづけるには、もったいない話だと思いますよ」

「まあ、そうかもしれませんね。何か、このスキルを手に入れた、理由の一つや二つは、あるのかもしれない……おそらくですけど」

「きっと、何かありますよ」

「……朝食ちょうしょくにしましょう」

「そうですね」


 僕とサラさんは、布団からはなれ、朝食の準備じゅんびを始めた。

 僕も、つくえきと飲料水いんりょうすいの準備くらいはする。それくらいしか、出来できなかったが。


 サラさんが、卵焼たまごやきらしきものを作りながら、僕に声をかけた。


「せっかくですから、ナオキさんの今日のステータスを確認かくにんしてみませんか? じつは、私も個人的こじんてきに気になっておりまして」

「言われてみれば、自分も気になりますね。スキルによるステータス強化きょうかにも、上限じょうげんがある可能性かのうせいがありますし。それの確認という意味でも、測定そくていしたいです」

「朝食が出来上できあがるまでもう少し時間がかりますので、そのあいだにでも、測定するのはどうでしょうか?」

「サラさんも気になるのであれば、朝食後でも良いと思いますが」

口頭こうとうで教えてもらう形でかまいませんよ。料理りょうりをしながら、聞いておきますので」

「分かりました。では、石版せきばんほうをおりしますね」

「はい」


 僕は、石板の上に手を乗せた。

 そして、ステータスの測定結果がかびがる。


「HP、306万100……」

「もはや100がおまけに聞こえてきますね……」

攻撃力こうげきりょく、306万10……」

「私が小虫こむし程度ていどに思えてくる数値すうちですね」

魔法まほう、306万5……」

「一人でくにほろぼせるレベルですよ、ここまでれば」

防御力ぼうぎょりょく、306万8……」

防具ぼうぐ機能きのうしないあたい……」

耐性たいせい、306万1……」

毒殺どくさつ不可能ふかのう……無敵むてきじゃないですか」

俊敏性しゅんびんせい、306万5」

「完全に、こわれていますね」


 とまあ、7時間分の睡眠強化がしっかりと追加ついかされていた今日きょうだった。


 サラさんが、卵焼きを乗せた食器しょっきを机まで持ってきて、言葉を口から出す。


あらためて――バランス崩壊ほうかいけいのスキルですね」

「僕も、同感どうかんです」


 睡眠強化……。

 相変あいかわらずのチートスキルなのだった。

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