第13話 王都再び

 地上の分署に戻った俺は、革の半袖シャツとズボン・ブーツを探し当て、ナイフとリュックも見つけた。

 現状で13才くらいの肉体を構築できたが、まだ心許ない。

 もう一度ダンジョンに潜っていく。

 発光・エコーロケーション・暗視は以前と同じレベルだ。


 カウンターで地図を見つけた俺は、どんどん深部へ降りていき、最深部に到達した。

 手こずる魔物も出ないし、体も16才に成長させることができた。

 意識的に色々なスキルを使って動きをチェックし、問題ないレベルになっている。


 髪色も以前と同じ茶髪にして、瞳を青くする。

 多分、外見的には以前と同じだと思う。


「じゃあ、王都に戻りますかね。」


 俺は徒歩で王都に向かった。

 途中の人家はみんな無人だった。


 俺は嗅覚を頼りに薬草・毒消し草・マナ草を吸収していった。

 万能薬は、多分必要になる。


 薬草を集めるため、あえて林の中を進んだため、王都についたのは4時間後だった。

 もう夕方である。

 王都に門番はいなかったが、冒険者ギルドには数人が集まっていた。

 聞いたところによると、食料の奪い合いが起こっていて、数十人が集まって自警組織を作っているのだという。

 家畜を集めたり、農業を始めた方がよいのではないかと思ったが黙っておいた。


 自宅は幸いなことにそのままだった。

 いつものタンクトップとパンツに着替え、手甲とブーツを装備してナイフを腰に刺す。

 そこから城に向かい、自分が襲われた場所で、冒険者証と医師の認定証を見つけた。


 城の中には30人ほどがかたまっていた。

 見知った顔はなかった。

 端にいた女性に確認したところ、城は第二王子を中心に貴族が集まっており、食料の調達に出ている者を含めると60人ほどの規模らしい。


「あなた、もしかして万能薬を作っていた、医師のRさんでは……。」

「「「なに!」」」


 周辺にいた男がワラワラと集まってきた。


「本当なのか!」

「まあ……。」

「この大変な時に、どこへ行ってたんだ!」

「どっか隠れてたんだろう!」


 勝手な事をほざいてやがる。


「ともかくこっちへ来い。ジム王子に謁見させてやる。」


 俺は手を引かれ、強引に別室へ連れ込まれた。


「王子!医師局のRが戻ってまいりました。」

「Rだと!薬は作れるのか!」

「……。」

「おい、何とか言ったらどうだ!」

「作れるといったらどうするんですか?」

「医師の義務として、王族に尽くすのは当然のこと。何を今更申すか。」

「王族なら王族らしく、みんなの先頭に立って作物でも植えたらどうですか。」

「何ぃ!」


「あの時、医師たちは限界まで治療を続けて力尽きていった。俺も、ほとんど死にかけてたよ。」

「とても、そうは見えんが……。」

「ああ、薬のおかげで生きながらえたんだ。」

「だったら、その薬で皆に貢献して見せたらどうだ!」

「だからさ、あんたたちにそれだけの価値があるのかって聞いてるんだよ。」

「なに!」

「石化虫の襲来の時に、何してたのか言ってみな。最前線で戦っていたやつらは、みんな犠牲になったんだよ。」

「……」

「医師局のやつらは、みんなギリギリまで治療して、患者の体を食い破って出てきた石化虫に食われて死んだんだ。俺もギリギリまで見てたよ。薬を作りながらな。」

「だったら……。」

「サクラさんは、喉から出てきた成体を手で抑えながら食われていったよ。局長だって、最後まで治療を続けていたよ。俺も体中をかじられたよ。お前たちは、その時何をしていたのか言ってみろ。俺が納得出来たら薬を分けてやってもいい。」

「ふざけるな!王子の御前だぞ!」

「王家を名乗るなら、ここからどう復興するのか言ってみろよ。それだけの統率力があるのなら聞いてやろう。」

「俺を侮辱するなーっ!こいつを捉えろ。処刑してやる。」


 俺は頭を振った。

 そうだ、信頼できる仲間は、みんな死んだ……。分かっていたはずなのに……。


「まあ、頑張ってみなよ。」


 俺はその場をあとにした。誰も追ってこなかった。

 さて、どうするか……。


 俺は、自分の着替えなどをリュックに詰め、荷車を探して店から必要なものを調達した。

 釘や魔導照明、魔導コンロ。布や革に糸と針。包丁などの調理器具や大工道具一式と土木工具一式。

 それらを積み込んで王都をあとにした。

 以前見つけた森の中の空地は、湧き水も近くにあり、多分自炊生活に適している。

 湧き水の出ている岩を、ウォーターカッターで掘って洞窟にし、持ってきた道具を保管しておく。

 同時に土を耕して穀物と野菜の種を撒いていく。

 そしてまた、王都に戻って資材を持ち出してくる。


 王都の無法化が進めば、資材も手に入らなくなるだろうから、俺は何度も王都まででかけた。

 その間に、木を切り倒して皮を剥き、乾燥させておく。

 十分に乾燥させたら、家を作るのだ。


 この辺りはイノシシが出没する。

 俺は木の柵を作ってイノシシを捕獲していく。

 当面のエサは、魔物と木の実だ。

 俺には不要だが、普通の人間には貴重な食料だろう。


 3か月を過ぎた頃から、王都に生活感が戻ってきた。

 物々交換の市がたち、獣の肉や葉物が並び始める。

 元商店にあった雑貨類は消え、誰かが隠し持つようになった。


 王都では、3つの勢力があるらしい。

 城にあった武器や防具で武装した200人規模の第二王子派閥と、元冒険者ギルドを根城にした150人のBG派閥。元商人を中心とした300人の商業ギルド派閥だ。


 元々使われていた金貨は無価値になり、食料の価値が最重要になってきた。

 まあ、俺には必要ないのだが、市を歩いていたら声をかけられた。


「もしかしてレオさんですか?」


 振り返ると、銀色の髪をした少女がいた。

 背中までの髪を後ろで束ねている。

 170cmほどの身長は女性にしては高く、切れ長の目が笑っていた。


「シェリー……さん?もしかして。」

「ウソ、ウソ、こんなところで会えるなんて!」


 彼女はいきなり抱きついてきた。


「姉さん……誰なの?」

「ほら、私の命の恩人!」

「えっ、もしかして医師の?」

「うん。医師局の人って、あのとき皆さん亡くなったって聞いてたから……。」


 彼女は涙ぐんでいた。


「シェリーさんも、よく無事で。」

「私には、誰かさんにもらった天使がついていますからね。」

「姉さん、僕にも紹介してよ。」

「あっ、この子は弟のミシェルです。軍にいたんだけど、あの日は非番で家にいてくれたので助かりました。」

「ミシェルです。よろしく。」

「レオです。それで、その恰好は狩人かな?」

「ええ。ウサギやキツネを捕まえて、この市場で売ってるんですよ。」

「へえ、まだあの家に住んでるの?」

「いえ、第二皇子派に追い出されちゃって、今は母と一緒に近くの森に住んでるんです。」

「あっ、お母さんも生きているんだ。」

「ええ、父は残念でしたけど。」

「そうか。医師局も全員……。」

「でも、せっかく助かったんだから、頑張って生きないと!」

「そうだね。あの時の子がこんなに逞しくなるなんてね。」

「あの時のことに比べれば、これくらいどうってことないですよ。」

「あの時?」


 急にシェリーの顔が真っ赤になり、人差し指を前に突き出した。



【あとがき】

 えっ、この子ヒロインなの?初登場がアレだよ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る