商人と魔術使い
遠部右喬
第1話
スルドゥージが初めてミズナを見たのは、まだ十代終わりの頃だった。
商団筆頭の息子スルドゥージは、ミズナの住む村から
出会いからこっち、スルドゥージは顔を合わせる
そしてそれは出会いから幾年も経った今も、変わらず続いている。
*
スルドゥージがまだ幼かった頃、両親は年の半分以上を留守にしていた。両親に代わり、まだ幼かった彼の面倒をみていたのは、彼の祖父母と街の魔術使いだ。特に祖父母は、本拠地に構えた店を切り盛りしながら、商売の大変さや醍醐味を幼い孫にしっかりと叩き込んだ。そのお陰か元々の気質なのか、スルドゥージは愛想が良く物怖じしない、利に
当初は小規模だった商団は徐々に大きくなり、荷の増加と共に、当初は陸路だけだった移動手段は、海路にも広がっていた。
その頃になると、両親は息子を旅に連れだすようになった。それまで街から出たことの無かったスルドゥージは、委縮するどころか大はしゃぎで、瞬く間に商団の大人達に馴染み、年の近い子供達の兄貴分に収まった。
旅の生活は大変なことの方がよほど多いが、見知らぬ商品や人との出会いは、スルドゥージにとって何にも代えがたい魅力に満ちている。つまり、彼はこの生活をいたく気に入っていた。
その日、商いの為に訪れた海沿いの村は、佇まいも露店に集まった住人も素朴で、既に旅慣れていたスルドゥージの目には少々刺激が足りなかった。退屈だったが、それを分かり易く
「他の店を見て来い。それも立派な勉強だ。
父の言葉に肩眉を上げた。
(羽目を外すな、か。こんな
決して腕っぷし自慢な訳では無いが、時には荒っぽい相手と商売することもあり、場数はそれなりに踏んでいる。父親は尚更だ。その父に「恐ろしい方」と言われるような人物が、平和そのものの村に居るとは俄かには信じがたい。
ともあれ、折角の空き時間だ。商団の仲間以外が開く露店を見物し、良い匂いを漂わせる屋台で貝の煮込みを買い求め、屋台の近くに適当に積まれた木箱に腰掛けた。
まだ熱い煮込みは、かなり美味しかった。満足し、機嫌よく屋台に器を返す為に一歩踏み出そうとした時、向かいの屋台と屋台の間の細い路地が目についた。
スルドゥージの口元がにやっと持ち上がった。父親の言いつけを破るつもりは毛頭なかったが、ただ言う通りにするのもつまらない。言い訳のきくぎりぎりが良い、そう考え、器を店に返した彼は、向かいの路地に足を踏み入れた。
路地を抜け少し歩くと畑が連なり、作業をしている人影がちらほらと目についた。街で育ち、旅暮らしのスルドゥージには馴染みの薄い景色だ。これ以上行っても退屈しのぎになりそうもないと考え、それでも何とはなしに歩き続けていると、前方に小さな人影が見えた。
自分の畑にでも向かってるのかな、等と考えながら道の端に避け、近付く人影を眺める。
(土地に縛られて生きるのは、どんな気分なんだろう? 生まれた地で育ち、結婚して、子を育てて、最後はその土地に還る……)
旅暮らしに慣れてしまうと、一か所に留まる生き方が退屈に思えてしまう。
(その良さは、きっと、俺には永遠に解らないだろうな)
珍しく考え込んでいたスルドゥージは我に返った。
遠くに見掛けていた人影は、何時の間にか、目鼻立ちが判る程近づいて来ている。
スルドゥージの心臓が跳ね上がった。
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