過去を振り返って
SNS上の東太は、決まって語尾に!を付けていた。そして投稿のほとんどは舞台の告知であった。東太のネットリテラシーは高く、SNSを軽く覗いただけでは住んでる場所や恋人の有無など一切分らなかった。
津野田が東太の投稿を全て読み終えるまで、一時間とかからなかった。そして掴んだ手掛かり、つまりは東太を知るための手掛かりも僅かなものであった。
東太は生前、ユーマイ劇団という小さな劇団に所属していたようである。だがその劇団自体はあまり活動的では無く、東太は劇団とは関係の無い個人企画の舞台によく参加していたようだ。しかしながら、その舞台を企画した人達は東太と深い繋がりを築いていた訳ではなさそうであったので、津野田はひとまずユーマイ劇団というものを調べることにした。そして、その劇団の代表者のSNSアカウントを見つけた。
劇団の代表者は、佐村ミサトという女性であった。伏し目がちのアイコンからも確認できる通り、右頬に三つのホクロが並んだ可愛らしい女性であった。そして東太が死んでいた日、彼女はクロックムッシュを食べていた。
ユーマイ劇団はもうほとんど自然消滅状態であるようだ。しかしタイミングの良いことに佐村ミサトは別の劇団の舞台に出る為の練習期間中であり、その劇団の稽古場は都内にあった。津野田は現在時刻が夜の10:30であり、まだギリギリ深夜ではない事を確認すると、彼女のアカウントにダイレクトメッセージを送った。内容は勿論、東太に関する事である。そして一応、東太が今は宝石になっていることも書き記しておいた。すると、程なくして返信が届いた。
その返信の要点だけ抜き出すと、
「明日の午後なら会えます。でも、お話しできることはあまり無いかもしれません。あと、宝石というのは何かの比喩でしょうか?」
と言うことであった。
それに対して津野田は、
「構いません。では明日、そちらの都合の良い場所でお会いして頂けませんでしょうか。宝石は比喩じゃないです。」
と返した。そして2人は、佐村ミサトの稽古場の近くのカフェで会う事となった。
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