もずくの味噌汁

 僕は東西のちょうど真ん中で生まれ育った人間だから、出汁にこれと言った拘りは無い。


 基本は顆粒の鰹だしを使うし、昆布をふやかして使うだけ時もある。それでもやっぱり、多少の拘りはあるみたいで、味噌は必ず赤味噌だ。


 合わせ味噌も美味しいけれど、やっぱり一日の始まり、体のリセットには馴染み深い赤味噌で飲みたくなる。


 そんな僕の頑張った時のご褒美は、もずくの味噌汁。


 これは僕の緩い決まりだ。


 スーパーで売っている生のもずくを水で洗い、手鍋に沸かしたお湯でさっと下茹でする。特に色が変わったりするわけじゃ無いので、大体20秒ぐらいだろうか?茹だったらザルに開けて、冷水で晒して粗熱を取る。


 その間に昆布出汁を作る。手鍋に切った昆布を入れて、お湯をかける。

 沸騰する前に火を止めて、昆布が開いたら下茹でしたもずくを入れる。


 これは個人的な意見だが、海のものの風味が強い時は、鰹を入れると相殺してしまう気がするのだ。例えば海老の味噌汁も、鰹を入れると風味がぶつかってしまって、折角の海老の特徴的な香りが弱く感じてしまう。


 だから僕は、あえて昆布を使う。


 昆布の控えめでありながらも旨味とコクを寄り添わせる様な優しい風味が合う──和食は本当に繊細だ。


 まぁ、僕の意見は置いといて、もずくが馴染んだら鍋の火を止める。味噌漉しに赤味噌を入れ、味の素を少々。


 これで十分な気もするが、ご褒美には少し物足りない。


 もう一度火をつけ、味噌汁がふつふつと沸騰する直前、溶き卵を出来るだけ鍋の外側に菜箸を伝って細く注ぐ。蒸気が気泡となって踊る水面に落ちた卵は、瞬く間に帯を作って泳ぎ出す。


 ふわふわと浮かんだ卵に満足した僕は、火を止めて細かく切った小ネギを散らした。ふわりと湯気に乗った味噌と磯の香りが僕の胃袋を刺激して、早く箸をつけろと誘惑するので、片付けもそこそこに席につく。


 この味噌汁なら炊き立てのご飯さえ、いや、ご飯すら無くともご馳走になり得る。


 僕は手を合わせた。


「いただきます」

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