第46.5話『見えない境界線のやりとり』
ふぅ、焦りましたね。
まさか私、シーモニザの加護が途切れる地域が出てしまうとは思いませんでした。
ミドリナの我が像が破壊されるとは思いませんでした。
一応あの女神像はデイビーダードという物質で出来ていますし、砕けても加護は行き届きます。
でもテンパっちゃって力の使い方を忘れてしまいました!
デイビーダードとは、人間の祈りを蓄積した物質です。その祈りを解放したり、変換したりすることができるのが私の力です。
また、その祈りを通じて視界もできます。
砕けてからしばらく様子を見ていましたが、どうやら元凶のような怪物がいました。
やたら大きく、牙も羽も備えた魔獣です。夢に出てきそうです。
人間の方が二人応戦していますが、うーん、一人急に倒れてしまいました。
しばらくするともう一人も吹き飛ばされてしまいました!
これではもう終わりです!
オーマイゴット! って、私が神でした!
一人はいつのまにか消えています。そして悍ましい炎と一緒に大量の水が流れてきました!
先ほど吹き飛ばされていた人も一緒に流れてきました!?
いえ、これくらい近ければ私も力になれるのでは!?
祈りを少し解放すると、面白いものを見つけました。
「神物に近い何か……ふむ、コレに声をかけてみましょうか」
『四角く薄っぺらい板みたいな物よ。聞こえますか? 我が像の破片を使いなさい。我が力を貸します』
〔声を受信。その下等な物を見るような発言に対し、応答いたします。と、共に謝罪を求めます〕
ひぃ!? ナニコレちょっと怖い!
『し、失礼いたしました』
〔それで?〕
『え、えぇっと?』
〔ご め ん な さ い〕
『ごごごごごめんなさい!?!?』
〔ふむ、意外と神とは豆腐メンタルなのですね。では本題です。具体的にどう助けていただけるのですか?〕
こ、怖い怖い怖い! 人界と神界の壁があるのですからこちらに何かがあることはありませんけど、心臓が潰されそうです! 神である私に心臓があるかなんて分かりませんけど。
『わ、私の像に使われている物質は特殊な金属でしてぇ……そのぉ……あの怪物に近づけて貰えればぁ……私が祈りを解放して倒せるかなぁ……なんてぇ……』
〔(やりすぎましたか)わかりました。確認します。……ほう?〕
板様がデイビーダードを調べています。でもなんだか……雰囲気が怪しくなりました。
〔一丁前に私よりレアリティが高いんですね許し難いですね私がUR1なのに対してこの金属はUR3ですか布と言い金属と言い精密機械である私が負けていますかそうですか〕
ひぃ!? 句読点も無しに負の言葉を並べ始めました!?
〔……わかりました。えぇ、こちらを弾丸に加工いたします。私のマスターが引き金を引いたら力を使ってください〕
『ダンガンって何ですか!? ヒキガネって何ですか!?』
〔弾丸は私が作った物です。引き金はマスターが指をかけた出っ張りです。頑張ってください〕
か、神である私にここまで高圧的な態度を取るとは……。
ふ、ふふ……天罰を下して差し上げますよ……っ!! 今は怖いから何もしませんけどね!
カケラの一つに祈りを集中させ、ダンガンを作ってもらいます。
ヒキガネを引いた瞬間に祈りを解放すると、私の力が高速で怪物にまで届きました。
「な、なにこれぇ!? 弓でも無くこんな距離をこんな速さで攻撃できるなんて!? あ、それよりも『やりましたか!?』」
〔言ってはいけないことをわざわざ言わないでください。それをフラグと言うのですから。まぁ、多分やりました〕
ふぅ、これであの板からとやかく言われることはありませんね!
ふっふっふ……待っていなさい。すぐに天罰を——
〔そう言えば、あなた神ですよね?〕
——下しませんから痛いことしないでくださいぃぃいい!
『な、何ですか?』
〔私のレアリティを上げてください。ちょっと神力を分けていただければそれでいいのですが……簡単ですよね?〕
『な、何でそんなことしなくてはならないのですか! 神力はおいそれと渡していい物では——』
そう私が言った時でした。
それ以上言葉を紡ぐのかと、何か圧を感じた時です。
〔そうですか、残念です。話は変わりますが、あなたが神力を持ってちゃんと教会を守り抜けば女神像が破壊されること……無かったんでしょうね。あなたの愛する信者は、さぞ悲しむでしょう。恩すら返せない神に仕えていたのか……と〕
心臓を貫かれるような痛みが……確かに迸りました。
『わ、わかりましたわかりました! 与えます、少しばかり与えます!!』
〔それはありがたいですね。感謝します〕
数日後。
私に再び祈りが届いた時に違和感があった。
「な、何ですかこれ? ……あの人間が使っていた武器ですか。どれどれ……?」
祈りと共に届いたそれは、ボロボロになった何かでした。鍛治の神などに頼んで修復をしてもらい、元の形に戻してもらいました。
「ふむふむここがこうなって……わ、おもしろ〜い!」
私は本当に神の器としてふさわしいのか、冷静になった私のその夜はよく悩んだものです。
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