第16話『決闘(後)』

 息を整え、ベイルからナイフを離す。お互いに向かい合って握手を交わした。


「あなた、強かったのですね……。僕も色々と間違っていました。アイリスさんのことは好きですが、諦めます。この度の無礼をお許しください」


 結構乱暴な人かと思ったが、ちゃんと謝れるすごい人だ。ネットゲームだと罪のなすりつけ合いが多いからこう言う人は本当に強くなれる。見習いたいね。


「い、いいよ、頭まで下げなくても。こっちもその……悪かった。額大丈夫か? ……これの硬いところ当たっただろ?」


 ベレッタを拾い上げ、腰に戻す。


「はは、痛かったですが、いい薬になりました」


 そんな話をして、闘技場のフィールドを後にすると、出口で色々な人に囲まれた。


「アンタすげぇな!?」「あのベイルさんに勝っちまったのかよ!」「本当にFランクなの!?」


 こんな新鮮な反応久しぶりだ。ゲーム配信だとみんな俺の行動に見慣れてきて、変なところにツッコミを入れる人が増えていたからなんだか嬉しい。


「セトラさ〜ん!!」


 人混みを無駄に綺麗な身のこなしで掻い潜ってきたアイリスが先頭まで出てきた。


「素晴らしかったです!最高です!私の贈ったナイフを使っていただき光栄です!これよかったら受け取ってください!」


 すごい早口で称賛を述べるとドーナツのような菓子が入った袋を取り出してきたので慌ててアイリスに戻す。


「あとで受け取るから、人前で投げ銭コメントみたいなことはやめてくれ!?」

「あうぅ……貢がせてくださいぃ……」


 怖い。この貢ぎマゾ怖い。

 俺の戦闘に興味を持って囲んでいた人も、アイリスの行動に引いていつのまにかいなくなっていた。

 まあ、これからギルドでベイルと会わなければならなかったし、丁度いいか。


 ギルドにて。受付の人とベイルの待つカウンターまで行き、決闘の賭けたものとして相手にお願いをすることだった。

 うーん。根は悪い人では無さそうだし、魔石をいくつも頼むのも少し気が引けるな。


「えぇっと……じゃあ魔石が三つ欲しい。種類はなんだっていいが……」

「「え?」」


 ベイルだけでなく受付の人にまで驚かれてしまった。

 あ〜やっぱり多い? じゃあ一個でもいいんだけどなぁ……。


「待て待て、そんなものでいいのかい? こっちからふっかけた喧嘩だったのに、そんな安価なもので……」

「魔石って安いのか? じゃあ欲張って五つ貰っても……?」

「五つのどこが欲張りと言うんだい!?」


 結局、デグルベアの魔石を八個受け取った。こんなに貰ってもいいのだろうか。大魔石持ちだ。

 これで銃がさらに長持ちする。新しい銃を作ってみるのもいいかもしれない。


「魔石程度でなぜああも喜ぶのだ……」

「そう言えばミナセさんって一度も魔石を売ったことありませんでしたね……」


 どうやら魔石趣味だと思われているようだが、俺は十分満足した。

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