第13話『闘技場』

「決闘だ。お前を殺す」

「嫌だもう帰りたい……」


 アイリスに好意があると見られるイケメンが決闘を申し込んできた。よくある展開にも見えるが、この勝敗一つで女心が動くものなのだろうか。


「お前……っ!!」


 アイリスが怒気を含んだ声でイケメンの腕を掴んだ。


「セトラさんを殺す……? どれだけの大罪か分かって言っているのかしら? 【フィジカルブースト】」


 そう言って、魔法を詠唱、発動すると腕当てもろとも腕を握り折った。


「ぐあぁ!? ……アイリス、さん? なんでこんあことを……!」

「あああアイリス!? 落ち着けって……アンガーマネジメントだ。六秒目を瞑れ」


 俺の指示にすっと従うと、【フルヒール】と言って折れていた腕を元に戻した。


「少し頭に血が昇っていました……。足を折って無力化させます」

「違う、そうじゃない」


 本気でまずい。アイリスは激怒しているし、イケメンはこっちを鋭く睨んでいる。


「お互いに少し落ちつけって……な? 決闘は受けてやるし、俺は死ぬ気はないから……あっ」


 丸くその場を収めようと変なこと口走ってしまった。死ぬ気がないのは本当だが、決闘は受けたくなかった。


 二日後。

 王都東の方に位置する『闘技場』と言う施設の真ん中に俺は立っていた。

 二日前の俺を殴ってやりたい。


〔ピロン♪〕

 マスター。宿屋で話した通りに戦いましょう。人目がある状態での銃の使用は危険です。


 だよなぁ……。銃さえあればこんな見せ物すぐ終わるのに……。

 この決闘には観客が割と多い。まず、対戦相手のイケメンは冒険者の間でかなり有名らしく、アイリスと同じく冒険者ランクはAなんだとか。

 対する俺は冒険者ランクはF。ランクだけ見れば底辺だ。

 しかし、そんな俺を応援する声が複数あった。

 一つはアイリス。大きな布に『必勝セトラさん!』と書かれたものを高く掲げている。恥ずかしいからやめい。

 もう一つはギルド職員。よく俺を担当してくれている人だ。


「ベイル〜! ボロ布被ったやつなんかに負けるなよ〜!!」

「ベイルさ〜ん! 実力差見せてやれ〜!!」

「ベイルさ〜ん! (以下略」


 あのイケメンはベイルと言うのか。覚えておこう。

 ちなみに、この決闘には勝者が敗者に一つお願い事をできると言った内容になっている。俺は勝ったら魔石をいくらか貰おうと思っているが、相手は何を望んでくるか……。


 対峙するベイルの装備は片手直剣に盾。そして腰に小さめの杖を装備している。おそらく魔法を使う際に使うのだろう。堅実な戦い方をしてきそうではある。

 対する俺はナイフ一本と飾りと化した腰の拳銃。このナイフはアイリスから貰った(貢がれた)ものだ。早速使ってあげたくなったのだ。

 観客席の目立つ横断幕を持った少女に目をやると、パタパタと『必勝セトラさん!』を振って喜んでくれる。手を振っともっと喜ばれた。

 てかアイリスのやつ、受付の人と隣になって見てるのか。


 審判がやってきて、選手読み上げをする。

 手をまっすぐ伸ばし、素早く上に振り上げた。


「始めぇぇえええっ!」

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