第5話『寝かせてくれない』
一夜が明けた。
頭がぼーっとするような、むしろ頭が冴えてるような、眠気に慣れた果ての脳がバグっている。
〔周辺の明るさは充分です。人の集落、少なくとも洞窟等を探しましょう〕
「ちょ、ちょっと寝てからじゃダメか?」
〔マスターは昨夜、デグルベアの肉を食べたままです。歯磨きもせずに寝ることはお勧め致しません〕
「歯ブラシ無いんだが……」
〔頑張って素材を集めましょう。私がクラフトいたします〕
なんたる鬼畜。さては歯ブラシの素材が見つかるまで寝かせる気ないな。
しょうがないのでなるべく街があるであろう場所を目指して歩き出す。
やはり頭は冴えているのか、俺は名案を思いついた。
昨日未明、デグルベアを倒した時に居合わせた冒険者と思わしき四人組。あの人たちが去っていった方向を辿れば流石に集落があるはずだ。
この考えをアフエラに伝えると、〔まともかつ冷静な判断がマスターにもできるのですね〕と言われた。コイツ電源切ってやろうか。
自分の考察通り、三時間ほど歩くと立派な外壁があった。
「あった……あった……。俺もう無理だ……」
〔マスターは学生では無かったのですか? 男子高校生は一日くらい寝ずに過ごすこともあるはずですが〕
「俺は二十四時間ぶっ続けで起きたことなんて無いぞ……」
〔意外と育ちがいいのですね〕
「ツッコむ気力は無いぞ……」
門番に話しかけ、持ち物のチェック等をされて壁の内へ入る。
そこは、老若男女で賑わう中世ヨーロッパ風のファンタジーそのものだった。
「よ、ようやく……ようやく……」
〔マスター、歯磨きがまだです〕
「……くそったれ」
その後、デグルベアの肉を冒険者ギルドという場所に売り、お金を作って歯ブラシを買い、INNと書かれた宿泊施設で一日を寝て過ごした。一度昼頃に起きたようなのだが、空腹も忘れてさらに夢へ堕ち、次起きたのは翌朝だった。
〔マスター、おはようございます〕
「? そうかそうか。そうだったわ。俺異世界転移したんだったか……あれ? 転生だっけ?」
〔判断しかねます。鏡を見ていただいた方が分かりやすいかと〕
アフエラの言う通り、鏡の前に立つ。そこに映っているのは、俺のよく知る存在しない姿だった。
青い目の瞳孔が黒と白のオッドアイに、青い髪。個人的には見た目かなり良いと思っている容姿の整った姿。
よく見れば服装だって見覚えがある。
真っ黒いレザー生地の服。その上に、真ん中に穴の空いた白いボロ布。ちなみに言っておくが、このボロ布がいい味出してる。
そう、俺がよく配信でやっていたゲームのアバター。その名は『セトラ』であり、ネットでの俺の分身である。
「か……かっこいい……!! なあアフエラ! お前もそう思わない!? 特にこのボロ布とか!!」
〔その布は防寒用でしょうか? それとも防弾用でしょうか? 買い替えることをお勧めします〕
「ちげぇよ! 何でこのかっこよさがわからないかな……」
機械に感性を求めるのは、どうやら間違っているようだ。
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