ストーリークリア後に戦える裏ボス系転生者

ねうしとら

第1話

 試作短編です


─────────────


 突然だが、俺は転生者である。転生先はファンタジー世界。俺には一つの夢がある。それは、ストーリクリア後に戦える隠しボス的なポジションの人間になることである。


 ゲームのクリア後コンテンツとして、こういう裏ボスと言うのはどこにでもいる物だ。ストーリーの根幹に直接関わることはないが、本編クリア後に戦うことができる、味方のレベルを十分に上げておかなければ勝つことが困難な難敵。

 ストーリー上では味方であり、システム上戦うことができない人物が裏ボスであることもある。全くストーリーと関係ない、クリア後コンテンツのためだけに実装されている裏ボスと言うこともある。ゲームシステムを解説してくれる便利キャラだと思ったら、実は裏ボスだったというパターンもあるだろう。


 俺はそういう、裏ボスになることに憧れていた。


 だが、前世ではそんなことは出来なかった。前世はこんな超常的な力などなかったからだ。だが今世は違う。超常的な力が日常であり、一人が千の軍に勝つこともあり得る世界。個の力が圧倒的に強いということが罷り通る世界だ。


 そこで俺は決めた。誰かにとっての裏ボスになってやろうと。


 そのためには何をするべきなのか。そうだな、まずは俺に向かってくる主人公となるべき人物が必要だ。そして、俺が裏ボスとしてのシチュエーションとして認める状況が必要である。


 ではその願望を実現するためには何をするべきなのか。複数の項目に分けて考えよう。


 まず一つ、俺自身の実力。これはどれだけあってもいい。俺に向かってくる主人公ポジションの人物が勝とうが負けようが、俺が裏ボスとしての存在感を示せればそれでいい。


 二つ目、裏ボスとしての力を振るうことができる状況を作り出す。これは幸か不幸か、この世界には巨悪と言うべきものが蔓延っている。善と悪の派閥に分かれて争っているのだ。ストーリー上味方であるから戦うことができず、クリア後に戦うことができる裏ボスと言うポジションであれば演出することは可能だろう。


 三つ目、俺に挑んでくる人物。どんな人間でもいい。俺が味方であり、最終的に俺に向かってくるのであれば誰でもいい。


 以上の条件を満たすために、俺はとある組織を結成することにした。この世界は『混沌』と『秩序』の陣営に分かれて日々争っている。そんな世界であるから、どこにも居場所がないという人間は意外といる。元混沌陣営だったとか、望まない力を得てしまって迫害されたとか。そういう人々を集めて、そうだな、まあ目的はどうでもいい。構成員が望むことを各々やってもらえばいいのだ。


 思い立ったが吉日。俺は構成員探しと自らの実力向上のために武者修行の旅に出た。

 時には魔物を倒し、時には『混沌の神』の信奉者を相手に殺し合い、時には『秩序の神』の信奉者に喧嘩を売り、時に死にかけ、そんな生活を続けていたら、俺にも実力が身についてきた。


 裏ボスとしては及第点もいいところなのだが、それでも最低限裏ボスとして恥ずかしくない実力は身についてきた。だが、俺は強さを追い求めるがあまり構成員を探すというもう一つの目的を忘れてしまっていた。これではただ強くなっただけの修行僧である。


 俺は猛省した。俺が裏ボスとして十分な実力を振るうに値する主人公ポジションの人物を探さなくてはならない。そこで、俺は今まで鍛えてきた分の時間を構成員探しに当てた。


 そこで出会ったのは竜人の娘だった。


 彼女の体はボロボロで、今にも死んでしまいそうなほど弱っていた。竜人は『均衡』を信奉する一族だと聞いたことがあるが、彼女の体から湧き出る気配は『混沌』のソレだ。恐らく神に愛されたのだろう。それが望まぬものであろうとも、愛されてしまったのだ。


 見つけた。と俺は思った。


 どんな事情があるのかは知らないが、『混沌』の恩寵を得ている『均衡』の信奉者。コミュニティ内ではさぞ迫害されたことだろう。

『混沌』の気配を漂わせているとは何事か。こいつは一族の裏切り者だ。そんな風に罵られながら追放されたに違いない。


 俺は今にも気絶しそうだというのに、この世の全てを憎み、恨み続けている瞳を射抜きながら問うた。


「生きたいか?」


 ぶっきらぼうに問いかけた俺の言葉にピクリと反応した彼女は、言葉の意味が分かるなり是非もなくゆっくりと首を縦に振った。


「なら、俺の仲間になれ。お前のしたいことをさせてやる」


 そう言いながら俺は倒れている彼女に手を差し伸べた。そして、彼女はそれを迷いなく掴んだ。


 一人目の主人公ポジ。ゲットだぜ!














 私にとってボスは命の恩人で、尊敬する人物で、同時に嫉妬の対象だ。

 私は、高貴なる龍の血を受け継ぐ竜人の一族に生まれながら、『混沌』の寵愛を受け、一族から裏切り者の烙印を押され、暴言と暴力にまみれながら集落を追放された一族の恥さらしだった。


 集落を追放され、追放の際に受けたあらゆる暴力によって既に動く気力もなくなっていた私を拾い上げてくれたのがボスだった。


 あの時は何も考えることができなかったけど、とりあえず聞こえる言葉に本能から頷いていたのだ。何を言っているのか分からない。だけど、この人には従わなくてはならない。そんな直感からもう働くことすら放棄しかけていた脳をフル稼働させ、私はこの人の手を取った。


 その後のことはあまりよく覚えていない。気が付いたときには私は小綺麗にされていて、上等な服を着せられていて、酒場の席に座っていたのだ。


「まずは腹を満たさないと何もできないからな」


 目の前でそんなことを言う彼を見て、私はよく分からなかったが、とりあえず食えと言われたので礼儀も礼節も弁えず、食欲の赴くままに私は暴食の限りを尽くした。


 身内だと思っていた人たちからありとあらゆる暴力を尽くされていた私の心に、目の前の男性から受けた施しが、どこまでもひび割れた心の隙間を埋め尽くしていて、気が付いたときには涙を流していた。


 そこから先のこともあまり覚えていないが、気が付いたときには私は宿屋の一室で寝ていたようだった。目を覚まし、日光を浴びる私の下に現れたのは、私を助けてくれた彼。


 私の部屋の扉を開き、私に何がしたいのか聞いてきた。


「お前は一体何がしたい。ああいや、別に身の上を話せってことじゃなくてな、ただ何がしたいのかを言ってくれればいいんだ」


 その気づかいに私は救われたのか、それとも彼に甘えることを是としてしまったのかは分からないが、その時の私にしてみればありがたいことだった。あまり思い出したくもないことだったから。


「したいこと。それは、この身に課された呪いを解くこと、です」


 そう言うと、彼は少し驚いたように目を見開くと、私に向かって衝撃的な一言を言った。


「呪いとはまた面白いことを言う。まあ、確かに君にとっては呪いそのものなのかもしれないが、それは単なる神の寵愛だからな。解く方法があるのかどうか……」


 私にとって衝撃的だったのはこれが神の寵愛だということではない。私のやりたいことを笑わなかったというただそれだけのことだった。

『混沌』の寵愛を受けている私を助けた変わり者なのだから、てっきり『混沌』の信奉者だと思っていたのだ。だから、私がこの力を手放したいと言ったら、猛烈に反対されるのではないか、下手したら殺されるのではないかと言う覚悟を持って発言したのだ。


 だというのに、彼は真面目に私の発言の実現を考えている。


「あ、あの……。貴方は『混沌』の信奉者ではないんですか……?」


 たまらず私はそう聞いた。だが、返ってきた答えは私が望むものそのものだった。


「俺が?……いや、俺はどの陣営にも所属してないな。まあ、カテゴライズするなら『均衡』になるのか?」


 なんと彼は無信奉者であったのだ。『秩序』にも『混沌』にも、はたまた『均衡』のどの派閥にも属していないという。


 嬉しかった。私を私として見て助けてくれたという事実に感動した。『混沌』の寵児だとか、竜人だとか関係なく私を助けてくれたのだという意思が伝わってきた。


「そうだな。それを解きたいなら神殺しくらいしか思いつかないけど、どうする?やるなら力を貸そうか」


 こともなさげにそんなことを言う。それがどれだけ常識はずれであることを彼は正しく理解出来ているのだろうか。だけど、この時の私にとって、彼のこの発言と態度は、あまりに眩しく、そして力強かった。


 気づけば私は彼の下に跪いて、忠誠を誓っていた。


 この身が果てようとも、決して貴方に逆らうことはいたしません。と。私は彼の魅力に酔ってしまった。私は生涯をかけてこの身を捧げる主人を見つけることができたのだ。


 だけど、少しばかり嫉妬してしまう。その眩いほどの強さに。その強さが、私にも宿っていたら、一体どれだけ……。いや、考えるのはよそう。私が惨めになるだけだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る