第32話
「もたもたするな! 急げ!?」
なんとか
だが、ジェイドから厳しい口調で一喝された。
前に向かって、とにかく走る。
ジェイドは足が速いが、ニウがその速さについてこれない。
水鳥のような細い足なので無理もない。
彼女の足に合わせているとジェイドが振り向いた。
「こっち側に隠れろ」
先ほどと同じく石柱の裏に隠れる。
角度的には白い部屋の方向から斜めくらい。
同じく
巨猿の時もそうだった。
そもそもこの部屋が音を消す仕組みが備わっているのかもしれない。
それにもかかわらず、ジェイドはいち早く察知する。
石柱の後ろに隠れる時間を十分与えてくれるので非常に助かる。
ジェイドがこの場にいなかったら、詰んでいたと思う。
計6回の
「早く飛べ!」
大人の身長ほどの高さにぽっかりと開いた穴。
人ひとり通れるかどうかの狭い通路だった。
ジェイドが先に通路に入り、手を差し伸べる。
ニウの痩せ衰えた今の足では届かない。
「ニウ、ごめん!」
「……ひゃんッ!」
先に謝る。
そして同意を得ないまま、彼女を横抱きしてジェイドへ放り投げた。
「サオン!」
真横から
ジェイドがニウを受け止め、もう一度こちらへ手を差し出す。
ダメだ。もう間に合わない。
ふたりは無事で済むが……。
迫る
あれ?
左肩が急に引っ張られる感じがした。
その直後、近くの石柱の
「おい、サオン……ソイツはなんだ?」
こっちが聞きたい。
なんなの、これ?
ジェイドに聞かれるまでもなく、目を凝らしてよく見る。
左肩に赤い腕が生えている。
その腕が伸びて石柱に巻き付き、ここへ引き上げたようだ。
すぐに赤い腕は、左肩に引っ込んだ。
それと同時に2
とりあえず、この場に留まるのは危険だ。
狭い通路へよじ登り、屈んだまま、奥へ行く。
次の部屋へ出て、安全かを確認した上で自分の左肩を見る。
破れた服の下には例の赤い痣があるだけで触っても違和感がない。
ジェイドも念入りに部屋を確認した後、戻ってきて左肩を見る。
「呪い……か、厄介なモンを背負っちまったな」
それは言えてる。
でも、あの不気味な赤い手が引っ張り上げてくれなかったら危なかった。
もしかして助けてくれた?
早急に結論づけるものでもないし、なにより情報が少なすぎる。
やはり当初の予定どおり、街に帰ってからよく調べてもらおう。
気を取り直して、部屋をもう一度確認する。
縦に細長くて、先の方には吊り橋が架かっている。
踏板の幅は狭く、ひとり通るのが精いっぱい。
左右に踏板を吊り下げる縄が張ってある。
その左右の縄を両手で掴みながら渡れば、うまく渡れそう。
対岸は暗くて見通せないのでかなり距離があると思う。
吊り橋の下は例のごとく見えないほど深い。
どうせ落ちたら無事では済まないので下は見ないように渡ろうと思う。
「俺が先に様子をみてくる」
合図をしたら渡ってきてくれと言い残し、闇の中へ消えていった。
しばらく待ったが、合図が来ないし、呼び掛けても返事もない。
吊り橋から落ちたか、渡った先で魔物に襲われたか……。
だが悲鳴が聞こえなかったので、その可能性はない?
でも先ほどの大空間のように音がかき消されるのであればわからない。
どちらにせよ、誰かが吊り橋を渡って確認しなければならない。
「じゃあ先に行って見て……えっ」
吊り橋を渡ろうとしたら、ニウに袖を引っ張られた。
「……いで」
「ニウ、どうしたの?」
声が以前のように小さくてよく聞こえない。
心配になって、聞き返したら今度ははっきりと聞こえた。
「置いていかないで」
詳しく事情を聞くと、ニウは高所恐怖症らしい。
ジェイド同様、自分が戻ってこなかったらと思うと怖くなったそうだ。
「大丈夫、置いて行かないよ」
「本当?」
薄桃色の瞳が少し濡れているように見える。
よほど怖かったのかもしれない。
安心させるようにゆったりとした口調で説得し、一緒に行くことにした。
「目を瞑ったまま、しがみついて」
ニウを背負っていくことにした。
子どもくらいの体重なので、鎧を着ていると思えばなんてことはない。
細い手足と思えないくらい強くしがみついてくる。
それだけ怖いんだと思うと、口元が緩んでしまいそうになる。
気を引き締めて、吊り橋を渡りきると、先の方でジェイドが倒れていた。
うつ伏せに倒れている?
離れたところから見る限りでは外傷の類はない。
前のめりに倒れたということは後ろから襲われた?
いや、違う。
ジェイドなら罠だろうが魔物だろうが背後からの脅威に気が付くはずだ。
音をなるべく立てないようにしながらニウを背中から降ろす。
魔物らしきものはどこにもいない……。
罠が作動した後もなく、静けさを保っていて不気味だ。
ニウとふたりで静かにジェイドに近づく。
あれ……なにをされた?
意識が朦朧となり、真っ暗になっていく。
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