第30話


「ぐぅっ!」

「サオン!?」


咄嗟にかわしたが、左肩に何かが食い込んだ。

はっきりとは見えなかったが、赤い棘のようなものだった。


痛みがひどく、顔から脂汗が滲み出る。

死ぬのか?

まあ、その方がいいかも。

このまま動けないままになれば、ふたりに迷惑がかかる。

次に再演ループしたら磔にされた骸骨には近づかないでおこう。


意識が無くなっていく中、そのように考えた。





「──サオン、気が付いたか?」


目を開けると、心配そうに見下ろすジェイドとニウがいた。


嘘……再演しないまま目が覚めた?

あの激しい痛みは、まさしく死ぬ前に感じる痛みによく似ていた。

だからもう助からないとばかり思っていたのに……。


「左肩は痛むか?」


ジェイドに聞かれるまで、左肩を襲った痛みのことを忘れていた。

それぐらい痛くもなんともない。


刺された部分を触ると服に穴が開いているが、それ以外はなんともない。


「なんだ、その赤いのは?」


触っても違和感が何もない。

だが、首を竦めて頑張って見ると、破れた服の下が赤くなっている。

赤い痣のようなものができていた。


「たぶん呪い……」


ニウがボソッと呟く。

呪い?

骸骨に近づいただけで呪われた?


ニウにこれが何なのか訊ねたが、よくわからないと言われた。


「体調はどうだ? 身体が重いとか、痺れているところがあるとか?」

「特に……ない」


まったくもって、いつもどおり。

それどころか、いつもより調子がいいぐらいかもしれない。


「問題無いなら、先を急ぐぞ」


ジェイドは、この50階層の目的地が気になるらしい。

もし、ハズレだった場合、49階層へ引き返さなければならない。

幸い、緑小鬼の巣には他に魔物が見当たらなかった。

戻る場合の食料と水のことを考えると、ぐずぐずしていられない。


白い部屋を抜けると、今度はどこまでも広がる薄暗い大空間へ出た。

等間隔に石柱が反り立っていて、天井が見えないほど高い。


られてるな……」


ジェイドが声を潜めてそう言うが、まったく気配がつかめない。

ニウも何も言わずにジェイドの後をついていく。

あまりにも広すぎるので、ジェイド、ニウ、自分の順で隊列を組む。

ジェイドはこの大空間に入ってからずっと弓を番えたまま、警戒を解いていない。

そんなに危ないのか?


全然、なにも感じない。

あまりにも薄暗いので、必要以上に心配しているんじゃ?

ジェイドの気を紛らわせようと目的地までの目安を質問することにした。


「ジェイドあのさ……」











られてるな……」


え……。


これって、数十秒前の光景じゃ?

ジェイドが声を潜めてそう呟くのをさっき見た。

目的地まで、どれくらいかかるか質問しようとしていたのに。

ふたりとも、周囲の警戒を怠らずに慎重に前へ進んでいる。


気付かないまま、やられた?

もし、そうならどうやって攻撃を受けた?

それとも罠が作動したのか……。


気を抜いていたわけではなかった。

周囲を気にしながらジェイドに話しかけたので、油断をしているつもりはなかった。

それにジェイドやニウにもこれといった反応もなかった。

ということは3人の意識外の何かで即死になるような出来事が起きた。


2回目はいっさいの油断をしなかった。

ふたりの死角である後方がいちばん怪しい。

先ほどやられてしまった場所付近で、後ろ向きになる。


見えていれば対処はできるはず。

黒大鬼の戦いで目覚めた知覚する速さが飛躍的にあがる能力。

飛んでくる矢でさえ、たぶん払い落とせる。

だから気負わず意識を集中してただ待てばいい……。








られてるな……」


マズイマズイマズイ!


再演ループする理由がまったくわからない……。

このままではダメだ!?

なんとかしないと。


「ジェイド!」

「……なんだ?」


ジェイドが矢を番えて前方を警戒したまま返事をした。


「隣から行こう」

「なんで?」

「なんとなく」


理由を話したところで信じてもらえない。

勘だと答えると舌打ちが返ってきた。

だけど、なんだかんだ言ってこちらの言い分を聞いてくれた。


罠の類かもしれない。

その場合は同じ場所を通らなければ回避できる可能性がぐっと上がる。

今度は何事も起きないようにと祈ったが叶わなかった。


られてるな……」


──ダメだった。

また何が起きたかわからないまま再演ループした。


ジェイドに嫌な予感がするから右へ進もうと話す。

聞き届けてくれたので、右へ進んだが、しばらく行くと再演ループした。


この場所自体が、なにか見えない力が働いているのか?

でもニウからは、それといった話がない。

彼女なら視えないものが視えるらしいので、違うかもしれない。

でも、ニウ自体が知覚できない力がある可能性もあるので、はっきりとはしない。


ここは引き返したいところ。

だが、ジェイドが持つ迷宮断面図上では目的地はこの先にあるらしい。


「3人、別々の柱の間を通って進もう!」

「はぁぁぁ~~~~~ぁっ?」


ジェイドが眉間に皺を作るのは仕方ない。

自分でもちょっと何言っているかわからない提案をしているのはたしか。

だけど、このままでは何度だって同じことが繰り返される。


でも、そのお陰でようやく謎が解けた。

柱を挟んで中央がジェイド、左側がニウ、右を自分が進む。


ズンッ、と地響きの伴なった重苦しい音。

隣を見ると、ジェイドが潰されていた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る