第20話 


「サオン隊長!」

「皆、その人から離れろ!」


三つ子のミカ、ルカ、シカの3人が前に出ようとするが制止する。


「弓兵、何をしている!? はやく撃て!」


ミカがそう言うと我に返った弓兵が一斉にカぺルマンへ矢を放つ。


カカカッと巨剣を横にして剣の腹で矢を受けた。

次の瞬間、野生の動物を彷彿させる速度で移動する。

走りながら、巨剣を振り回し、自軍の兵を次々に斬り飛ばしていく。


「ぁぁああああッ!」


近づいてきた。

渾身の一撃を振り下ろす。

すると、嘘みたいな威力で跳ね返され、後方へ吹き飛ばされた。


体勢が崩れたまま、距離を詰められ、耐え切れたのはたった1度。

地面に背中から倒れて、その後は記憶がなく、次の再演ループへと移行した。







「あれ? ここは……」

「サオン、お前、頭でも打ったのか?」


ジェイドとゲイドル火山から連れ帰ったニウが隣にいる。


ジェイドに聞くと、今は第3大陸暦101年6月だという。

それが本当ならフェン・ロー平原での戦いの約3ヵ月前に遡ったことになる。


嘘でしょ?

これまでは、その日の朝に再演ループしていたはずなのに。

今までと何か変わった点があった? 

これから死に戻りする度に3ヵ月近く時間が戻る?

情報が少なすぎて、さっぱり分からなくなった。


「今、なにをしてるんだっけ?」

「おいおいマジか?」


ジェイドは気味悪そうな顔をしながら、今日の予定を教えてくれた。

これから首都クレイピアでニウの服を買いに行く日。


シンバ将軍やカルテア王女から彼女を保護する許可をもらった。

だが、許可条件として、しっかり面倒を見るようにとのことだった。


ジェイドはクレイピアに詳しいそうなのでついてきてもらっている。

死に戻りしてきたので、これから起きることを思い出してきた。


ジューヴォ共和国の首都はキサ王国王都テジンケリより治安がいい。

街中では滅多に争いごとも起きないと言われているそうだ。

にもかかわらず、厄介ごとが向こうからやってきた。


「この人形を買っておくれ」


キサ王国でもたまに見かけた人形売りのお婆さん。

街中を歩いていると、こういった老婆がたまに声をかけてくる。。

人形を売るだけで、物乞いにも見えるが、普通は無害なご老人だ。


だけど、今回、近づいてきた人形売りのお婆さんは違っていた。

ジェイドが盗賊ギルドで用を済ましている間、建物の前で立っていた。


前回もここで立っていたのだが、同じようにその時も声をかけられた。

貧しい人に施しをするのもこの国への恩返しになると考えていた。


だから、人形を買おうと財布を出した。


「きぇぇぇ! この若者がワシからお金を奪いおったぁぁ!」


ほら出た。

地元の人って、なぜかよそ者を見抜けるんだよね。

よそ者だと確信して、近づいてきたと思う。


お金を払おうとした瞬間、老婆が騒ぎ立てた。

すると、まるで本当にお金を奪ったような構図ができあがる。


店の人たちは老婆のことを知っているんだと思う。

まったくこちらを見ようともしない。

面倒ごとに関わるのは御免だということなんだろう。


「おい小僧! おばあさんさんから奪った金を返してやれ!」


通行人のひとりが見かねて声をかけてきた。

前回は、面倒ごとに巻き込まれるのが嫌たった。

それで、やむなくお金を老婆に払った記憶がある。

それも人形代と言われた1銀貨だけでなく、なぜか5銀貨も要求された。


でも、今回は違う。


「アンタも、このご婦人の仲間だよね?」


前回、盗賊ギルドから出てきたジェイドに散々叱られて学習した。

こういう輩を相手にする場合はとにかく「堂々と」すること。

虚勢でもいい。

落ち着いた雰囲気で接すると、下心のある連中は勝手に焦りだす。


「え、あ……いや、ちょっと用事があるんで失礼」

「あいたたたた、急にお腹が痛くなってきおった」


ふたりとも理由をつけて、そそくさと立ち去った。

まだまだ世間知らずではあるが、学習したことくらいは実践できる。


「よお、待たせたな……なんかあったのか?」

「ううん、特になんでもない!」


自分も多少は成長しているかと思うと嬉しくなる。

それからニウの買い物を済ませ、夕方まで時間が少しできた。

ここで、あの帝国軍の大将カぺルマンに対抗するためにある提案を申し出た。


「んあ? 地下迷宮を見たい?」


このクレイピアの地下に巨大な地下迷宮が眠っているのは有名な話だ。

そのあまりにも広大で危険な迷宮の最深部へ辿りついた者は誰もいない。


普通の鍛錬では、3ヵ月であの化け物と渡り合うことはまず不可能。

それなら自分なりのいい修行法がある。


ひたすら地下迷宮へ潜り続ける。

ひとりで鍛錬しても限界がある。

たまにダンヴィルに手合わせをしてもらっているが、彼も忙しいから毎日は厳しい。


今日は、見学だけして明日また来ればいい。

軽い気持ちで足を運んだ。

だが後々、後悔する羽目になるとはこの時は夢にも思わなかった……。


地下1階の入口にある通称「探求の門」の前に立つ。

無料解放されているのはここまでで。

この探求の門から先は有料区域。

門のそばにある迷宮案内所で階層に見合ったお金を払えば中に入れる。

地下5階層までは人の手が入っている。

見上げるほど巨大な門をしばらく観察して、背を向けた。


「じゃあそろそろ帰りましょうか? って、え……」


いつの間にか、足元に魔法陣が浮かんでいる。


「いかん、飛べ!」


ジェイドが異変に気が付いて、叫んだが遅かった。

魔法陣が光ったかと思うと一瞬で知らない場所へ移動していた。


「くそっ、嘘だろ? 迷宮の中だろ、ここ!」


ジェイドが喚き散らす。


そう……ここは地下迷宮のどこかわからない場所。

そんな危険な場所に3人は軽装なまま放り込まれた。



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