第16話 


「「「あー俺たち終わった。こんな奴が小隊長だなんて」」」


同じ声質、抑揚で、大きなため息とともに悪態をつかれた。


キサ王国軍約千人の振り分けと配置。

ダンヴィル指揮官補佐の指示の下、既に小隊ができていた。

率いる予定の小隊へ向かい、挨拶すると同時に三つ子に絡まれた。

それぞれ槍、剣と盾、弓矢を持っている。


「えーと、君たちは?」

「アンタ、エンドリ兄弟を知らないのか?」

「いえ……」


三つ子とは別の人物が意外そうにつぶやく。

3人とも結構有名らしい。

あちこちの戦場で大きな手柄を立ててきたそうだ。


「アンタ、どっかの貴族の息子?」

「いや、平民だけど」


キサ王国では、小隊以上の隊長は基本、騎士が務める。

この国では騎士は貴族の出自であることが多い。

それで誤解しているようだ。

平民で小隊長になるというのは異例であるのは間違いない。


「サオン? 聞いたことねーな……」


エンドリ3兄弟の内、剣と盾を持った男が前に進み出る。


「兄者、コイツの化けの皮を剥がすの頼んだぜっ!」

「おう、そこの木剣を寄こしな。さあ、アンタはどうする?」


この小隊を従わせたいなら、一度手合わせしろと言う。

手合わせもできない臆病者なら、隊長を代わってやるとのたまっている。


しかたない。やるか……。


相手のステータスはレベル10。

だが、才能は「良」なので、自分より武力の値が高い。


今の自分のレベルは23。

3か月間、自分なりに腕を磨いてきた。


才能に恵まれた人間がひと目でわかる「数値化ニューメリカル

それゆえに何度も挫折しそうになった。

才能があれば、自分が励んだ一割にも満たない努力で上に行かれる。


戦争の経験数は、何百回も再演ループした自分は古兵の域に達している。

死線を何度も何度も味わった。

どんなに稽古を頑張ろうが、実戦に勝るものはない。


それなのに才能というのはなんと残酷なものだろうか。

数字になって見える分、性質タチが悪い。

神はなぜ自分にこのような能力を与えたのか。

今となっては知る由もない。


だが、意外な結果となった。

手合わせをしたところ、あっさりと勝ってしまった。


「くそっ、油断した。もう一本」


悔しいだろうが、気を引き締めても結果は同じだった。


なるほど。

実戦を死ぬほど経験してきたから隙だらけにみえる。


相手は自分の木剣の先しか、視えていない・・・・・・

相手の足の位置、そこからどう動くか。

本気で斬ろうとしているのか、はたまた虚を織り交ぜただけなのか。


経験というのが、ここまではっきり出るとは予想外だった。

戦場では、一対一なんてありえない。

それこそ背中から斬られたのも数知れない。


目の前の相手を全力で注視するのは当たり前。

それでいて、視界に映るすべての情報を処理しなければならない。

時間の流れも重要。

左右の状況の把握が数瞬、遅れただけで命取りになることもある。


そんな戦場の最前線から生き延びたからこそ、生温く感じる。

才能に恵まれているが、死線を潜り抜けるような戦いの経験が少ない。

きっと、これまで運が良かったのだろう。


「参った! あんたはスゲー奴だ!」


5回、打ち据えてようやく納得してくれたようだ。

その後、彼らの手の平の返し方は鮮やかとしか言いようがない。


「おまえら、サオン隊長の指示をよく聞くように!」

「俺は凄い人だと最初から思っていたけどな」

「「嘘つけ!」」


頼んでいないのに三つ子が自分の直属の部下っぽくなった。

でも、そのお陰で隊列の組み方や合図が速やかに決まっていった。





「進軍せよ!」


律動した銅鑼の音が鳴り響く。

直後にダンヴィル指揮官補佐の声が轟いた。


陣形は空からだと、十数個の丸い円に見えるはず。

小隊単位の丸い円は、新生キサ王国軍の秘策として編み出された。

自分が以前戦った戦場では、横一列になって潰しあうだけだった。

戦況に応じて、王女本隊が各小隊を手足のように自由に動かすため。


本隊からの合図の型は、小隊長である自分が覚えている。

もし小隊長を失った場合は、隣の隊へ合流するよう指示を受けている。

これらを考案したダンヴィルという男は、やはり有能だと思う。


自分達とは別にもうひとつ大きな塊が前に向けて濁流のように流れている。

鬣犬人スカベンジのギュートンが率いる獣人部隊約2,000人。

進軍中に三つ子の長兄「ミカ」に彼らの話を教えてもらった。


「アイツらは別名、『戦場の掃除人』!?」


身体能力的には獣人族の中では弱い部類に入る。

正面からの戦いを好まず、側面や背面からの奇襲に長けているんだそう。

そして彼らのもっとも得意なのが、包囲戦。

一度その輪の中に入ったら最後、確実にせん滅するという。

それが、彼らが掃除人と呼ばれる所以となっている。


でも、大丈夫なのか?

変則的な戦闘を好む隊と戦闘経験の少ないキサ王国軍の組み合わせ。

シンバ将軍はもしかして、右翼を最初から捨て駒にする気じゃ……。


そして、いちばん気がかりなのは、カルテア王女が戦場で指揮を執っていること。

いくら王国再興の象徴のためとは言え、前線に立つのは危険すぎる。


もし、彼女が命を落とすようなことがあれば、すぐに再演ループするつもり。

それくらいしか、カルテア王女を手伝うことができない。


でも、何回、何十回も同じ最悪の結末を迎えたらどうする?


不安要素ばかりだが、投げ出すわけにはいかない。

勝てるかどうかは正直、わからない。

でも、絶対に生きて帰る。

自分も小隊の皆も、そしてカルテア王女も……。






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