第3話 いざ、討伐へ!
騎士団はよっぽど数を求めていたのか、書類で応募したところ一週間も経たないうちに合格の知らせがあった。
プラムをメリルの元に預けて、私はもはや制服と化している白の上下セットアップに着替える。三年前の新人だった頃はふわりとした聖女らしいワンピースを着ていた時期もあったが、こちとら仕事だ。
危ない場面も多々あるし、あんなことがあって以降、穢れた聖女なんて汚名を囁かれる私がそんな格好を続けていたら噂に尾ひれを付けるだけな気がする。
(とにかく……気合いを入れなくっちゃ!)
拳を握り締めて向かった広場では、すでに多くの出願者たちが息巻いていた。熱気に怯みながら辺りを見渡していると、遠くの方でマイクを持った女が壇上に上がるのが見える。
「皆さん、静粛に」
一瞬でその場が静まり返った。
キーンというハウリングが収まるのを待って、女は再び口を開く。彼女も討伐隊のメンバーなのか、軍の者であることを示す腕章が腕に嵌められていた。
「この度は西の海域に向かう遠征に名乗りを上げてくれてありがとう。この辺りはプリオール地方と呼ばれていて、最近大型の魚類による被害を多数受けています」
その後も遠征の目的やスケジュールに関する大まかな説明が続き、十分ほど続いた話の後でエリサと名乗る女は組み分けの発表を始めた。
「………ローズ・アストリッド、第三班!」
「はい!」
返事を返して私は三班のテントへ向かう。
男女六人からなるチームには、すでに私以外のメンバーが揃っていた。各チームは騎士四人と魔術師が一人、それに聖女一人から成り立っている。
魔術師として三班に呼ばれていたラメールは以前一緒に仕事をしたことがある老婆だったので、私は軽く頭を下げて自分が聖女であることを皆に明かした。
テントに頭が擦っているガタイの良い男が顔を近付ける。
「聖女か!俺はダースだ。治癒と浄化を得意とするらしいな。俺に治癒は不要だが……なんと言っても不死身だ!」
ガハハッと笑うダースの後ろで若い女が呆れたように両手を上げた後、自分はクレアだと名乗った。クレアの腰には短剣が二本装備されている。
「ダースは騎士としては優秀だけど頭が空っぽなの。悪い奴じゃないのよ。この班の頭脳はリーダーのフィリップね」
「お待ちしていましたよ、ローズさん」
「あ……こちらこそ」
フィリップは眼鏡を掛けた知的な男だった。
差し出された手を握り返しながら挨拶を交わす。
残る一人は、と顔を上げたところで、相手もまたこちらを見ていたのかバッチリ視線が合った。蜜のような色をした瞳が驚いたように見開かれる。
「? はじめまして…ローズ・アストリッドです」
「ああ。俺はフランだ。ここでは皆名前で呼び合うだろうから、あんたのこともそうさせてもらう」
「分かりました」
それっきりフランは私の方を見ずに隣のフィリップと話し出したので、私は中途半端に差し出した手を引っ込めた。てっきりあの流れで握手があると思っていただけに、早とちりして恥ずかしい。
五つのチームに分かれた討伐隊はそれぞれリーダーが指揮を取って、この遠征のためにわざわざ用意したという大型船に乗り込んだ。与えられた二人部屋は少し狭いけれど、クレアと同室だったので安心した。
部屋に備わった丸い小窓から徐々に小さくなる街を見ながら、残して来たプラムのことを思う。
(生きて帰って……一緒に街を出るのよ)
この先ずっと、後ろ指を指される人生をあの子に負わせたくない。誰も私たちのことを知らない場所へ引っ越して、親子二人で新しい生活をスタートさせるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます