第41話
その日の夜、オレはスリフィの部屋を訪ねる。
「来ると思っていたよ、先生の責任じゃないと思うんだけど、それじゃあ納得しないんだよね」
物事の発端がオレの発言にある限り、無視は出来まい。
アール様は防備を固め、エルフを迎え撃つつもりでいるようだが、正直に言って、アール様もこの村の人たちも戦う理由はない。
オレやファニスが居なければエルフと事を構える必要がない訳だ。
ましてや向こうは自暴自棄になっている集団。
自分の命を顧みない攻撃を行ってくる可能性がとても高い。
キアラさんの話では、呪印の維持のために、常に本人から魔力を吸い上げられ、魔法の使用はかなり制限されている。
さらに、少しでも傷を与えればそれを回復する手段を持たない。
ここの防備なら脅威とはならない。
とは言うが、たとえ紙装甲で魔法が使えなくとも、ナイフの一突きでもあれば人は簡単に死ぬ。
相打ち覚悟で攻めこまれれば、ただでは済まない。
アール様の回復魔法がいかに優れていようが、同時に複数人を回復できる訳でもないし、即死すれば意味もない。
たとえ一人でも亡くなれば、自分を許せそうにない。
ましてやそれが、アール様本人となる可能性だってあるのだ。
「エルフと交渉をしたい、なんか良い知恵はないかな?」
最悪、命までとられないのであれば、この身を差し出す事も吝かではない。
エルフに対して最大限のご奉仕をするので、それで許してもらえないだろうか?
いや決して、美人のエルフさんとぐんずほぐれつを期待などしていませんよ?
ええ、していませんとも! ……たぶん。
「こっちに向かって来ているエルフは、ファニスの目の間で先生を凌辱してやる、とか言ってんだっけ?」
「そうなのか?」
「キアラさんの娘さんからそう聞いたよ」
まあ、それで済むなら……
「済むわけないじゃな~い、ファニスはおろか、アールエル王女も全力をもって叩き潰しにかかるよ」
本来の歴史でアールエル王女が何をやったか忘れたの? と聞いている。
シフ・ソウランのために国民全部を犠牲にして帝国に対抗したんだっけかなあ。
良い案だと思ったんだがなあ。
まあ、致した後、首を落とされる可能性もある訳だし、それで済むはずもないかぁ。
「オレとスリフィだけで、エルフに対抗する手段があったりは……」
「さすがに無理だよ先生」
そうか~。
「先生はさ、命を惜しむ割には、無謀な事をしようとするよね」
「そんな事はないだろ?」
「どこがさ、下男を助けるために皇帝陛下の前に立つし、ファニスの時も命懸けで助け出そうとする」
「それはお前もだろ?」
オレがそう言うと肩をすくめるスリフィ。
「ボクはもともと引きこもりだよ、誰かのために何かをしようとなんて思わないさ」
「昔の話だろ、今のお前も十分、お人好しだぞ」
こうやってオレが来る事を予想して待っていた訳だしな。
「先生がボクの事を天使だって言うからサ。そう言われたらボクだって頑張ってみようと思う訳だよ~」
まあ、それはともかく、今はエルフへの対抗策だ。
なにか良い知恵はないか?
オレだけこっそり白旗を掲げて潜入するとか。
「そうだね、先生だけならいきなり殺されることはないでしょ」
ただし、連れ去られてエルフのおもちゃにされるかもよ~、と言う。
まあ、それはそれで……コホン。
「う~ん、姿を隠す魔法を応用すれば……」
「なかなか面白い話をしているわね」
と、どこからともなくファニスの声が響く。
辺りを見回してみると、突然目の前に素っ裸のファニスが姿を現す。
えっ、なんで裸?
「実はね、私とスリフィは特殊な姿を隠す魔法を開発したのよ」
「ちょっ、ファニス!?」
何かを言おうとしたスリフィをファニスが視線で押し止める。
「音はおろか、気配すら遮断する。こんなに近くにいても気づかなかったでしょ?」
「おお……!? いやまて、いつからそんな魔法を開発していた?」
「だから止めようとしたのに……」
となにやらスリフィがファニスを恨めし気な目で見つめている。
コイツラが、何を目的としてこの魔法を開発したか。
そして、この魔法を何に使っていたか。
まったく気配を感じさせず、すぐ傍に存在できる。
そう、そんな魔法をストーカーが手にしたら、何に使うと思う。
「い、いくら私たちでもプライベートまで覗いたりはしていないわよ」
「それは本当だよ先生、信じてください!」
「いやまあ、良いけどさ。せめてオレの部屋に入って来るのは勘弁してくれよ」
コクコクと二人が頷く。
本当に分かっているのだろうか?
今度から部屋に鳴子の罠でも仕掛けておこうか。
「まあ、この魔法を使えばエルフのすぐ傍までは行ける訳だよ」
事実、部屋の外に居るコウとセイには気づかれずにここへ入って来られている。
キアラさんの計らいで、今はこの二人がオレの護衛をしてくれている。
二人はもともと、エルフの暗部を担っていたそうで、能力は高いと自慢していた。
その二人を完全に出し抜いている訳だ。
「なるほどな~」
「ただし、これには一つだけ重要な問題点があってね」
いくら音が消せるといっても、限界がある。
だから、できうる限り衣服を身に纏わないほうが良い。
そう、裸でなければこの魔法が効果を発しないのだ!
と力説される。
本当に?
スリフィが、お前天才かよ、と尊敬のまなざしでつぶやいているのだが。
まあ、完全に嘘ではないのだろうけど。
せめてパンツは履かせてください。
そうして3人のパンツ一丁プラス靴だけという謎の集団が村をあとにする。
露出に目覚めそうだぜ。
下を隠しているから大丈夫だと思ったが、左右の女連中はハアハアと荒い息をつきながら嘗め回すように見てくる。
(いやまったく先生は男の癖に、こういうゆるいとこがあるから、ほんと最高だよね!)
(ええそうね、私も数多くの男共を見て来たけど、パンツ一丁でここまで堂々とできる男性は初めてよ)
(お前ら、服ズレの音を消したのに、それだけ喋っていたら意味ないんじゃないか?)
えっ、このぐらいの小声なら周りに音が漏れる事はないだって?
じゃあさ、それより小さい服ズレの音なんてもっと漏れないんじゃね。
いやもう、今更帰って服を着てくる訳にもいかないんだけどさ。
そうして道なりに歩いているとエルフの集団を発見する。
森の中に隠れているのかなと思ったら、堂々と平原にテントをこしらえている。
まるで、どこからでも襲ってくださいといわないぐらいに。
(罠だと思う?)
(自殺志願者の集まりなんでしょうよ)
(とりあず寝静まるのをまって、あの一番大きいテントへ潜入するか)
夜中、誰もが寝静まったころ、抜き足差し足でそこへ潜入する。
するとテントの中が急に明るくなる。
「来ると思っていましたよ、歓迎いたしましょうファニス皇女」
そこでは、オレ達を囲むようにずらりとエルフが並んでいたのだった。
おい、バレバレじゃないか、全然、役に立っていないぞ、この姿隠しの魔法。
裸になり損じゃね?
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