第34話

 さて、我が家はエロガキが二人に増えたぐらいですんでいるが、世界はそうはいかない。

 激動の1年間であった。

 帝国ではグランドム侯爵の様に、後宮から出された皇帝陛下の遺児たちを担ぎ上げて、この者こそが正当なる王位継承者だと言いだす貴族が現れる。


 しかし、後宮から出た遺児の数など知れている。


 そんな遺児を捕まえられなかった有力貴族はファニス皇女の偽物まで担ぎだす始末。

 そんな内ゲバを見て、今がチャンス、と思った国はヴィン王国だけではない。

 そんな国々が連合を組んで帝国へ攻め入る。


 さらに、帝国によって滅ぼされ吸収されていた国々も次々と独立を宣言し、その連合に加わる。


 帝国1国と多国籍軍の戦いに発展する。

 それでもまだ、軍事力は帝国の方が上なのだが、多国籍軍にはエルフが付いている。

 それに帝国は、内ゲバでまとまっていない上に足の引っ張り合いだ。


 どんどん削られていく帝国の領地。


 これは、シフ・ソウラン伝説と同じような終わり方になるのでは?

 と思っていたのだが、ある時を境に勢力を盛り返す。

 相変わらず後継者争いは揉めているようだが、軍事に関しては帝国が一枚上手だったようで、エルフの大規模転移魔法陣によるメテオもどきの大岩落とし。


 それに対抗する魔法を編み出した。


 帝国では、エルフに対する迫害が始まった。

 これはまあ、当然の事だろう。

 エルフに帝都を完膚無きまでに破壊されて仲良くしましょうね、は、どだい無理な話。


 彼らはエルフを捕まえ、次々と拷問にかける。


 その過程でエルフの魔法の秘術を吐き出させる事に成功したようだ。

 これまでは、エルフを拷問など、どんな報復がまっているか分からない事をしようだなどと考える人は少なかった。

 だからこそ、エルフを捕らえて、その秘術を盗もうとする人も居なかった訳だ。


 しかし最早、遠慮はいらない。


 報復も何も、今や帝国とエルフは全面戦争に突入したと言っても良い。

 エルフはやりすぎた。

 帝国かエルフ、どちらかが滅ぶまで、という戦いに突入した以上、モラルもルールもそこには存在しない。


 だからこそ、エルフも他の国に協力を申し出た訳だ。


 帝国に滅んでもらわなければ、自分たちの身が危うい。

 エルフは力を見せつけて抑え込もうとしたのだろうが、人類を舐めすぎている。

 人は、たとえ勝てないと分かっていても尊厳が傷つけられれば反抗もする。


 そしてその過程でさらに力を付ける。


 どんな強大な魔王が現れようとも、人類は決して諦めない存在なのだ、それどころか、荒ぶる神にだって手を出す始末。

 悩み、考え、改良し、勝つためのルートをクエストする。

 帝国もまた、強大なエルフの力に対抗する手段を探し求める。


 その結果が、エルフから奪った魔法技術を用いて、落ちてくるメテオの下にさらに――――――大規模転移魔法陣を出現させる。


 そして、落ちて来た大岩をエルフが作り出した魔方陣の上に転移させ、お返しすると言うカウンターを図った。

 これにより、軍事的なエルフの優位はかなり低くなった。

 その上で、世界樹はモンスターであり、エルフもまた、その眷属のモンスターなのだと。


 エルフは人類の敵、モンスターなのだと、それを公表される。


 彼らはエルフを拷問にかける過程で、その事実に辿り着いた。

 それを公表する事により、帝国対エルフから人類対エルフへと戦局を動かそうとする。

 帝国は、これまでの事はすべてエルフの謀。


 今すぐ、休戦協定を結ぶのであれば、何の咎も問わない。


 それどころかエルフから得た魔法技術、この大規模転移魔法陣の情報を渡そうと持ち掛ける。

 エルフは見た目が麗しい者が多い。

 我らの様に大っぴらにエルフを捕まえて奴隷にできるのだと。


 エルフはモンスターだ、モンスターだから何をしても良いのだと。


「ほんと、エルフは何がしたかったんだろうね~」


 スリフィがファニスにそう問いかける。


「結果だけ見ると、モンスターだとバレた上に、魔法技術も盗用され、人々から迫害される民族に成り下がったわね」


 ファニスは、もはや興味はないといった表情で答える。

 そんな、悲惨な状況になったエルフに対し復讐心も消え去っているのか。

 気に入らない事や、都合の悪い事は、全部エルフのせいにすれば良い、などと言われているぐらいだからな。


 徐々に、本当に徐々にだが、戦争の流れが、多国籍軍と帝国から、人類とエルフに変わりつつある。

 最初に手を出したのがエルフだとはいえ、この先、エルフに待ち構える未来は決して明るくはないだろう。

 どんなに気に入らなくても、殴りかかってはダメなんだ。


 多国籍軍もバラバラ、帝国内もバラバラ、そして大規模転移魔法陣のメテオが多くの国でも使えるようになり、それが戦争の抑止力になりつつある。


 あんなものが降り注ぐ戦争など、敵も味方も嫌だろう。

 エルフから得た技術を独占しようとしなかった、帝国の軍事戦略本部はさすがとしか言えない。

 秘匿した技術が奪われればただの損失だが、秘匿せずに売りに出せば利益となる。


 どのみち、技術と言うのはどんなに隠そうとしても、流出してしまう。


 ましてや、エルフの様に種族がまとまっているならともかく、今の帝国はバラバラだ。

 帝国の一部が多国籍軍と手を取るために、技術を流出させないとも限らない。

 どころか、他国も帝国と同じようにエルフを拷問して吐き出させようとするだろう。


 前世でも原爆が開発された時、アメリカで独占はできず、一気に世界中に広まった訳だし。


「そして広める物はエルフの大規模転移魔方陣でない、帝国の大規模転移魔方陣だわ。規格を自分たちのモノで統一できるし……魔方陣に罠を仕掛けておく事もできるわね」

「例えばいざという時に、帝国がその魔方陣を操作できるとかかな?」

「そうね、誤作動を装って別の場所へメテオを落とすぐらいはするでしょうね」


 渡した技術にトロイの木馬を仕込むようなものか。

 そして、戦争を停滞させ、軍事より経済、あるいは政治方面の戦争へ移し替える。

 そうなれば帝国に敵う国はなく、さらに国内もまとめやすくなる。


「帝国の軍本部は辺境で戦っていた訳で、帝都に居たわけじゃない。母上を支え戦って来た者は、ほぼほぼ存命している。手ごわいわよ」

「そういう人たちを味方に付ければ、ファニスにもワンチャンあるんじゃね?」

「じゃあ、あんた、私の参謀として最高の貴族位を上げるから一緒に来いと言ったら付いて来てくれるの?」


 毎日が酒池肉林よぉ。とスリフィに問いかけるファニス。


「どこが酒池肉林なんだよ、後宮ってむっちゃ息苦しかったよ?」

「そうなのよねえ、母上も後宮に行くとき、楽しそうな顔で行くのはあまりなかったわ」


 あなた達が来るまではわね、と小さくつぶやく。


「はっきり言うわ、ココでの暮らしの方が皇女の暮らしより充実しているわよぉ~」


 シフが作る料理は、見た目はともかく、とても美味しい。

 石鹸やシャンプーだって、品質が王宮の物より良いってどういう事か。

 窮屈な、しきたりだって必要ない。


 後宮なんてなくても、シフさえいれば、私は満足している。とファニスは言う。


「いい? トイレやお風呂を覗こうだなんて、貴族だったらマナーがなってないどころか、首を刎ねられるのよ」

「それは恐ろしい……貴族は怖いね」

「いや、お前ら、覗きは誰がやろうと犯罪だぞ?」


 まあ、地方の村じゃ、それぐらいじゃ首を刎ねれらたりはしないけどさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る