第5話

 そこから7王国時代というものにつながるらしい。


「その前に、いくら亜竜とはいえ人類の半分を滅ぼすのは無理じゃないか?」

「それは諸説があるね~」


 そう言いながら、オレの膝の上に座り込んでくる。


「重いぞ」

「良いじゃな~い、ちょっとぐらい。喋り疲れたんだからサービスしてよ~」


 そう言いながら太腿をナデナデしやがる。


 ほんと所業がエロおやじなんだが。

 見た目は天使みたいなのに、この残念天使め。

 だが、可愛い女の子にナデナデされて、別に嫌な訳でもないのが、ちょっと悔しい。


 ムフウ、ココまでやっても怒らないのが先生の良い所だよね~、と、満足したような顔をして話を続ける。


「亜竜はね、邪神の加護を受けていたんだよ」


 モンスターの軍勢を率いていたとか。

 いくら打倒しても邪神が復活させたとか。

 中には、亜竜の爪を切り飛ばしたら、その爪が新たな亜竜となった、と言う話まであるんだとか。


「まあ、実際に当時の人口を調べる手立てなんてないから半分と言うのは憶測だけど、少なくとも、半数以上の村や町が壊滅したのは事実らしいよ」


 そして亜竜は最後に、その身と引換にしてシフ・ソウランを蘇らせた。


「ちょっと愛が重すぎやしないかい?」

「そこまで虜にした人が言う~話?」

「いや多分、そのシフ・ソウランさんはオレと別人だと思うぞ」


 少なくとも、絶世の美男でも美男子でもない。

 そこだけは断言が出来る。

 悲しい事に。


「分からないよ~、男は化粧で変わるって言うしさ」


 そのセリフはまさしく貞操観念逆転世界だからこそ出る言葉だな。

 この世界の女性陣、あんまりお化粧とかしない。

 それでも美女・美少女が多いのは…………まあ、イケメンが共有されて、遺伝子がそう選別されているからだろうな。


 片親でも美形なら、子供も美形になる確率は高かろう。


「それで蘇ったその、別人のシフ・ソウランさんはどうなった訳?」

「先生が別人だと、ある意味困るんだけどね~、時代を止められないとボクの命も危うい訳だし」


 顔だけ後ろに向けて上目遣いでそう言ってくる。

 まあ、そんな未来が来ると分かっていたら誰だって止めたいわな。

 その時はオレも協力するから、まずは話を進めてくれ。


「蘇ったシフ・ソウランは邪神の加護をもらっていてね、巨大な都市にモンスターを集めてそこの男帝として君臨したそうだよ」


 そしてその魔都を囲むように生き残った人々は7つの国を立ち上げた。

 それから暫くは7つの国同士で熾烈な争いがあったそうだ。

 誰が中央にある魔都を落とし、シフ・ソウランを手に入れるか、そのために、血で血を洗う争いが繰り広げられた。


「邪神の巫女だろ? さすがにそんなモノはほしがらないと思うんだが……」

「世の権力者って奴はね、それが善か悪かなんてどうでも良いんだよ、欲しい物は手に入れる。ただ、それだけじゃね」

「手に入れたら死ぬかもしれないのによくやるわ」


 しかし、いつまで経っても決着はつかない、その7つの国の争いは200年以上にも及んだと言う。


「よくもまあ、そこまで争えたものだな、一つ二つの国は滅びそうなものだが」

「それも諸説があるね~、特に最も可能性が高いとされているのが、シフ・ソウランの暗躍だね」


 一つの国が勝利しそうなら別人に化けて誘惑して堕落させる。

 一つの国が敗北しそうなら別人に化けて誘惑して奮起させる。

 そうやって国が滅ばないように調整しながら争わせる。


 まさしく邪神が喜びそうな状況。


「それなら、傾国の称号を返上しても良いんじゃね?」

「最終的には全部の国を滅ぼすんだから、それは無理」


 マジですか~。


 何やってんの、その世界線のシフ・ソウランさんは。

 絶対別人だよ、いや別人であってほしい。

 たとえ邪神に操られていたとしても、そんな事をする大人には、なりたくないなあ。


 そんな長い争いに疲れた各国は、とある提案を立ち上げる。


 犠牲を減らすため、個人の武で勝者を決めないかと。

 全ての国の力を合わせて、シフ・ソウランを邪神より取り戻し、その後は武闘大会で誰が彼を手にするか決めないかと。

 いきなり始まるバトル漫画的展開。


 7つの国は足並みをそろえて、シフ・ソウランが男帝として君臨する魔都を攻める。


 魔都の中央に座する巨大な王城。

 禍々しい瘴気を放つその城の登頂、魔都を一望できる部屋に彼は悠然と座って待っていた。

 まるで玉座の様な椅子に腰かけ、集まって来た人々を見下ろす。


 数百年が経とうとも変わらぬ、その美貌。


 いや、伝え聞くよりも更に美しく見える、そのお姿。

 誰もがそれに見とれ、心を奪われる。

 そんな男帝に傷一つ付けようとは誰も思わない。


「シフ・ソウランは自分の足で、人間達が用意して来た豪華な馬車に乗って魔都を後にしたと言う」


 いわゆる、演出の勝利という奴か。

 確かに、オレが考えそうな事ではある。

 で、そっからバトル漫画が始まるのか?


「そうだね~、一回目は普通に終わったよ。賢帝と呼ばれ、7つの国の中で最も理知的な女王の手に彼は渡った」

「一回目という事は二回目があったのか?」

「うん、一つの国が独占しないように、1年おきに武闘大会でどこの国が所持するか決める事になっていたんだよ」


 問題は二回目、最初の武闘大会から一年後の話。

 シフ・ソウランを一目見ようと集まった王侯貴族。

 勝利のために集められた武技に秀でた人たち。


 その全てを、嘗ては賢帝とも呼ばれた女王が――――――皆殺しにする所から7王国時代は終焉に向かうのだった。

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