第2話

 街に付いたオレは、これまた権力者に取り入ろうといろいろと画策を巡らす。


 前世では、ロリコンなんてどこにでも溢れていたのだ。

 だったら、こっちの世界でもショタコンが溢れていてもおかしくはない。

 若いってだけでも武器になる。


 それでまあ、手籠めにされたとしても仕方がない。

 むしろ養ってくれるのならバッチ来いですよ。

 と、意気込んで裏街に入ろうとしたところを、行商の男性に止められる。


「男の子なんだから、もうちょっと嗜みを持てよ」


 などと言われながら手を引かれ、とある女性を紹介される。

 その女性はこの街にある学院の教師をしている人だと言われた。

 耳が……長いのだが、もしかしてエルフ?


 ものすごい美人だし。


「あら、その子があなたの言っていた」

「ああそうだ、かなり頭のキレる奴だ、それに自分の事は自分でできる、そんなに手間はかからない」


 そうだろう、とオレに問いかけて来る。


 オレは必死でコクコクとうなずく。

 行商の兄ちゃんがどういう紹介をしているかはともかく、こんな美人のお姉さんに養ってもらえるのなら言う事はない。

 貞操観念が逆転しているのだ、もしかしたら、あっちの世話まで仰せつかるかもしれない。


 仕方ないなあ。


 お仕事だしね。

 いやあ、ホントに不本意だけどねえ。

 頑張りますので是非とも雇ってくだせえ!


「ふ~ん……」


 と言いながらオレを値踏みするような目で見られる。

 そのうち、オレの頭に手をかざしたかと思うと、淡い光がそこに集まる。

 何やら魔法を使われているご様子。


「病気は……持っていない様ね、特に悪意も感じられない、と」


 何やらブツブツとつぶやかれている。

 鑑定魔法か何かなのだろうか?

 魔法、良いなあ……オレも使えないかなあ……


 ああ、神様。


 どうせなら女性として送りだしてほしかった。

 TS転生でも全然、問題はなかったのですよ?

 ぜいたくを言うなら、世界で初めての男性魔法使いにしてくれても良かったのですよ?


 ふと気づくと、手に集まっていた光も消え失せていた。


「いいわ、ちょうど人手がほしかったのよ、役に立たなかったら……分かるわよね?」


 オレは必死になってコクコクとうなずく。

 なお、その美人のお姉さんは行商の兄ちゃんになにやらお金を渡している。

 アレ……もしかしてオレって売られた?


 油断するとすぐこれだ、いや、まあ良いけどさ。


 そして彼女の元で学びながら働く事、4年。

 12歳になったオレは、とある村の村長からの要請で家庭教師に出向いている。

 なんでも村では神童とまで言われている優秀な子が居て、遠く離れたオレの事を名指して希望してきたらしい。


 なにその怪しさ満点の子供。


 行きたくないなぁとは思ったのだが、その子のお母さんが挨拶に来た時に気が変わった。

 お土産を持って来ていたのだが、それがオレの気を惹いた。

 なんて事もない、ただ、芋を切って揚げただけのポテトチップス。


 ただなあ、そんな豊富な油を使って揚げる様な料理は、こちらの世界で見た事がない。


 そして、芋の薄さがほぼ均一。

 普通の包丁ではこうも綺麗に整わない。

 オレの名前を名指しして来たと言うし、もしかしたら――――オレと同じ前世持ちかもしれない。


 オレも前世の記憶を用いて、いろいろな物を作り出した。


 まあ、どれもこれも、男性が資産を持つもんじゃないと、とりあげられた訳だが。

 もしかしたら、そのうちの幾つかをその子は見たのかもしれない。

 そして、自分と同じ前世持ちだと思って、家庭教師として呼びつけようとしたのかもしれない。


 敵か味方かは分からないが、会ってみるのは良いかもしれない。

 とりあえず、会ってみない事には事実は分からない。

 そう思い、夜中にこっそりとお姉さんの家を抜け出す。


 そろそろ、この街からもおさらばしようと思っていた所だ。

 ほんと、男が目立つとろくでもない。

 何かというと、男の癖に、やら、男が出しゃばるな、やら、差別発言が止まない。


 エルフのお姉さんのお手伝いで学園に出向くことが良くあるのだが、そこでいろいろちょっかいを掛けられる。


 言うだけならまだしも、この世界の女性は暴力的で、すぐに手も出る。

 こないだなんて押し倒された上で、男の癖に生意気な目をしてんじゃねえ。と言って頭を思いっきり踏みつけられた。

 それも、ちょっと視線が合っただけですよ?


 まあオレも、少々出しゃばる事もあるから自業自得な部分もある。


 ただまあ、そのうちエスカレートして命まで狙われる様になったら堪らない。

 ほんと、男が一人で生きて行くには厳しい世界なんスよ。

 挨拶に来たお母さんに連れられてその子の村を目指す。


「本当に良いのかい? 今回は挨拶のつもりで来たのだけど」

「はい、善は急げとも言いますし」


 村に着くと、そこで待っていた子は天使の様な真っ白な風貌をした少女だった。

 そう、アルビノと呼ばれる、髪も、肌も、真っ白で、瞳の色素も薄い。

 今まで会った子供達よりも頭一つ抜けた、非常に可愛らしい子供であった。


 なお、オレは肌がそこそこ白いのだが、髪と瞳は漆黒である。


 顔も前世の日本人のように平べったい。

 同じ前世持ちでも、これほどの格差があるのは納得がいかないぞ。

 アルビノの人も少ないが、漆黒の髪と瞳を持つ人も少ない。


 そしてアルビノは天使の贈り物と言われるが、黒目黒髪は不吉だと言われ忌み嫌われている。


 生まれてすぐにあの世に旅立ちそうになった原因の一つでもある。

 ただ、この子、とんだエロガキで、尻は撫でるわ、肩は抱こうとするわ、授業中も手を握って来て、セクハラ発言も多い。

 歳を聞くとまだ8歳だという。


 前世でもここまで酷い8歳は見た事がないぞ。


 こないだなんて風呂を覗きに来た上に、パンツを盗んで行きやがった。

 パンツを持って行くのは勘弁してほしいのだが。

 まるでスケベなエロおやじみたいだ。


 ますます前世疑惑、それも多分、オレの前世とは違う、貞操観念逆転世界からの転生。

 そうでも思わなければ、いくらTS転生したとしても、男に欲情するのはおかしいだろう。

 まあ、エロいお姉さんだった可能性も無きにしも非ずだが。


 オレは思い切って、前世の記憶を持っているだろお前、と聞いてみる。


「え~、それ聞いちゃう~? デュフフフ……さすが傾国の美男と呼ばれるようになる人は違うよね~」


 気色悪い笑い方をしながらそんな事を言う。

 見た目は天使かと思うほどかわいいのだが、どうも、中身がおっさん臭くて堪らない。

 せめてその、デュフフフは止めろ。


「バレちゃあ仕方ない、そうボクは、千年後の未来で生きていた記憶がココにあるのだよ!」


 その天使は、自分の頭を指差しながら、ドヤ顔でそんな事を言うのであった。

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