第29話 初めてのダンジョン
ハロウィーと正式にチームを組んだ翌日。
俺らのクラスは古代遺跡のような場所に来ていた。
風化しかけた壁は自然石から切り出したような黄土色の岩を積み上げたもので、ピラミッドの中にいるような印象だった。
高い天井は柱も無いのに何故か崩れず、照明器具も無いのに一階ホール部分は明るく、視界は良好だ。
奥の壁には、ゾウでも楽に通れそうなほどに大きな階段口がぽっかりと開いている。
巨大な下り階段は、まるで地獄にでも続いていそうな不気味さがあった。
季節に関係なく気温は一定に保たれるこの場所だけど、僅かな寒気を覚えた。
「では皆さん、今日からお待ちかねのダンジョン訓練ですよ」
先生の説明に、誰も彼もがやや興奮気味で、浮足立っているのがわかる。
そう、いかにもダンジョンなここは、そのまんまいわゆるダンジョンなのである。
場所は校舎裏の森のすぐ近くで、学園が管理している。
というよりも、王立学園の立地そのものが、このダンジョンに合わせて建設されているらしい。
先生は人差し指を立てながら、説明口調で続けた。
「ダンジョンとは、神が人類に与えた修行場と言われています。中に生息する魔獣は無限に湧き続け、宝箱の中身も一日から数日で用意されます」
「せんせー、じゃあ宝箱の前でキャンプすれば取り放題じゃないですか?」
とある生徒の質問に、先生は喉を鳴らした。
「ふむ、確かにそれは可能ですが労力が釣り合いませんね。宝箱の中身が復活するのは早くても一日。魔獣がひしめく危険極まりないダンジョンに一日中もぐるのは自殺行為でしょう。かといって浅い階層であれば魔獣も弱い半面、宝箱にはそれほど価値のあるものは入っていません。つまり、世の中にはそうそううまい話は無いということです」
生徒が残念そうに納得したのを確認しながら、先生はキビキビと説明を続けた。
「中は多重構造になっており、より深い階層ほど魔獣と宝箱のレベルは上がり、手に入る経験値やアイテム、素材もより良いものになっていきます。これは強さを磨いた者への褒美であると同時に、分不相応な者が力を手にしないようにとされています」
言って、先生はホールの奥、地下へ下りる大階段を一瞥した。
「魔獣のレベルは階層の上下四レベル。各階層に存在するフロアボスのレベルは階層プラス十。地下一階ならレベル一からレベル五の魔獣が潜み、フロアボスのレベルは十一」
――俺と同じレベルか。
「そして地下十階層ではレベル六からレベル十四の魔獣が生息し、フロアボスのレベルは二〇です。ダンジョンの最下層にはダンジョンボス、通称ダンボスが鎮座していますが、まぁ君らが戦うことはないでしょう」
生徒たちの間に走った不機嫌を感じ取ったのか、先生は眼鏡の位置を直して口を開いた。
「失礼。いくら平民とはいえ、決して君たちを侮っているわけではありません。そもそもダンボスは国を代表する英雄クラスの人たちがようやく倒せるレベルです。たとえ貴族科の最上級生首席生徒でも、倒すのは難しいでしょうね。それ以前に、最下層まで辿り着けるかどうか」
それを聞いて、生徒たちの間に少なからず落胆ムードが広がった。
令和日本の若者が、SNSでセレブたちの生活に憧れたり、青春ドラマに憧れるように、この世界の若者は英雄や小説に憧れる。
若くして英雄と呼ばれる世界のVIPや、人気小説の主人公に自分を重ねている生徒も、少なくはないだろう。
けれど、現実の壁の高さに冷や水を浴びせられた気分らしい。
「皆さんは森で魔獣との戦闘は経験済みです。ですが、森とダンジョンでは勝手がまるで違います」
「え~、でも森と違って通路の前にだけ気を付けていればいいんでしょー?」
呑気な女子生徒の声に、先生は声を険しくした。
「だからこそです。ダンジョンでは前にばかり気を取られ、警戒がゆるみ、背後や隠し通路から襲い掛かってくる魔獣や、曲がり角の出合い頭に突然出てくる魔獣に襲われるケースがとても多いのです。現に、ダンジョンでの死亡率一位は魔獣からの奇襲なのですよ」
生徒たちの間に、少し緊張感が走った。
「他にも森には無いモンスタールームなどトラップの数々。逃げ道の無い行き止まりなど、ダンジョン由来のリスクはいくらでもあります。なので、今回は安全の為、全員で地下一階をぐるりと一回りします。決して、勝手に下階層へ下りないように」
最後は深く、釘を刺すように締めくくると、先生は俺らに背を向けた。
「では、行きますよ」
先頭を歩く先生の背中を追いかけて、俺らもぞろぞろと歩き始めた。
途中、一部の男子たちがひそひそと話し合うのが聞こえた。
「つっても一階層の魔獣なんて出てもレベル五だろ?」
「オレらもうレベル三だしチーム組めば余裕だっての」
「森でも昨日、リーフキャット倒したしな」
ハロウィーが一撃で倒したので印象が薄いけど、リーフキャットは本来、雑魚魔獣の中では比較的強い部類に入る。
春の一年生が相手をするには、少し重めだ。
長い階段を下りて、踊り場を二回通り過ぎて地下一階に下りた。
階層にもよるけど、ダンジョンの床の厚みは数メートルもあるし、天井も高いので当然だろう。
そして階段を下りると通路の奥、目の届く範囲に下り階段があった。
「二階層への階段はあちらですが、皆さんはくれぐれも近づかないで下さいね」
『近ッ!?』
と、声を漏らしたのは、俺を除いたクラスの全員だった。
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昔のゲームで最深部まで行って帰るのにすごく時間のかかるダンジョンがあってストレスでした。
テイルズオブファンタジアのダオス城は新設設計であれぞ匠の技ですよね。
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