第12話 説得力がありすぎる
穴の中が黒く炭化している。
まるでレーザービームだ。
「わたしは初級の魔法しか使えないけど、これで魔獣の急所を射抜けば格上にも通じる自信があるよ」
彼女はちょっと自慢げに目元を凛々しくした。
「まぁ、発動には一分ぐらいかかるんだけど……」
そしてすぐに照れ臭そうにはにかんだ。
――ようするに狙撃手タイプってことか。
確かに、他の女子たちが嫌がるのもわかる。
チーム戦における弓兵の役目は、後方から射撃で味方を支援することだ。
だけど、狙いを定める時間が長いと弓兵を守る壁役が必要になってしまう。
これでは効率が悪い。
大集団戦闘の戦争ならともかく、魔獣戦には不向きだろう。だけど……。
「ならゴーレムたちに守らせるよ。みんな、常に二人でハロウィーを守ってくれ」
『わかったー』
「え、いいの? 大丈夫?」
「強度は岩並だからな。俺らよりも一〇〇倍頑丈だよ」
任せて、とばかりに、イチゴーたちは手を腰に当て、むんと胸を張った。
もっとも、体が丸いからあまり背を反らせていないけど。そこはご愛敬だ。
「それにうちは後衛がいないからな。助けてくれるか?」
俺が穏やかに尋ねると、ハロウィーの顔がパッと明るくなった。
「うん、じゃあ助けてあげるね。ありがとう、ラビ」
陳腐な言い回しだけど、花が咲いたような可愛らしい笑みだった。
◆
体感でおおよそ一時間後。
俺のハロウィーに対する評価はうなぎのぼりだった。
魔獣のヨロイイタチが俺に噛みかかってきた刹那、俺の横腹をかすめ、一本の矢がヨロイイタチの眼球を貫いた。
――この狭い隙間で必中かよ。
顔を硬い甲殻で覆った魔獣だけど、ハロウィーには関係ない。
彼女の命中精度たるやプロのスナイパーが舌を巻くほどだった。まさに百発百中どころか百発千中の勢いだ。
彼女が放った矢の数だけ、確実に魔獣が絶命している。
――これは、本当に最高の後衛だな。
互いに弱点を補い合えば、貴族に復帰できるだけの手柄を立てられるかもしれない。
そんな期待に振り向くと、ハロウィーの背後からゴブリンが近づいていた。
けれど、サンゴーが体当たりで防ぎ守った。ナイスプレイ。
『させないのだー』
『イチゴー、フォローをたのむっす』
『まかせてー、どーん』
視界の端でゴーレムたちの会話が上に流れていく。
完全にオンラインゲームのそれだった。
襲い掛かってきた魔獣たちを一掃すると、リザルト画面が現れた。
その向こう側では、イチゴーたち五人が一糸乱れぬ動き――ニゴーだけちょっと遅れている――で機敏にくるくると踊り始めた。
軽快な勝利のダンスに、頭の中でレトロゲームの勝利BGMが再生されてしまう。
——おいおい、どこで覚えたんだそのダンス。
呆れながら、あの短い足でどうやって跳ね弾んでいるのかが気になる俺だった。
そうしてひとしきりイチゴーたちのダンスを眺めてから、視線をリザルト画面に戻した。
獲得経験値とストレージに入る魔獣の死体の情報が表示されるも、まだ十一レベルには届かなかった。
――たぶん俺、レベルだけなら一年生でもトップクラスだろうな。
「今回もおつかれみんな、それとハロウィーもな。また助けられたよ」
「ううん、そんなことないよ!」
イチゴーたちのダンスから目線を切り、ちょっと興奮気味に話すハロウィー。
「この子たち本当にすごいんだよ。全部まかせられるっていうか、全然不安じゃないの。ありがとう♪」
にっこりと笑って、ハロウィーは踊り終えたサンゴーやヨンゴーたちの頭をなでまわした。
みんな、ちっちゃな騎士のようにえへんと背筋を伸ばした、ような気がする。
「えへへ、かわいくて強いなんて最高だね♪」
「イチゴーたちの可愛さがわかるなんて見どころがあるな」
と、ちょっとふざけて言ってみる。
実際、ゆるキャラやデフォルメ、二頭身キャラを知らないこの世界の人には、イチゴーたちが忌むべき魔獣型ゴーレムに見えている。
もしかしてハロウィーも異世界転生者なのでは? と俺が疑った直後、彼女は笑顔で言った。
「うん、まるくて手足が短いところが実家のブタや羊たちみたいでかわいいね」
――あ、そういう。
「可愛いって、でも食べちゃうんだろ?」
刹那、ハロウィーの表情が名探偵のように鋭くなった。
「経済動物なので」キリッ。
――なんて説得力だろう。
同時に、こんなにおとなしい子なのに魔獣をバシバシ射ることができる理由がわかる。
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