第8話 AIチャット無双
試しに何か質問してみようかと思うも、そこで学園の鐘が鳴り、俺は慌てて着替えた。
◆
一限目の授業は魔法戦闘学だった。
担当教師はカイゼル髭をいやらしくなでながら、居丈高にご高説を垂れ流していた。
「魔法戦闘に重要なのは重厚な知識です。ただ真正面から力押しをすればよいというものではありません。もっとも、このような高尚な話をしても育ちの悪い人や、環境を活かせない三流の生徒には無駄かもしれませんが」
厭味ったらしい口調で生徒たちをねめつけてから、先生は俺を指さした。
「ミスター・ラビ。魔獣と動物の違いは?」
――そんなの常識だろ? 何を考えているんだ?
「一定以上の魔力を持ち魔法を使うのが魔獣。魔力を持っていないか持っていても魔法を使えないのが動物です。馬とか牛とか」
例えば、ホーンラビットの場合、最低限だけどスピードアップの肉体強化魔法を使っているらしい。
「ではそれを最初に提唱した人物の名前は?」
先生の口元がニヤリと歪んだ。
――いや、そんなの教科書に載っていないだろ?
それに、誰が提唱したかなんて戦闘には関係ない。言っていることがめちゃくちゃだ。
俺が答えられないでいると、先生は上機嫌に鼻を鳴らした。
どうやらわざと生徒が答えられない質問をして、相手の無知を笑うのが趣味らしい。
生前も、わざと難解な言葉を使って相手が知らないと無学と笑う奴がいた。
世界が変わっても、人間の質というのは変わらないらしい。
そこでふと、俺は頭の中で神託スキルを使ってみた。
俺にしか見えないウィンドウが開いて、チャット画面が表示される。
本当にまんまAIチャットだ。
――イチゴー、魔獣と動物の違いを最初に提唱したのは誰だ?
なんて、イチゴーが知るわけもない。だけど、駄目元で聞いてみた。すると……。
『シートルはかせだよー』
――へ?
即答だった。半信半疑でメッセージウィンドウを読み上げてみる。
「シートル博士です」
「ぬっ、正解です……では魔法と魔術と呪文の違いは?」
「魔法は魔力を使った技術全ての総称。魔術は攻撃魔術、火炎魔術、支援魔術、回復魔術、のように魔法を種類ごとに分ける時に使う呼び方。呪文はさらに細かい技一つ一つのことです。火炎魔術の中のファイヤーボールみたいに」
「で、は、その分類を明確にしたのは誰で何年の話ですか?」
――イチゴー、今の話分かるか?
『アレイ・ローリーはかせでせいれき812ねんだよー』
「アレイ・ローリー博士が星歴八一二年に分類分けをしました」
「ッ、正解です」
先生は憎らし気に舌打ちをすると踵を返して、今度は別の生徒を当てた。
当てられた生徒はさらに難解な質問を浴びせられ、たじたじだった。
もっともその生徒は俺をバカにしていた生徒なので、可哀想とも思わない。
それより気になるのは……。
――イチゴー、お前凄いんだな。
『しられているちしきはしっているよー』
つまり、知識としてこの世に存在することは知っている、ということか。
生前も、ネットの知識を元になんでも答えてくれるAIチャットアプリがあったけど、似たようなものだろう。
さっきの一件で懲りたのか、先生は授業が終わるまで、一度も俺には質問をしなかった。イチゴーには感謝しかない。
ふと、生前、父さんの会社が作ったAIコンシェルジュにもやったように、自己紹介をさせてみる。
――お前は誰だ?
自分の名前やスペックを言ってくれる。そう思って尋ねたのだが、イチゴーは……。
『アクセス権限がありません』
――え?
メッセージウィンドウの一文に、俺はしばし唖然とした。
――どういう意味だ? アクセス権限を持っている奴が別にいるのか?
イチゴーは、神様から授かった俺のスキルで創造したゴーレムのハズだ。
俺以外に所有者がいるとなると、それこそ神様本人しかいない。
――イチゴーって、神様が作ったゴーレムなのか? 自律型AIゴーレム生成スキルって、神様から作った物をレンタルするスキルなのか? いや、まさかな。
いくらなんでも考え過ぎだと、俺は思考を遮った。
そうして二限目、三限目と授業は進み、迎えた昼休み。
食堂で安いパンとサラダを食べながら、俺はリザルト画面と各種ウィンドウを眺めていた。
俺のレベルは六から九に上がっていた。
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