第7話 なにこの可愛い生き物



 そして翌朝、目を覚ますと俺はレベル六になっていた。


「え? 俺すごくね?」


 寝惚け眼も吹き飛ぶ画面に、一人で誰かにツッコんだ。


 レベル六。

 個人差はあるけれど、確か去年の兄さんが一学期終了時にこれぐらいじゃなかったか?


 ステータス画面を見れば、筋力、速力、耐久力、どれもそれなりに上がっている。

 つい、ベッドの上で片手逆立ちをしてみると、あっさり成功した。


 ――運動神経もだいぶ上がっているな。


 次いで、新しいリザルト画面に目が留まった。


「またか。あいつら、もしかして一晩中魔獣狩りしていたのか?」


 なんだか凄くブラックな匂いを感じるも、ゴーレムの二人に疲れは無い。


 ゴーレムは、所有者の魂から生成される精神エネルギー、魔力で動く。

 そのため、理論上は疲労が無い。

 俺の魔力量は極めて平均的だけど、二人とも燃費がいいので魔力は一応足りている。


 単純計算で、五体までなら二十四時間稼働できる。


 ――それにしても燃費良過ぎじゃないか? エネルギー保存の法則さん、仕事していますか?


 もっとも、魔力を地球の物理法則に当てはめると何ジュールなのかわからない以上、そんなことを考えるのは不毛だろう。


 ベッドに座り込んだ俺は、さっそく五体目のゴーレムを作った。


 作り過ぎて魔力切れになっても困るので、六体目は作らない。

 青いポリゴンの中から、ちょこちょこと歩いてきたゴーレムに目線を合わせるように、俺はしゃがみ込んだ。


「よし、お前の名前はゴゴーだ。よろしくな」

『ゴゴーなのです』


 両手を腰に当てて、むふんとお腹——たぶん胸のつもり——を突き出してくる。


 なんだか、イチゴーよりもさらに幼い雰囲気を感じる。


 そこへ、サンゴーとヨンゴーが歩み寄ってくる。


 どうしたのかと思うと、急に三人は両手を挙げて、まぁるいおなかをぽよんと押し当て合った。


 視界のメッセージウィンドウが上に流れる。


『『『じょうほうきょうゆー』』』

『どうきー』

『れんけいー』

『へいれつかー』


 ――かわいいぃ!


 お腹をぽよぽよ当て合い、すりすりこすり合うゆるキャラゴーレムたちが可愛過ぎて、俺は何かが込み上げてきた。


 そこで、ふと違和感を覚える。


 ――同期、連携、並列化……これ、スマホとかITで使う言葉だよな? なんでそれがこの異世界にあるんだ?


 本当にスキルが女神の祝福でファンタジーな存在なら、地球のIT用語を使うのはおかしい。


 ――もしかしてここ、異世界じゃなくて未来の地球か?


 魔法と区別がつかないほどに科学が発達したあと、世界大戦で文明が滅び、人々は科学の名残を神格化した。


 神話の魔王と女神の戦いの正体は世界大戦。

 スキルや魔法はナノマシンとか遺伝子改造で人類が目覚めた超能力。


 ――無い話、じゃないな……。


 俺が推理していると、もちもち行為からゴゴーが外れた。

 そして、俺の横のリザルト画面を覗き込んできた。


『これがイチゴーとニゴーのリザルトがめんなのです?』

「そうそう。お前の姉妹機が森で倒した魔獣のリザルト画面だよ」

『ずるいのです。ゴゴーもいきたいのです』


 ゴゴーは短い手でぽんぽんと俺のわき腹を叩いてきた。


 ――イチゴーもだけど、おねだりするゴーレムって新鮮だな。


 普通、ゴーレムは命令通りにしか動かない。

 けれど、イチゴーたちは人間と同じように、自分の意思で動いているように見える。


 これが、自律型ゴーレム故の特徴だろう。

 ますます可愛く思える。


「ならお前も森に行っていいぞ? だけど無理はするなよ」

『わかったのです』

『ならじぶんもいきたいのだー』

『ヨンゴーもいきたいっす』


 三人はちょこちょこと手を動かしながら俺におねだりしてくる。

 その姿は可愛くて、つい甘くなってしまう。


「みんな好奇心旺盛だなぁ。じゃあ他の人には見つからないよう気を付けろよ。人に会ったらとにかく逃げの一手だ」


 最悪、魔獣と勘違いされて討伐されかねないからな。

 三人はそれぞれの返事をして、ぱたぱたと部屋を出ていった。


 ドアノブはヨンゴーがジャンプして回して開けた。

 指が無いゴーレムたちだけど、手に物が吸い付くようだ。


 ――ドラえも●かな?


 まるで小さな我が子たちが公園に遊びに行くのを見送る親の心境になると、またも新しいリザルト画面が開いた。


 ストレージに追加された魔獣の素材一覧を目にして、あらためてストレージ内を確認した。


「へぇ、一晩の間に随分と増えたな」


 イチゴーとニゴーが倒した魔獣の経験値も素材も全部俺のモノになるので、まるで放置ゲーをしているようでなんだか楽しい。


 生前は、そんなソシャゲをいくつもやっていた。


 がんばったご褒美にと、俺はウィンドウを操作して素材をイチゴーとニゴーにどんどん配合していく。


 ちょっとずつ強化されていく二人のステータスに俺が満足していると、ある素材に目が留まった。


 夜の間に倒したであろう、スタンバットというコウモリ型魔獣の素材に【!】がついている。


 気になりイチゴーに配合してみると、ウィンドウにダイアログが追加された。


『神託スキルが使用可能になりました』


 続けて、森にいるはずのイチゴーからメッセージが届いた。


『なんでもきいてねー』


 それで理解した。


 どうやら、新しいスキルの解放には俺自身のレベルアップと同時に、必要な素材をゴーレムに配合する必要があるらしい。


 俺とゴーレムの関係は、ちょうど人間とスマホの関係に近いようだ。


 俺がアプリの使い方を覚えても、スマホにアプリをインストールしないと使えない、というわけか。


 試しに何か質問してみようかと思うも、そこで学園の鐘が鳴り、俺は慌てて着替えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る