異世界転生という名の天災
原咲一
第1話 学園生活と異世界
異世界転生。夢の世界で心躍る冒険譚。あこがれてくれていると、扱いやすい。冒険がしたければさせてあげよう。異世界で無双したいというなら力も与えよう。そして世界をどうぞ救ってください。くれぐれも冒険の途中で投げ出さないで。強力な敵が現れても、先の見えない世界にも絶望しないで。平和な世界へ導いて。
「やっとここまで来た。」
剣を掲げ、見据える先には巨大なドラゴン。思い返せば長い道のりだったが、ついに終幕の時だ。苦楽を共にした仲間たちとともにならばきっとこのグランドクエストもクリアできる。仲間たちと共に必ず世界を救って帰るんだ。
「いくぞ。決戦開始だ。」
朝。
心地よい夢の世界からこの身を現実へと呼び戻すアラームの音に不快感を憶えながらもなんとかベッドから抜け出すことに成功した。恨めしいアラームは午前六時だと告げている。
「さすがにこれ以上の遅刻はまずいからな。」
いくら朝が苦手といえど出席不足で留年なんて笑えない。まだ覚めていない頭を起こしながらゆったりと着替えを済ませ、リビングへ向かうと、朝ごはんの良い香りが鼻をくすぐる。朝ごはんは一日のはじまりなどど言うが、あいにくと睡眠優先の俺には朝食の時間など残されていない。
「たまには、朝ごはん食べていったら?」
「その分だけ寝てたいからパス。」
「元気でないわよ。」
「大丈夫だよ。」
母さんとの毎朝のやり取りをしつつもせっせと支度を整え、家を出る。俺の通う都立高校までは、電車通学で家から約一時間だ。窮屈な満員電車に揺られた後、ようやく最寄り駅に到着し、いそいそと電車から降りる。高校生になって半年たつが、通勤ラッシュには慣れる気がしない。
「おう、秀。」
「よう、浩希。」
俺に声をかけてきたこいつは佐久間浩希。黒髪ショートヘアスタイルでいかにも今風の男子高校生といいた風貌だ。知り合ったのは高校に入ってからで、見かけから当初こそ苦手意識もあったが、浩希のフレンドリーな人柄と趣味が合うことからも意外とすぐに打ち解けられた
「なあ、昨日のアニメ見た?」
「いや、まだ。昨日はソシャゲがイベント終了ギリギリだったから。今日帰ったら見るわ。」
「相変わらずだな。昨日の回、神展開だったぞ。あそこで、あのキャラの活躍が見られるなんてな。」
「おい、おまえ止めろよ。その話はまた、明日な。」
「はいはい、分かってるよ。ネタバレ絶対許さないマンだもんな。」
「まあ、そうだけど、その言い方はやめてくれ。」
「リアタイで見てくれたらやめるよ。」
「それは無理な話だな。」
「なんでだよ。」
そう、こう見えて浩希とはアニメやゲームの話題から仲良くなれた。最近はアニメや漫画好きが増えて、ポピュラーな趣味の一つになっているってテレビが言っていたが、現実はそんなことはなかった。少年漫画原作の有名アニメや、人気アニメは好きな人はいても、コアな話ができる程のアニメ好きはなかなかいない。入学時の自己紹介で、声高らかにラノベ好きだと宣言したやつもいたが、その後、クラスメイトから明らかに距離を置かれていた。アニメ好きですらあまりいない中、ラノベといっても伝わりづらかったのだろう。かくいう俺もラノベ好きではあるが、周りの空気のせいか友達になったやつだけにしかそのことは話していなかったりする。
「別になにが好きでもいいじゃん。」と浩希は言うが、それは、浩希だからできることだと言う度、自分に嫌気がさす。そんな浩希だからこそこうして友達になれたのだろうけども、やっぱり本人に伝えるのは恥ずかしすぎるし、きっと、伝えることはないだろう。
浩希と他愛もない会話をしているうちに俺たちは学校へ到着した。
「おはよう。二人共。」
教室に着いた俺たちを出迎えたのはクラスの人気者、北村鈴香。茶髪のセミロングヘアでぱっちりとした瞳、スタイルの良さから男子からの人気も熱い。ちなみに俺の小学校からの幼馴染だったりする。
「おはよう、鈴。」
「おはよう、北村さん。」
「もー。浩希くんは鈴で良いって言ってるのにー。」
「さすがに呼べないって。男子からの目が怖いし、秀に悪いし。」
「何で悪いんだよ。」
「まあ、そこはほら、分かるだろ。」
「分からねーよ。いい加減観念したらどうだ?鈴はしつこいぞ。」
「ひどー、そんな言い方する?私は浩希くんともっと仲良くなりたいだけだよ。秀だってなかなか鈴って呼んでくれなかったじゃん。だから、浩希くんにも攻めの姿勢でいかなくちゃ。秀ほど苦戦しないと思うけどね。」
「なかなか呼ばなくて悪かったな。」
「その分、目いっぱい遊んであげるんだから。」
「はいはい。お願いしますよ。」
確かに、俺が人見知りなのは認めるが、これに関しては俺の身にもなってほしい。幼馴染の俺から見ても鈴はかわいい。もちろん、恋愛感情は抜きにして。男子の目が釘付けになるのも分かる。加えて、活発で距離を縮めやすい。人気になるのも頷ける。でも、なぜか男子たちからは北村さんと苗字で呼ばせている。鈴に聞くと、仲良くなった男の子にしか名前で呼ばれたくないらしい。俺から見ると仲良さそうなのだからそこがよく分からない。ともかく、そんな彼女に対して、俺だけが鈴と呼ぶとなると、男子たちからの視線がいかに痛いか。はやく浩希にもこの痛みを味合わせてやらねば。
「あっ。もうホームルームの時間だ。」
「もうそんな時間か。じゃあ、また後で。」
「おう、またな。」
俺たちのクラス一年A組は約四十人の生徒が在籍している。国立とはいかないまでも都内の有名私立大学へと進学する生徒が多いからか比較的まじめな生徒が多い印象だ。授業と休み時間の切り替えができる生徒が多いというか、学校全体の空気がそうさせているのか。おかげで授業はつつがなく進む。大学進学を考えている俺からしても塾や予備校にはなるべくお金をかけたくない分助かっている。休み時間には、教室中からクラスメイトたちの話声や笑い声が聞こえてくる。教室の隅、席替えでは当たりの席とされる窓側の列の一番後ろの席。その周囲を除いて……
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