第26話 勇者


 俺は闇落ちした勇者を見て思っていた。


 ……なんかものすごく自分本位な理由で闇落ちしたなと。


 いやなんか大変だったのだろう。家族が死にかけたというのも可哀そうではある。


 ただなんというか。こう、確か彼女らは商売をしにアーレーン国に来ていたはずなわけで。


「……商売が失敗したから世界に絶望しましたは、流石に話の飛躍が過ぎないか?」


 などと思ってしまう。


 いや大変だっただろうし、助けてくれなかった人を逆恨みする気持ちは分かるよ?


 でもそこから世界を滅ぼすって流石に発想が自分勝手すぎるというか。


「ふ、ふふふ……殺すっ!」


 すると勇者は血走った目で俺の方を見て笑ってきた。


 彼女としても少し感じてるところはあるらしい。たぶんあれかな、魔王が半分洗脳してるのかもしれない。


 勇者ちゃんは最終的には超強くなるが序盤は弱いし、その時に魔王に洗脳されたら抵抗しきれないだろう。


「おい魔王。彼女の洗脳を解いてもらおうか」

「断る」

「やっぱりお前が洗脳してたのか……じゃあ勇者ちゃんのその悪趣味な露出服もお前が?」


 勇者ちゃんだがかなりきわどい服を着ている。


 簡単に言うなら黒いビキニ水着風の鎧で、肌がものすごく露出している。どう考えても勇者が着ていい服じゃない。


 ゲーム内勇者ちゃんは肌なんて顔しか見えないくらい、しっかりと隠していたのに……これは間違いなく悪落ちと言わざるを得ない。


「ふふふ。我が配下となる人間が、普通の人間と同じ格好をしてはダメだろう」

 

 そんな理由でビキニ鎧着せられてる勇者ちゃんが少し不憫に思えてきた。


 実際よく見たら勇者ちゃん微妙に恥ずかしそうにしてるし。


「ええい! 貴様はアーレーン国の貴族なのだろう! ならば私の怨みを受けてもらおう!」


 そう言って腰の鞘から剣を引き抜く勇者ちゃん。


 そういえば今は命を賭けた戦いの最中だった。正直少し忘れてたが。


「よし。なら俺が君を救ってやろう」


 などと豪語しつつどうするか考える。


 と言うのも実はわりとヤバイ状況だからだ。俺は魔王軍相手なら誰だろうと戦えるように、地球から様々なアイテムを用意してきた。


 ゲーム知識もあるのでどんな相手だろうと弱点をついて勝てると見込んでいた。


 だが闇落ち勇者ちゃんはゲームにいなかったので、情報がまったくないのだ。つまり弱点をつけないのでまともに戦うしかない。


 まともに戦ったら俺はクソ雑魚だぞ。本編中盤辺りから限界を感じるくらいには。


 とは言えども今、勇者と戦う役を担えるのは俺とミアレスちゃんだけだ。クラエリアには魔王を倒してもらわないとダメだし。


「ミアレスちゃん、手伝ってくれるかな? あのちょっと悪ぶってる女の子を折檻しないとね」

「は、はいです!」

 

 そういうわけで俺は勇者ちゃんと戦わざるを得ない。


 レベル差は……20ほど勇者ちゃんの方が高い。普通にやったら勝ち目ないなこれ……。


「炎よ踊れ。フレイム!」


 試しに火の玉を放って攻撃してみると、勇者ちゃんは避ける素振りも見せずに直撃した。そして無傷である。


 白い珠のお肌に当たったのにキズ一つない。


「私は闇の力を得たのだ! そんな程度防ぐまでもない!」

「くっ……見た目に反して硬い……!」

「あんなに肌を露出させて、まともに身体を守る気もないのにおかしいですよね……」

「次は私の番だな。闇よ襲え。ダークスネーク!」


 勇者ちゃんが構えた手から、漆黒の蛇みたいなのが出てきてこちらに飛んでくる。


 なんだあの魔法!? 見たことないぞ!? マジックバッグに手を突っ込んだが、防ぐのに適したアイテムが思いつかない!?


 えーっと、なんかないかなんかないか!?


「スレイン様! 危ないです! 聖なる盾よ! ホーリーウォール!」


 そんな俺を守るようにミアレスちゃんが光の壁を出現させる。


 闇の蛇は光の壁に激突して歯を立てる間に、俺は蛇の進行方向から逃れた。それと共に光の壁も崩れ去り、蛇が俺の元いた場所を過ぎ去って部屋の壁に激突する。


 そして部屋の壁は大きく穴をあけて、外の廊下とつながってしまった。


 あ、危なかった。あんな魔法が直撃したら即死だった。


「う、うそ……闇魔法に相性のいい光魔法なのにまったく歯が立たない……スレイン様! この人ヤバイです!」


 ミアレスちゃんが必死に叫んでくる。


 本来なら闇魔法は光魔法に弱い。なのにミアレスちゃんの光魔法を、勇者ちゃんは闇魔法で圧勝してしまった。


 つまり圧倒的な力の差があるということだ。


「ふっはははは! 私の闇の力の前に死ね! 貴様ら貴族がもっとましな政治をしないせいで! 私は死にそうになったのだ!」

「すごい闇の力を感じるです……間違いなく恨まれてますよ、スレイン様!」

「俺の領地の住人だったなら、まだ彼女の言い分も分かるんだけどなあ……」


 他領の住民の生活が苦しいからって、それで俺が恨まれるのは流石に勘弁して欲しい。


 ただ今の魔法で確信を得た。勇者ちゃんは闇属性に堕ちてしまっていると。


 ならば相性のいい光属性で戦えば勝てる! そして……地球ほど光に満ち溢れた世界はないぞ!


 それとともに思いついたことがある。


「勇者ちゃん。残念だが君はここで終わりだ! この力でな!」


 俺はマジックバッグからあるモノを取り出した。それは日本におけるチートアイテム。


 異世界どころか日本の三十年前の人に見せても、こんなものあり得ないとまで言われる代物。そう、それは。


「スレイン様!? それって遠くの人と話せるやつですよね!?」


 スマホである。俺は闇落ちした勇者をスマホで倒すことにした。

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