第20話 つまらないものですが……


 俺たちはさっそくゲーム世界に戻って、自動車で他国の街へと突撃した。


 目的は勇者パーティーの面々を仲間にするためだ。


 だが当然ながら俺は勇者パーティーたちと知り合いじゃないし、他国なので特にコネもない。門前払いされるだろう、普通ならば。


 まず最初の目的地は鍛冶の街だ。そこで鍛冶師兼斧使いのマティアスというドワーフを雇うことにする。


 さっそく俺は街に入って、目的の鍛冶屋に到着した。ところせましと剣や盾などが並べられている中、気難しそうな髭をたくわえた老人が出てくる。


 彼がマティアスだ。


「なんじゃ客か。剣を振るうようには見えんが」

「いえ私は貴方を雇いに来ました」

「帰れ」


 瞬時に背を向けて店の奥に戻ろうとするマティアスに対して、俺はカバンからとあるモノを取り出す。


「お待ちください! 実は素晴らしい酒がありまして! これはウイスキーと申しまして!」

「なにぃ! ワシを酒で釣ろうとは愚かな! ドワーフたるもの酒には飲み慣れてうまいぞこれはぁ! どこでもついていってやるわい!」


 ウイスキーをボトル飲みしたマティアス、撃破!


 よしまずはひとりだ! ゲーム知識で勇者パーティーの好みを把握してるからな! そこに地球の品物出せばいけるんだ!


 そうして俺はさらに他の街に自動車で爆走して、勇者パーティーを引き抜いていく。


「まあ! なんて綺麗な紅! これを口につけるなんて!」

「仲間になってくれたら百個でも進呈しますよ!」

「もちろんよぉ!」


 色仕掛けのメルルを口紅で色仕掛けして落としたり、


「なんてうまいんだ! から揚げにコロッケ!」

「仲間になってくれたら食べ放題ですよ!」

「うっす! ゴチになりやす!」


 デブのデブブ(本名)を食べ物で釣ったり、


「ふひひひ……まさか俺の知らねぇ毒があるとはなぁ!」

「仲間になってくれたらもっと毒物差し上げますよ!」

「いいだろう」


 毒殺のボズルに、芽つきのジャガイモとか毒キノコをやって買収したりした。


 こうして俺は勇者パーティーを次々と仲間にしていく。もうディアボロス・クエストの元々のストーリーは再現不能だろう。

 

 やってしまった感はあるが仕方ない。俺だって死にたくないのだから。


 そうして各自、アーレーン国に来てもらう約束を取り付けたので、俺たちはまた自動車で爆走していた。


「さて最後だ。もう俺は自重しないから主人公の勇者を仲間にするぞ!」


 俺は運転席でそう宣言する。


 主人公、それはゲームにおける最重要人物。そして勇者パーティーの中心人物にしてリーダーになるはずの者。


 そんな勇者を俺が自分のパーティーに招き入れるのだから、もはや原作ストーリーとか木っ端みじんだ。

 

「勇者ってどんな人なんですか?」

「知らん」


 ミアレスちゃんの問いに即答する。実は俺も勇者についてはよくわからないのだ。


 というのも主人公である勇者はプレイヤーの分身だ。なのでほぼ喋らないし特徴もあまりない。


 よくゲームである無言タイプの主人公だから、性格も好みもよくわからない。


 さらに言うなら性別も不明だ。だってゲームでは最初に男か女か選べるので、この世界ではどうなっているのかわからない。


 だが出身の村は知っている。勇者は本編開始まではその村にいるはずので雇い入れることは可能なはずだ。


 そうして俺たちは村に到着した。自動車を村の近くに置いて、さっそく勇者らしき人物を探すことにする。


 さっそく村人のひとりに声をかけて尋ねてみると。


「勇者? 誰だいそれは? というかあんた誰だい?」


 などと返って来る。これはそうだろうな、なにせまだ主人公は勇者になってないのだから。念のために聞いてみただけで。


 なんか怪しまれてるのでここは必殺技を使おう。


「えっと。俺と同じくらいの年で優秀な者はいないか? 俺はスレイン・ラグナロク。いい人材を探してるんだ」


 最終奥義公権力。平民は死ぬ。


 家紋の入ったナイフを見せつけると、村人はいきなり平身低頭し始める。


「お、お貴族様とは知らず失礼な態度を……!?」

「いや構わない。それよりも優秀な者がいたら教えて欲しい。小耳にはさんだのだが優れた者がいると聞いた」

「へ、へへぇ! 大人顔負けの剣術を使う上に、魔法も扱える奴がいました!」


 剣も魔法も使えるのは間違いなく才能のある者だ。


 こんな田舎でそんな天才はそうそう生まれないだろうし、そいつが勇者と見て間違いないだろう。


「じゃあその者の元へ案内してくれ」

「た、ただですね……そいつ、もう村を出て行ってしまったんでさぁ」

 

 は? 村を出て行った? そんなバカな。


 勇者は本編開始まで村にいるはずだ。なにせこの村が物語の始まりの場所なのだから。


「じ、実はあいつの親は小さな行商人の家でして。アーレーン国の景気がいいと聞いて、村から飛び出していったんでさぁ。なんか油や鉄などの需要が高いとか」


 ……から揚げとコロッケを揚げるには油と鉄鍋が必要だ。


 まじかよ。から揚げとコロッケのせいで主人公の動き変わってしまったじゃん。


 なんてバタフライ現象だよ。


「……どこに行ったかは知らないのか?」

「アーレーン国のどこかとしか……」


 アーレーン国はそれなりに広いので、手かがりもなく知らない人間を探すのは難しい。


 俺が王ならば国中にお触れを出して捜索も可能だろうが、一領主ではいくらなんでも難しい。仮に見つかるとしてもどれだけ時間がかかるか。


 あ、これ勇者を仲間にするの無理だ。魔王襲来までに間に合わない。


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