第9話 回復魔法には知識が欲しい
ミアレスちゃんはまだ未熟だが、ゲーム本編では大神官になっている逸材だ。
勇者パーティーにこそ入らないが、その回復魔法は世界でもトップクラスと言われていた。ミアレスちゃんがゲーム本編通りの力を得れば、間違いなく戦力強化になる。
「つまり主人公たちを集めるの?」
「いやそいつらはダメだ。さっきも言ったけど、ゲームのストーリーを必要以上に変えたくないんだよ」
「でも物語の最初の魔王軍襲来を防いだら、どう考えても話が変わっちゃうような」
「…………俺の死亡フラグを避けるために変えざるを得ないところはある。なのでそれ以外はなるべく変えたくないんだよ。分かって?」
「なんかヘビースモーカーが健康を気にするみたいだね。健康に最も影響してそうな
「やめろ」
仕方ないだろ。主人公様を味方にしたら、流石にこの世界がどうなるか予想つかないし。そもそもストーリーを変えるなという話は受け付けないが。
俺の行動に矛盾があるのは理解しているが、人間は矛盾の生き物だ。お金がないと言いながら高いモノを買ったり、痩せたいと思いながら高いカロリーのモノを食べるのだから。
タバコはやめられないからこそ、他の部分では健康に気を使うんだよ! というかタバコならやめられても、死亡フラグはやめられないだろうが!
目が悪いからって、パソコン仕事はやめられないだろうが!? 目薬とかさして頑張るしかないんだよ!
「いや待て。なんでお前がタバコのこと知ってるんだよ」
「薬剤師スキルをまだコピーしてるからね」
「それタバコの知識も入るのかよ……まあいい。つまり勇者が魔王を倒すまでアーレーン国を守り続けるんだよ」
それにこれは俺だけの問題ではない。アーレーン国が滅べば大勢の人が犠牲になるわけで、それを避けるのは至極当然にして人間として当たり前のことだ。
なので俺が自分のワガママでストーリーを変えるわけではない。
「ほら掴まれ。ゲーム世界に戻るぞ」
「はーい」
クラエリアが俺の腕に抱き着いてきたのを確認してから、転移魔法で王都にある自宅へと戻った。
俺は貴族ではあるのだがこの自宅は屋敷ではない。普通の一軒家だ。
金がないから屋敷が建てられなかった。俺が魔物を狩ったりして稼いだ金では、屋敷を買うのは無理ゲーだったんだよ! チートアイテム装備してなお、そこそこ強いどまりだったんでな!?
そんな苦労して建てた家が、魔王軍によって燃やされてしまうなんて。
「畜生、魔王軍め……! よくも俺のマイホームを……! いつか魔王城燃やしてやるからな……! マイホームの仇……」
「被害者ぶってるけどまだ燃やされてないよねこの家」
「行くぞクラエリア! ミアレスちゃんはまだ王都にいるはずだ! 家の仇をとる!」
俺はさっそく家を飛び出して、ミアレスちゃんが泊っているであろう宿に走る。
泊ってる宿はだいたい見当がつく。なにせうちの領地は金がないので、安い順にいくつか訪ねていけば当たるだろう。
おそらくだが王都で五番目くらいに安い宿に泊まっているはずだ。ただ念のために一番安い宿を訪ねてみると、
「スレイン様? どうかされましたか?」
王都最安値の宿にミアレスちゃんは泊っていたので、宿に併設された酒場の席に座って話をすることにした。
……分かってたけどうちのラグナロク領は金がないなあ。一応は貴族の従者だし、外聞があるから最安値の宿には泊めないと思ったのに。
いや嘘です。内心ではありえると思ったから最初に探しました。はあ。
「ミアレスちゃん。悪いんだけど王都に戻る前に、ちょっとやって欲しいことがあるんだ」
「いいんでしょうか? 先代様から早く戻るように言われてますが」
「神官の仕事が溜まってるのか?」
「いえ一日でも滞在費を節約しろと言われてまして」
ケチすぎる……貴族の言葉じゃない。
「それなら大丈夫。滞在費はかからないし、俺が領地まで送ってあげるから」
「ありがとうございます! でも送るってどうやるんですか? スレイン様は転移魔法を領地の屋敷に登録していませんよね?」
転移魔法は登録制で自分の持ってる家にしか飛べない上に、二地点までしか登録できないのだ。
俺は王都のマイホームと日本の自宅を設定してるので、自領地の屋敷には飛べない。
「送るのは転移魔法じゃないから。ともかく俺と他国に出向いて欲しいんだ。転移魔法で飛べるから距離と時間は気にしなくていい」
ようは俺の世界にミアレスちゃんを連れていきたいのだ。
本当は他国というか他世界なのだが説明するの大変だからな。クラエリアに話した時も理解させるのに苦労したし。
「えっ。他国に出向くのですか? ご命令となれば従いますが、いったい何のためにでしょうか?」
「ミアレスちゃんは神官だから回復魔法が使えるよね。それを強くするための短期留学かな。と言っても数日間だけどね」
「りゅ、留学ですか!? ……そ、その! 私が回復魔法を上手に使えるようになったら、スレイン様は嬉しいですか?」
ミアレスちゃんは上目遣いで俺を見てくる。カワイイ。
「もちろん嬉しいよ。ただ無理にとは言わないから、どうしても嫌なら」
「い、行きます!! 頑張ります!!!」
ミアレスちゃんは勢いよく立ち上がって、周囲で飲んでいた人たちの注目を集めてしまった。
「す、すみません……」
「いいよいいよ。じゃあさっそくだけど行こうか」
「はいっ! ってきゃあ!?」
またコケてしまうミアレスちゃん。だが今回は俺が受け止めたので怪我などはないはずだ。
ちなみに彼女の頭突きが俺のみぞおちに入って、わりと大ダメージだ。具体的にはHPが半分以上減ったくらい。
「ごふっ……だ、大丈夫かい? ミアレスちゃん」
回復魔法の使い手がよく転んで怪我してしまうのはよくない。だが彼女はよく転んで自分で癒すから回復魔法が得意なのだ。
それは回復魔法をよく使うというのもあるし、自分がよく怪我して治すというのを繰り返した結果、身体の仕組みをなんとなく理解しているところもある。
この世界の神官は薬学や医療技術なども学ぶし、回復魔法の効果に医療知識などが影響している。
「ありがとうござい……あ、あのスレイン様こそ大丈夫ですか?」
「ははは、大丈夫だとも。うん大丈夫。そう俺は大丈夫……」
赤い顔で照れるミアレスちゃんに見とれていると、クラエリアが俺の腕を引っ張ってきた。
「ねえねえ早く行こうよー。ボク、メロンソーダ飲みたい」」
「わかったわかった」
俺たちは店から出るとさっそく転移魔法を使って、日本の家のリビングに戻ってきた。
「……ここどこですか? 見たことのない雰囲気の部屋です」
ミアレスちゃんは扉や窓ガラスに近づいて観察している。
「ここは日本っていう国だよ。アーレーン国とは違った文化を持っていてね。それでミアレスちゃんに見て欲しいものがあるんだ」
違った文化はだいぶ苦しい言い訳だが、ひとまず納得してもらえればそれでいい。疑われたら正直に話せばいいし。
俺は机の上に置いていたノートパソコンを起動して、用意していた動画を流し始める。
そこに流れるのは人の身体の仕組みを説明する動画だ。
「人体について学んでほしいんだ。そうすればより回復魔法で人を癒せると思うから」
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