第3話 風邪薬はチートでした?


 俺は玉座の間でアーレーン王に謁見していた。


「これが姫様の病を治す薬でございます。エンシェントドラゴンの牙や、ゴールデンマンドラゴラの身を削った素材を混ぜた逸品です!」


 などと言いながら市販の風邪薬の瓶を王様に差し出す。


 大嘘だが仕方ないだろう。薬に使われてるアスピリンなどの化学物質を告げたら、悪魔の呪術みたいに聞こえかねないし。


 ちなみに地球のモノをこの世界に持ってきたら、ゲームのアイテムになるようで少しだけ変異する。


 その品質に応じてゲーム世界に適したモノになるようだ。


 王の側近の兵士は風邪薬を受け取ると、王の元へと持っていく。


「むむむ……白く美しい石にしか見えぬ。こんなものが本当に病に効くのか……?」


 王様は手に錠剤を出してまじまじと見つめている。風邪薬の瓶を持った王様はなんとなくシュールだな。


「もちろんでございます。このスレイン・ラグナロクの名にかけて」

「ううむ……」


 王は俺に疑いの目を持っている。当然だろうな、大事な娘が生きるか死ぬかに得体のしれないモノは怖いだろう。


 だがそれは想定済みだ。


「それと他にも王に献上したいものがございまして」


 俺は黄色の包み紙に入ったモノ、のど飴を王に向けて差し出した。


 王は俺が渡したのど飴の包み紙を、目を細めて確認している。ちなみにレモン味だ。


「ごほごほ……な、なんじゃこの黄色いのは」

「のど飴と申します。喉の調子をよくする効果があります。いかがでしょうか」

「ほう。この飴の効き目で薬の力も証明すると。毒見役を……いや」


 王は飴の包み紙を口に持っていき……、


「スレイン騎士爵よ……どうやって中身を取り出すのだ?」

「ギザギザ部分を指で割いてください」

「おお! こうもあっさり破けるとは! しかしこれは綺麗な飴じゃな」


 王はのど飴を指でつまみながら、まじまじと見つめている。


 あのギザギザすごいよな。冷静に考えると天才的な発明だと思う。


「大賢者の力作です。当然ながら見栄えも気にしています。ささ、どうぞお舐め下さい」

「うむ。では頂こう」


 王はのど飴を口に入れて舐め始める。その瞬間に目を見開いた。


「なんと甘い飴じゃ!? これが薬の効能を持つというのか!?」

「はい、もちろんでございます。もう少しお舐め下さい。喉の調子というか、痛みが少し薄くなってくるはずです」

「確かにお主の言う通りじゃ。喉の痛みが消えてきておる。なんとすごい薬じゃ……」


 のど飴ほど即効性のあるモノはなかなかないと思う。それにこの世界ではのど飴もSランクのアイテムと化しているので、なんかこう力が増しているからな。


 王は吟味するように飴を舐め続けた後、俺を強くにらんできた。


「よし。スレイン・ラグナロクよ。お主を信じる。その薬を我が娘に飲ませよう」

「ははっ」


 そうして謁見が終わった後、俺たちは客室へと案内された。


 ただ先ほどに比べて部屋の外にいる見張りの兵士が多い。


「さっきよりも待遇がよくなったね! 護衛を増やしてくれたみたいだし!」


 クラエリアは両手を頭の後ろに組んで、すごく能天気そうに笑っている。


「いや俺たちを見張ってるだけだぞ。姫様が死んだ時に逃がさないためにな」

「えっ? なんで?」

「その時は姫様暗殺の現行犯だからだよ。なんか不安になってきたんだけど、あの風邪薬で本当に姫様は治るんだよな……?」

「大丈夫大丈夫。だってエリクサーに匹敵する風邪薬だよ!」

「風邪薬って時点で信用度が激落ちするんだが」


 日本の風邪薬はすごいとは思うが、それとこれとは話が別だろう。


 正直エリクサーを飲んだ方がよっぽど治りそうだ。だがエリクサーは腕や足すら再生させるのだが、病気にはまったく効果がない。


 なんで腕や足すら再生できるのに風邪には全く効かないのか。


「エリクサーがウイルスも増やすからじゃないの?」

「微妙に説得力のある理屈やめろ。というか心を読むな」

「だってつまらないんだもん!」

「ほらゲーム機持ってきたから。ディアボロス・クエストで遊んでおきなさい」

「わーい」


 俺がマジックバッグから取り出したゲーム機を、クラエリアはすごく嬉しそうに受け取った。


 そして椅子に座るとさっそくゲームを遊びはじめる。


 ディアボロス・クエストのゲームキャラが、ゲームの世界でディアボロス・クエストをプレイする。


 もうなんか色々とおかしいがツッコんだら負けだ。


 ……そういえばこの世界では地球のモノはアイテム化するが、じゃあディアボロス・クエストのゲームはいったいどうなるんだろうか。


 試しに鑑定スキルを発動してみると、


 ディアボロス・クエスト――EXランクのアイテム。世界の命運を指し示す神器にして、本来この世界に存在してはならぬもの。この世界で起動すると世界がバグって崩壊する可能性がある。


「なんでゲーム取り上げるの!? 遊ばせてくれるって言ったよね!?」

「そのゲームをここで遊ぶと世界が滅ぶんだよ!? ゲームはおうちに帰ってから!」


 俺はクラエリアからゲームを取り上げると、急いでマジックバッグに詰め込んだ。


 も、もう二度とディアボロス・クエストはこの世界には持ってこないようにしよう。ゲーム起動して世界滅びましたなんてシャレにならない……。

 

「ねえねえスレイン」

「なんだよ」

「本当に世界が滅ぶか試してみたくないかな?」

「やめろ。少しだけ心が揺れただろ」

「それとそのゲームが一番のチートアイテムじゃない? いざとなったら魔王軍を道連れにできるね! 少なくとも一方的に負けることはなくなったね!」

「魔王軍よりお前の発想が怖い」


 そんな感じで時間を潰していたら、俺は再び玉座の間に呼び出された。


「よくやってくれたぞスレイン騎士爵! そなたのくれた薬のおかげで、我が娘の熱が下がり始めた!」

「ははっ!」

「しかしあの薬の効果は凄まじいな。いったいどうやって手に入れたというのだ? 国宝にもなりそうな質の薬だ。凄まじい苦労をして得たのだろう。スレイン騎士爵よ、そんな薬を我が娘にくれたこと。感謝してもしきれぬ」


 なんと王は俺に向けて頭を下げてきた!?


 ものすごく感謝されてるのが伝わって来る。あの薬は普通にドラッグストアで千円ほどで買いました、なんて言えねぇ……。


「い、いえいえ! あの程度の薬で感謝されても困ります!」

「なにを言うか! エリクサーと並ぶほどの質の薬だろう! 大神官に鑑定させたらそう言っておったぞ!」


 確かにそうなんだが風邪薬でそこまで感謝されたら逆に困る。主に罪悪感とかが。


 とにかくこれで姫様は死なずに済んだな。


 しかし本当に日本に戻れるようになってよかった。もしこのままゲーム世界にいたら俺は詰んでいただろうからな。


 日本に戻れるのに気づいた時のことを思い出していた。



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