第19話 『信用問題』
「あの頃は良く、言い争いをしておったのう」
ドク博士は、腕組みをしながら顎に手をあて、思い出にひたります。
「あ、アノ……博士。ちょっと良イデスか?」
「なんじゃい。今、良いところなのに」
なにが良いところだったのか、助手くんには分かりませんでしたが、それでもおずおずと進言します。
「その……トテモ申し上げニクイのですが、今回のタイムマシンは、起動サセない方ガ良いカと……」
「ほう、助手くん。それは儂に、遠回しにイチから作り直せというとるのかのう?」
「ソ……それハ……そノ……」
圧のかかったドク博士の声に気圧され、あわあわしてしまう助手くんでしたが、次の瞬間『びしっ』と、腹を決めたかのように直立しました。
「ソうデス」
それを聞いたドク博士は、脊髄反射的に右こめかみ辺りにギャグ的な青筋を浮き上がらせます。
「なんじゃとぉお!? 助手くんは、儂の発明したタイムマシンが信用ならんと言うのか!?」
両手を上げ、声高にわめくドク博士に、助手くんは、先程手にしたノートを再度、両手で開いて見せ、言い合いを始めてしまいます。
「い、イヤ、しかしデスネ!? そのタイムマシンは、このノートに書カレテいる理論ヲ参考にしてイルンデスよね!?」
「それはつまり、儂の夫、イーの次元理論が間違っていると言いたいのか!?」
「ソウデス」
「なお、悪いわ!!」
「デ、ですがデスネ!?」
「大体じゃな、全部読んでもいないのに、イーの理論が間違っているとは、よういえたのう!!」
「最初のページを見たダケデ分かりマスよ! 夫婦で自爆シタがってるジャナイですカ!」
「のじゃろり〜!!」
「どんな感情ナンデスか!? ソレ!?」
ああ言えば、こういう。ドク博士と助手くんの言葉の応酬は少しずつ熱を帯び、いつ終わるとも分からない状態になってしまいます。
「大体、助手くんはじゃな!」
「待って下サイ、博士。ナニカ、聞こえマセンか?」
研究所内に響きわたる異音に気づいた助手くんは、つい先程までふりふりしていた右手を止め、ドク博士に気持ちを沈め、静かにするように促します。
「なんじゃい、助手くん。逃げる気かの?」
「イエ、そうではナクテ……何か、音がスルヨウナ……」
その言葉に、ドク博士もようやく冷静なったのか、助手くんの話に素直に耳を傾けます。
「音じゃと?」
「ハイ。何か、『しゅう〜』という……」
ドク博士と助手くんは息をひそめ、音が聞き取れる様に耳をすませます。すると、助手くんの言う通り、部屋の何処かから『しゅ~』という異音が、聞き取る事が出来ました。
「む? この音……」
「博士、コレって……」
この異音の正体を、ドク博士と助手くんは瞬時に理解しました。ですが、それ故に、その異音のする方へ向かって振り向く勇気が起きませんでした。しかし、だからといって、このまま放置というわけにもいきません。
ドク博士と助手くんは、意を決して、異音のする方へ向かって振り向きます。
するとそこには、既に導火線の半分を燃やし、本体であるタイムマシンに近づいて来る炎が見えました。
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