第17話 『イーの遺産』
「いやイヤいや。それデハ困りマスよ、博士。自分で開発シタものナノに、どうイウ原因か解らなイトイウのは」
助手くんは、両腕を広げる様に両肘を曲げ、そう言うと、ドク博士は顔の前で右手を縦に振りながら『にぱり』と微笑みます。
「と、いうのは冗談じゃ。タイムワープについては儂の夫、イーが遺してくれたこの理論を参考にしておる」
ドク博士の左手には、いつの間にか一冊のノートが握られていました。何処から出したかは、謎です。
「なるホドー。その理論ヲ用いた成れの果てガ、コノ【爆弾】トハ」
と、突いて出そうになりましたが、済んでのところでその言葉を飲み込んだ助手くんは、今日、何度目かの思考回路をフル回転し、既に掘り尽くされた鉱山から、珠玉の逸品を見つけたかの様に、この言葉を捻りだしました。
「ソレって、一体どんな理論ナンデスか?」
まさしく、神の一言でした。とはいえ、ノートの中身が気にならないかといえば、それは嘘になります。ですが、ドク博士は
「申し訳無いが、そこは企業秘密じゃ」
と、決め顔で『にぱり』と笑い、助手くんの申し出を断ります。
「何でデスカ。助手くんナノに」
快い返答が聞けなかったのが不服だったのか、助手くんは思わず力のこもった声で、感情をあらわにしてしまいます。直後、ドク博士は快くノートを助手くんの目の前に差し出し、こう言葉を付け足しました。
「と、言いたいところじゃが、まあ、今回は特別に見せてやろう」
「え……? 良いノデスか?」
「うむ。ありがたく読むのだぞ」
「あ、アリがとうゴザイます……」
先程の事もあってか、助手くんは後頭部からギャグ的な汗をかきながら、どこかばつが悪そうにノートを両手で受け取ると、何となく表紙を見つめてしまいます。
表紙には、黒色の太字で『スノイス国 イー次元理論 No.1』と、書かれていました。
助手くんは、声を漏らすように聞きます。
「No.1?」
「うむ。イーの次元理論は、一冊では収まらなくてな。まあ、当然と言えば当然なのじゃが」
「エト……このノート、何冊くらいアルノですカ?」
ドク博士は、自分の小指を薬指、中指と内側から外側へ数えるように立て、それをある地点で止めると、その立てた指の内側を助手くんに見せ、こう答えました。
「これの、百倍とちょっとかの?」
その数字は、助手くんに搭載されている記憶媒体からすれば、決して大きくはありませんでした。ですが、助手くんは素直な気持ちでこう思ったのです。人間で、かつ若くして亡くなったイー博士が数多くの研究記録を遺すというのは、大変な事だったのではないか……もしかして、イー博士というのは、とてもストイックな研究人だったのではないか……と。
「それハ……膨大デスネ……」
にわかに湧いた尊敬の念を抱き、ノートを開くと、なんと、一ページ目にこんな事が記載されていたのです。
【第一章 自爆は、男の浪漫だよね】
この時、助手くんは「うは〜♪」という声を上げながら、生物でしか体験出来ないと思われる『卒倒』を経験しそうになったのです。
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