第1話『蝶の誕生』4

 森を抜けるとそこには静寂があった。木々が風に揺れる音。

そして、ゆったりとした波を作る大きな泉。

「お待ちしておりました」

ブーワンが泉の側から聴こえる声の方を見ると、そこにはアマティスの姿があった。

「手紙の話は本当ですか?まだ可能性があると」

「ええ。貴方には真実を伝えます」

アマティスはブーワンの瞳をじっと見つめて答える。そして、放たれた言葉でブーワンは只々その場で立ち尽くした。


[翌日]


アマティスとゼノとオルガナは三人仲良くベッドで寝ている。

——リリリリリリリリリンッ!

目覚まし時計の音が部屋中に響き渡る。

アマティスは手探りで頭上の目覚まし時計を探し、鈴の音を止める。

そして、眠い目を擦りながら起き上がる。

「よし、二人とも起きて!」

ゼノとオルガナは眠さから半目を開けている。

「朝ごはんを作るよ! 二人にも手伝ってもらうから」

すると、アマティスは窓の方に移動してカーテンを開け、鍵を解除すると窓を開く。ゼノとオルガナは日差しに目を覆う。

窓から小鳥とマーブが入ってくる。そして、マーブが机に着地すると小鳥たちに指示を出して散らかった部屋を飛び回り片付け始めた。

「えっ!」

二人は動物たちの行動に口を揃えて唖然とする。

「ぼーっとしてる暇ないよ! 二人は外の納屋の倉庫にある動物たちの餌を七袋出して!重いから二人で協力して運ぶのよ」

そう言うと、アマティスはゼノに納屋の鍵を渡す。

「餌は大きなお皿が七つあるからそこに入れて」

二人はドアを開けると急いで外に出る。

「えっ……」

外には鹿や熊、猪、牛などの森の動物たちがドアを囲むように動物たちが既に並んでいる。オルガナとゼノが前に進むと納屋まで道を開ける動物たち。

「どうなってんだ?」

警戒しながら進むゼノと色々な動物と会えてワクワクするオルガナ。すると、一匹の大きな鹿がオルガナの顔を舐める。

「わぁ!」

オルガナはびっくりしながら鹿を見ると、鹿はオルガナの胸に顔を埋めて甘えてくる。そんな鹿にオルガナは喜びながら顔を撫でる。

「よしよし! 良い子だね!」

ゼノはその光景を冷静な表情で見ている。

「オル、そんなことしている場合じゃないぞ。早く餌やりしないと」

残念そうにゼノの方を向くと撫でるのを止めて二人は再び歩き出す。

「分かったよ」

もっと撫でていたかったな。

オルガナは心の中で呟くと、こっそり振り返り、鹿に向かって手を振る。鹿もそんなオルガナにお辞儀をした。

 納屋に着くと大きな木で出来た倉庫が見える。ドアは大きな鎖と南京錠で固定されている。

「よし、開けるぞ」

ゼノは鍵穴に鍵を入れると力いっぱい回す。

——ガシャン!

鍵は音を立てて開くと地面に落ちる。ゼノは左のドア、オルガナは右のドアの取手を持つと二人はドアを開ける。すると、大きな紙袋に入った餌が山積みになっている。

「これを今から運ぶのか……」

「凄い量だね、ゼノ兄ちゃん」

ドタドタと大きな足音が複数聴こえて二人は振り向く。すると、そこにオルガナに甘えていた体の大きな鹿、猪、熊が納屋の中に入ってきて倉庫の前に来ると二人をじっと見つめていた。

「グゥフ」

鼻息を鳴らしながら鹿は自分の背中に向かって角を当てる。

「背中に乗せろってことか?」

ゼノがそう言うと鹿は頷く。

「うわぁ! 凄い! 言葉が分かるんだね!」

オルガナは目をキラキラさせながら鹿を見つめる。

「動物の皆んな一緒に頑張ろうね!」

動物たちはオルガナに向かって集まる。その光景を羨ましそうに見つめるゼノ。

コイツは良いな。いつも明るくて……。

 ゼノとオルガナは二人で協力して動物の背中に餌袋を乗せて皿まで運んだ。あっという間に餌が運び終わるとゼノが紙袋の餌を皿に盛る。

そして、皿に全ての餌を盛ると動物たちは皿を囲むように餌を食べ始める。ゼノはその光景に驚いた。

なぜなら、そこには肉食動物と草食動物が争う事なく餌を食べている光景が広がっていたからだ。

「皆んな仲良くだね! 凄いね、ゼノ兄ちゃん!」

オルガナは興奮しながらゼノにウキウキで笑みを浮かべて話す。

「そうだな」

ゼノはオルガナに微笑み返す。

動物たちは肉食草食関係なく仲良く皿を囲み、餌を食べた。その光景に感動したゼノとオルガナは微笑みながら眺める。そして、二人はこう思った。

人間もこうなら良いのにと……。

「二人ともご飯よ!」

二人は家の方を見ると美味しそうな匂いを感じる。

「良い匂い!」

「行くぞ」

「うん!」

二人は駆け足でアマティスの所へ向かう。

 家の中央にある大きな円卓には美味しそうな野菜を中心とした料理が席に置かれ、五芒星のように五つ置かれている。中央の席にはアマティスが座り、両隣にはマーブと小鳥たちが席に着いている。そして、アマティスの向かいにゼノとオルガナが座る。

「じゃあ手を合わせて!」

アマティスがそう言うとマーブと小鳥が翼を前で合わせる。その光景を見たゼノとオルガナも急いで見様見真似で手を合わせる。

「今日も食料が無事食べれて私は幸せです。頂きます!」

そう言うとフォークを使ってアマティスが食事を始める。

「ん〜美味しい〜! やっぱりマーブが目利きした食材は最高ね!」

すると、マーブは照れくさそうに翼をはためかせる。

「さっきの手を合わせるやつはどう言う意味だ?」

ゼノは不思議そうにアマティスたちを見つめる。

「アレはね今この食卓に並んでいる食べ物に対しての感謝よ」

「感謝?」

「ええ。こうやって皆んなとご飯が食べれていることは当たり前じゃ無いからね。今まで大変だった貴方たちなら分かるでしょ。だから感謝するの」

オルガナとゼノは理解して同時に頷いた。

「さあ! 二人とも冷めないうちに食べなさい」

「うん!」

二人はニコッとすると料理を一口食べる。

「旨い!」

「おいしい!」

二人はあまりの美味しさに思わず立ち上がると目を丸くしてマーブとアマティスを見つめる。

すると、再びマーブは照れくさそうに翼をはためかせる。そして、二人は立ったままもう一口食べる。

「二人とも気持ちは嬉しいけど、ご飯は座って食べなさい。お行儀が悪いわ」

二人はスッと座ると黙々と食べ続ける。

「そんなに美味しかった?」

「凄く美味しいよ!」

オルガナはまアマティスをキラキラした瞳で見ると嬉しそうに微笑む。

「今まで食べたものと比べ物にならない」

そう言うとゼノは唖然としながら黙々と食べ続ける。

「フフッ。二人ともいっぱい食べて大きくなるのよ」

  

 食卓に並べられた料理はあっという間に無くなり、二人は満腹という今まで味わえなかった幸福に浸っていた。

「もう食えねぇ」

ゼノとオルガナはまんまるに膨らんだ腹を撫でる。

「そう言えば、二人は今までどんな食べ物を食べていたの?好物とかあったら教えて」

オルガナは目を丸くしながらアマティスに応える。

「日頃はね! ゴミ箱に入ってた食べ残しとか木の実とか。あんまりまともなものは食べれないね」

「たまにだけど、俺が上手く狩りが出来た時は肉を食うけどな。だから肉は好物かも」

ゼノは視線を感じ、そっちを見ると小鳥たちがゼノを睨んでいる。

「あ、ごめん……」

「カァ! カァ! カァ!」

ゼノに対して翼をばたつかせてマーブは笑った。

「じゃあ、食べ終わったことだし手を合わせて」

すると、皆が最初の様に手を合わせる

「ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした!」

オルガナとゼノはアマティスが言った後に続き復唱する。

「この、ごちそうさまはどう意味なんだ?」

「それはね、食事を用意してくれたことに対しての感謝の言葉よ。この食事のための食材は色々な方を経由して手に入れたもの。だから関わった全ての事柄に対しての有り難さに感謝するの」

ゼノとオルガナは空になった皿をじっと見つめる。

「用意してくれた事への感謝か……人に対して感謝するなんてもう忘れてた」

「これからは貴方たちにとって、それが当たり前になる様に私は頑張るわ」

アマティスは二人に向かって満面の笑みを浮かべる。オルガナとゼノもそんなアマティスに応える様に笑みを返した。


To Be Continued...

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