第2話 姫と騎士1

2週間前


アレフは,とある人物の護衛の任についていた.馬車の中にいる皇族を守るのが彼の仕事であった.護衛は彼を含めて二人.特別な任務らしく誰を守っているかすら彼は教えて貰えていなかった.


アレフが冷静ならば,護衛が中距離から遠距離戦闘をメインとする魔法使いのみであることに気が付くが,アレフは,今,絶望していた.自身の努力が無駄であったと全て諦めていた.


孤児であったアレフだったが,努力をして,宮廷魔法使いになった.彼には,夢があった,立身出世して,孤児に希望を与えること,自身を育ててくれた修道院に恩を返すという夢が.しかし,その夢は,打ち砕かれた.


1つ目の夢は,あっさりと崩れた.

宮廷魔法使いは,実力が伴えば出身に関係なく基本的に全員がなれた.しかし,なれるだけなのだ.そこからの出世は,家の力とコネが全てであった.彼がいくら努力して手柄を挙げても,その手柄は,先輩や同僚,後輩のものになった.


アレフは,出世を諦めた.


2つ目の夢は,少し前に崩れ去った.

出世が無理でも,宮廷魔法使いとして稼いだお金で,修道院を立てなすなどの寄付をしようと思っていたが,大雨による土砂災害で修道院の人々は全員亡くなった.不幸なことに,夜中の災害であり,魔法などで防ぐ間も無かったという話を聞いた.


アレフは,ありとあらゆる気力を失っていた.彼が今生きているのは,働いているのは死んでいないからであり,彼には希望など残っていなかった.


護衛任務中,急にもう一人の,少しガラの悪い宮廷魔法使いが,急に立ち止まり,そう言って欠伸をした.実力は,アレフよりも圧倒的に下であったが,家柄が圧倒的に上であるので,その人物の方が階級が高かった.

「おい,孤児.俺は帰るから.」

「任務の途中です」


「黙れ,俺の分も任せたぞ孤児.」

「……皇族の護衛任務ですよ.」


「ああ,大丈夫だ.こいつは,問題ない.お前,馬車を引けるよな.」

「何を,待ってください.」


アレフの言葉を無視して,もう一人の宮廷魔法使いは,馬車の運転手を連れてその場を去っていった.


(何が,起きてる?あの人が感情的で我儘なのは知っていたが,流石に任務を途中放棄するほど,愚かではない.)

アレフは,唖然としていた.


しばらく,茫然としていると,馬車のドアが開いた.

「もう,着いたのですか.意外と近いんですね,旧帝都まで……」

そう言いながら馬車からルーラス=エレナが下りてきた.


「……」


「全然着いてないし,護衛の人は?一人?何で?」


(赤色の目の皇族,これが噂に聞く呪われた皇女か.普通の少女じゃないか.でも,じゃあ,何で護衛されてる対象が伏せられた?)

「……お初にお目にかかります,アレフです.第7皇女のエレナ様ですね.」

アレフは,混乱しつつもとりあえず,自分の職務をこなす事にした.


「はじめまして,私の事は,姫とでも呼んで下さい.」


「その,聞いてもよろしいでしょうか?」


「何?アレフ?」


「どのような用件で旧帝都に?」


「聞いてないの?遂に,私も学院に通えるようになったんです.って言っても分からないか.」


「……それは,本当でしょうか?」

(この馬車は,旧帝都に向かってない.)


「本当だけど?どうかしたの?それに,何で止まってるの?」


(何が起きてるか分からないが,誰かに狙われてる?)

「馬車に戻って……いえ.」


「何を言ってる?アレフ」

エレナが,そう首を傾げた瞬間に,彼女,目掛けて熱線が飛んできた.それは,殺意を持った魔法であった.


「防御魔法.」

魔法に気が付いた,アレフの叫びによって,エレナの周囲に防御壁が表れて,その熱戦を防いだ.しかし,その攻撃の衝撃で周囲は揺れて,辺りは残った熱で熱くなった.


アレフは,一つ息を吸うと周囲を警戒した.

(この魔法の威力,並みの魔法使いではない.そして,魔力が二つか.)

アレフは,一つの結論を出して行動を始めた.


数秒後,声が聞こえた.

「あれ?防がれた?完璧だったと思うのに?凄い.てか,写真と違う.影武者?」

物陰から,両手を叩きながら20歳後半程度の男性が現れて笑っていた.


「いや,こっちでも問題ない.むしろ大当たりだ.」

その後ろから,人相の悪い40代ぐらいの筋骨隆々の男性が現れた.


「でも,さっき,そこら辺を走っていた,他の護衛は弱かったんでしょ.」

筋骨隆々の男性は返り血で真っ赤に染まっており,両手にさっきまで馬車を引いていた人物と宮廷魔法使いの首があった.


「ああ,あれは,気にするな,帝国内部の愚かな足の引っ張り合いだろう.呪いの皇女が死んだ責任を他の勢力に押し付けるとともに,自身の娘でも守ろうとしたのだろう.愚策だ.」


「どういうこと?」


「お前は,馬鹿だから考えなくて良い.とりあえず,お前は護衛を殺せ.俺が姫を捕らえる.」


「はーい,でも,その二人は何処?魔力も感じれないよ.」

二人がゆったり会話をしている隙を見て,アレフは,エレナを抱えると魔力と気配を消してその場から逃亡をしていた.


「……なるほど,侮っていた.逃げる冷静さがあるとは.少しは楽しめそうだ.作戦変更だ.護衛を二人で叩くぞ.」

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