第17話 最後の海戦

 空想時代小説


 慶長3年(1598年)11月、日の本の水軍は順天(スンチョン)から東側5里(20km)ほどの露梁(ノリャン)海峡での海戦に挑んだ。順天にいる小西行長勢は陸からも海からも囲まれており、脱出できなくて困っていたのだ。

 水軍の戦いは朝鮮側の方が慣れている。それに、海峡は狭く、陸地に寄るとそこからも攻撃を受ける。先陣の島津義弘勢は苦戦している。後方に位置している立花宗茂勢は上陸して、遊撃部隊になりたいと考えていたが、適地が見当たらなかった。結局、船に乗ったまま待機せざるを得なかった。

 2日目、島津義弘は「釣り野伏」の戦法をとると宗茂に伝えてきた。義弘の船が敵陣にとびこみ、すぐに退却してくる。それを追いかけてきた敵船を、海峡の向こうに隠れていた宗茂の船が取り囲んで敵をせん滅するという作戦である。

 暗くなるとともに、その作戦が実行された。義弘の船が突撃する。敵との撃ち合いが始まった。すぐに義弘の船は転回してくる。そこに3艘の敵船が追いかけてきた。海峡を越えたところに宗茂の船団が隠れており、敵船が通りすぎたところで追いかける。暗闇なので敵に察知されずに追うことができた。そして義弘の船団のところで火ぶたが切られる。敵の船団は義弘の船団に気づき、転回して逃げようとしたが、そこに宗茂の船団が待ち構えている。大砲の撃ち合いが始まる。弾が尽きると接近戦だ。ここで鉄砲隊の出番だ。船は揺れるので、思ったようには当たらないが、十兵衛はひとつの工夫をしていた。船べりに照準をさだめるための板をはったのである。いわば狭間を船に作ったようなものである。これで鉄砲が安定して、ねらいを定められるようになった。立って撃つよりは楽だと兵からは好評だった。

 3艘の敵船は火をかけられ、ほうほうの体で退却していった。

 3日目、今度は一列縦隊で敵船団に突っ込む作戦をとることになった。初めから接近戦に持ち込み、すれ違いざまに大砲や鉄砲を撃ちかける。被害もでるだろうが、包囲網を崩すためには効果的だと思われた。

 先頭は島津義弘の船団である。比較的水軍に慣れている。それに続いて立花宗茂の船団が続く。敵の船団にくさびを打ち込む形で攻撃する。敵は包囲網が破られ、混乱している。先頭の島津勢に多くの船が向かってくる。大砲の弾が亡くなると鉄砲や弓矢の応酬である。暗くなり始めたころ、敵の船団の動きがばらばらになった。後で知ったことだが、指揮官の李舜臣(イスンシン)が鉄砲の流れ弾にあたったらしい。

 そのスキに、小西行長勢は船で脱出することができた。目的達成である。島津義弘は退却の法螺を吹かせた。あたりはすでに真っ暗である。火がでている船もある。釜山にもどってきた時は、船は半数に減っていた。

 隼人が十兵衛に話しかける。

「終わったな」

「何とか生き延びてしまいましたな」

「お主には世話になった。この7年、苦楽を共にして頼もしく思ったぞ」

「こちらこそ、仙台藩にいてはできない経験をさせていただきました」

「仙台に帰るか?」

「はっ、それが当初の約束ですゆえ」

「であったな。引き留めても無理であろうな」

「うれしい言葉ですが、小十郎さまに戦の顛末を話さねばなりませぬ」

「仙台藩にいられなくなったら、いつでも来い。歓迎するぞ」

 という隼人の言葉に笑みを浮かべる十兵衛であった。

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