第4話 蔚山(ウルサン)へ

 空想時代小説


 西生浦(ソソンポ)から10里(40kmほど)で蔚山の町へ入った。ここで、初めて朝鮮軍の抵抗を受けた。

 町へ入る前の谷合いの道で弓矢がとんできた。先陣である隼人の部隊が通り過ぎたところで、矢がとんできたのだ。部隊を分断させようという作戦だと思われた。だが、想定範囲内である。被害は少なかった。弓矢の後、刀剣部隊が攻め込んできたが、隼人の部隊は歴戦の猛者部隊である。反面、朝鮮軍は実際の戦闘をほとんど経験していない。十兵衛の部隊も鉄砲を出す必要もなく、敵を退けることができた。

 その後、蔚山の城門にでくわした。朝鮮ののぼり旗があがり、抵抗を示している。高さは15尺(5mほど)だろうか。隼人の家臣が物見で近づくと矢がとんできた。戦う意志を見せている。

 清正は攻城戦を決意した。後方から攻城兵器がくるのを待ち、総攻撃をかけた。まずは投石器で石をとばす。その後に油をいれた籠をとばす。そして火矢をかける。城内はまたたく間に火につつまれる。敵が火消しにおわれるスキに城門に近づき、攻城槌でたたき壊す。この攻城槌は屋根に覆われていて、上からの攻撃を避けることができる。清正軍は亀甲車と呼んでいる。敵がその亀甲車に弓矢や石落としで攻撃をしかけるために城壁から体を乗り出したところを十兵衛ら鉄砲隊がねらい撃つ。3人一組で一人をねらう。当たる確率は高い。半刻(はんとき・1時間ほど)で、城門は破られ清正軍が城内になだれこんだ。日の本であれば、ここで桝形の櫓があり、三方からねらわれるところだが、朝鮮の城に桝形の発想はない。これが戦のなかった城の防備なのである。戦術でも武器でも城造りでも戦国時代を乗り越えてきた日の本軍の方が上手であった。

 蔚山の城内に入ると、ところどころに火が残っている。兵や住民は北門から逃げ出している。逃げ道を作っておくのは戦の常套手段である。その方が戦が早く終わる。取り囲むと逃げ道がなくなり、がむしゃらに戦ってくる。そうなれば味方の損害も多くなる。戦に勝つためには必要な策なのだ。

「十兵衛、ご苦労であった。鉄砲隊の活躍見事だったぞ」

 と隼人が口を開いた。

「おそれいります。それにしても隼人さまの剣さばき。圧倒されました。まさに敵なしですな」

「なーに、やる気のない相手ではせっかくの剣もさびてしまうわ。手ごたえのある相手に会いたいものだ」

「いやいや天下無双の隼人さまならば、そうそうおりませぬ。よほどの豪傑でないと」

「政宗公の豪傑といえばどなたかな?」

「それは成実殿です。政宗公の親戚筋にあたる武将で、槍の名人でござる」

「槍か、剣の達人はおらぬのか?」

「今は槍全盛の戦ですから、剣の達人はなかなかおりませぬな。しいていえば、小十郎様の配下に小野左衛門という者がおります。その者は、政宗公の剣術指南役を負かすほどの剣の達人です。いずれは藩の剣術指南役になると言われておりますが、小十郎殿が江戸において抱えた者なので、元々の藩士ではござりませぬ。こたびの戦で手柄をたてるのだと言っております」

「今は、名護屋か? 一度会いたいものだな」

「いずれ、渡ってくるでしょう。その際にご紹介いたしましょう」

「もちろん立ち合いもな」

「木剣でしたら・・」

 と十兵衛が言うと、隼人はにやりと笑っていた。

 蔚山には一泊して次の慶州(キョンジュ)に向かうことになった。慶州はかつての新羅(シルラ)の都である。朝鮮の時代になってすたれたとはいえ、城壁に囲まれた都市であることには変わりない。それなりの抵抗があると思われた。だが、慶州では無抵抗であった。兵は逃亡し、残っているのは民衆のみ。代表者らしき者が政庁跡に案内してくれただけでなく、食料も差し出してきた。事実上の降伏である。清正は、民衆に対しては寛大な処置をとった。従属するならば、統治をするつもりはない。あくまでも目的は明なのだ。

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