倭城(わそん)
飛鳥 竜二
第1話 渡海
空想時代小説
文禄元年(1592年)、政宗は肥前名護屋にいた。傍らには片倉小十郎景綱がいる。
「のう、小十郎。我らは名護屋にとどまることになったが、いつ海を渡るかわからん。何も知らずに海を渡っては後悔することになるのでは?」
「殿、確かにそのとおり、先遣隊を出したいですな」
「先遣隊か、それはいいな。だが大っぴらにだしては、太閤の決定を覆すことになってしまう。いかがしたものか?」
「加藤清正公にわが家臣をつけるのはどうでしょうか。10人ほどであれば目立たないと思われますが・・」
「そうだな。清正公に城造りを教えてほしいと頼むか」
「それはいい考えですな。この名護屋城も清正公の縄張りで造られたもの。広さでは日の本一の大きさでござる」
「1年もかけずに造ったというではないか。よくぞこれだけの城を造ったものだ」
「それで、派遣するのはわが家臣の畠山十兵衛重盛でよろしいかと」
「どんな奴だ?」
「勉強家で土木に精通しております。有備館では柔術の達人でした」
「文武両道か。格はどれほどか?」
「100石どりでござる。領地は刈田の小原にありまする」
「10人の組頭にはいいか。よし、それではその者を呼べ」
ということで、1刻(いっとき・2時間ほど)で十兵衛はやってきた。
政宗は上座に座っている。下座に小十郎が座り、土間に十兵衛が座る。許しがあるまで頭を上げることはできない。小十郎が口を開く。
「十兵衛、頭を上げよ」
と許しが出て、やっと政宗の顔を見ることができた。
「ご尊顔を拝し、恐縮しだいでございます」
と挨拶をすると、政宗が一言
「そちに命をくだす。今後、加藤家につけ。くわしくは小十郎から話がある」
と言い残し、去っていった。そこで、小十郎が
「十兵衛、明日から清正公のところへ行け。10人の配下をつける。加藤家とともに渡海し、加藤家の戦いや城造りを学べ。そして、我らが渡海した時に我らと合流し、得たことを伝えよ。いわば先遣隊だ」
「はっ、わかり申した」
ということで、翌日小十郎とともに加藤家に出向いた。小十郎が十分な銀子を出すと、清正は断る理由がないと言って、十兵衛らを受け入れてくれた。
十兵衛らが配属されたのは加藤三傑と言われる勇将庄林隼人の部隊である。元は荒木村重の配下であったが、荒木村重が逃亡後、仙石秀久の家臣となる。仙石家が改易された後、加藤家に召し抱えられた武将である。先陣を受け持つ部隊である。隼人はまさに豪傑の士であった。口数は少なかったが、客分である十兵衛らをあたたかく迎えいれてくれた。自分の近くに置き、隠し事をしないようにしてくれたのは、十兵衛には嬉しかった。
数日後、加藤家は二番隊として渡海していった。一番隊は小西行長と宗義智である。海は荒れに荒れた。十兵衛の配下の半数が船酔いで船底に横たわっていた。十兵衛もあと少しで気分が悪くなるところまでいったが、何とか我慢することができた。ふだん船に乗ることはないので、陸の方がいいと思う十兵衛であった。
一番隊と釜山まではいっしょだったが、そこからは二手に分かれ、一番隊は西側、二番隊は東側をすすむことになった。
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