【17】破岩蛇
セイラとドドリーは朝早くに出発した。
破岩蛇を討伐した帰りに、もう一度ここに寄るらしい。
あの二人の強さは分からないけれど、曲がりなりにもS級冒険者なのだ。無理だと判断すれば、すぐに撤退を選ぶだろうし、特に問題は無いだろう。
「あの二人、大丈夫かな?」
実った赤い野菜を眺め、ユズリアが呟く。
「心配し過ぎだって」
コノハの指さす位置に
考えられる要因はただ一つ。浄化のために土の中に埋めた魔石だろう。土壌を良くしているのか、成長の促進効果でもあるのか、はたまたどちらもか。何にせよ、あの泉に関しては深く考えないようにした。だって、すごいってこと以外よく分からないし。
「ドドリー殿もセイラ殿も、多分すごく強者だと思いまするよ」
「どうして?」
「お二方とも、卓越した気配の消し方でだったでありまする。でなければ、あんな近づかれるまで某が気づけないはずがありませぬ」
「確かに、ドドリーは遠くにいたからともかく、セイラの接近には全く気づかなかったな」
間合いの内側まで入られても気が付けないなんて、油断していたとしてもあり得ない話だ。しかも、S級が三人揃って全員。それだけで、セイラの実力が高いことは明白だ。神官に必要なスキルだとは思わないが。
「でも、セイラさんは神官で、ドドリーさんは射手でしょ? なんか、バランス悪くない?」
「それは俺も思った。前衛無しでどうやって戦うんだろうな」
考えられるとすれば、神官の光魔法で遠くから敵を拘束。そして、射手の高火力で一方的に殴る戦法だろうか。事故も怪我もない良い作戦だ。何より、地味な感じでちょっと親近感が湧く。
陽がてっぺんを越え、畑から戻ると、泉の傍に朝出たはずのセイラとドドリーがいた。
「あれ? もう倒しちゃったの!?」
「ユズリアさん……」
セイラの表情は明るくない。
「それがな、やむない理由で撤退してきてしまったわい!」
ドドリーはあまり変わらないようだ。しかし、撤退するにしても早すぎるような。二人の顔に疲労も見えない。
「何があったんだ?」
「私たち、案外早く破岩蛇を見つけることが出来たんですが、」
セイラが小さくため息をつく。
「つがいでした」
「つまり、二体いたってこと?」
ドドリーが腕を組み、うなずく。
「流石にS級指定の魔物を二体同時に相対するのは厳しいでありまするね」
「そうなんです。どうしたものかと」
破岩蛇が二体。セイラとドドリーが諦めて別の個体を探すとしても、拠点の近くにそんな危なっかしい魔物を放置することは出来ない。魔素の森とは言え、そんなにぽんぽんS級指定がいてたまるか。
「依頼は破岩蛇を一体討伐でいいんだよな?」
「うむ」
「じゃあ、一体は俺が相手をしよう。後の一体はそっちに任せる」
「おおっ! 流石はロア。筋肉が無くても男だ! 見直したぞ!」
「余計なお世話だ。とにかく、一体は俺が引き受ける。セイラもそれでいいか?」
肩を組もうとしてくるドドリーの腕を押しのける。男の友情を育む趣味は無い。
「でも、ご迷惑になるんじゃ……。破岩蛇はS級指定の魔物の中でもかなりの強さですし」
「大丈夫ですよ、セイラさん。私とロアに任せてください!」
「いや、ユズリアも付いてくるのかよ」
「なによ、私だってたまには身体を動かさないと鈍っちゃうもの」
それもそうか。いざというときに判断が鈍るのは危険だ。特にここはS級指定地域なんだから。
「じゃあ、俺とユズリアで一体。そっちで一体でいいな? コノハは留守番だ。変な人が来ても、ついて行っちゃ駄目だからな? 外にも極力出るなよ。わる~い魔族がお前を連れ去るかもしれないんだからな」
「ロア殿……某は子供じゃないでありまする……」
何を言うか。十二歳なんて、まだまだひよっこだ。
陽が沈む前に片を付けたいところだ。
俺たちはすぐに出発した。途中、何体かA級指定の魔物に出くわしたが、張り切っているユズリアが全部なぎ倒した。若いなぁ。
聖域の少し奥は森というより、岩肌が目立つ山のような斜面が続いていた。木々は生えているものの、随分とまばらだ。おかげで視界が開けているため、すぐに破岩蛇のつがいを見つけることが出来た。
巨木のような大きな身体に、ゴツゴツと纏った岩肌。尖った口先から覗く舌はまるで鉄のように鈍い光を放っている。
「ひゃ~、硬そう……」
俺が討伐したときよりもだいぶ大きな個体だ。骨が折れるかもしれない。
「では、私たちは反対側へ回ります」
既にドドリーは一足先に狙撃箇所を探しに行っているようだ。射手にとって、ポジション取りは最重要。マッチョにしては繊細かつ迅速で良い射手だ。
「ロアは今回、後ろから支援しててね!」
「はあ? 俺が前に出て『固定』すればすぐに終わるぞ?」
「だからよ! 身体が鈍らないようにするためなんだから、さっさと終わったら意味ないじゃない」
ユズリアは細剣を引き抜き、やる気満々だ。
「そういうことなら……。でも、危なくなったらすぐに助けるからな!」
「それは私が弱いと思ってるから言ってるのかしら?」
「違うって、心配だからに決まってるだろ? 怪我してほしくは無いんだよ」
ユズリアは何も言わない。横髪から覗く頬がほんのり赤みを帯びているのは気のせいだろうか。
「ほら、セイラたちが始めるみたいだぞ?」
「えっ!? わ、分かってるわよ! じゃ、援護よろしく!」
ぐっと足に力を入れたユズリアが一瞬でぴりっと電撃を残して消え去る。
全く、不安だ。
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