第44話:不老不死

 ガニラス王国歴二七三年十月四日

 王都・西地区・王都ダンジョン

 田中実視点


 神々は本当に慈悲深い、半ば諦めていた魔術が発現した。

 意外な事に、それほど多くの魔力は使わなかった。

 複数の魔術を多重に展開する必要があったのが、その程度は想像通の範囲だ。


 五行思想が正しかったのか、それとも俺に最適だったのか、或いは日本の神々の御力を借りたからなのか、目の前に五属性の魔法陣が重なり合っている。

 それも、属性をずらして五重に積み上がっている。


 敵、ダンジョンに出現したピュブレド・ドラゴン十頭を中心に捕らえるように、五重五段の魔法陣が十個展開している。


 五重五段の魔法陣に捕らえられたピュブレド・ドラゴン十頭が、光り輝いたかと思うと消失して、角度によって五色に見える小さな宝石をドロップした。


 鑑定魔術が使える訳ではないが、瞬時に不老不死ドロップだと分かった。

 これを身体に取り込んだら不老不死になれると分かった。


 一瞬の躊躇いもなく口から飲んで取り込んだ。

 急激に体が活性化するのが分かった。

 飲み込んだ不老不死ドロップが胃で溶かされ小腸から取り込まれる。


 血流によって全身を巡り、魔力器官で魔力に変換されて体を巡る。

 五臓六腑で気・血・津液となり身体中を巡る。

 巡ったモノが会陰、肛門と精器の間に集まり、何かを器官を作った。


 場所的に考えれば、アーユルヴェーダの考えにある第一のチャクラ、ムーラーダーラ・チャクラだと思われる。


 これで本当に不老不死になれたのだろうか?

 アーユルヴェーダの考えから推察すると、他の六つのチャクラにも不老不死ドロップで新しい器官を作らないといけないと思う。


「遠く大八島国にて人々を守る神々よ。

 木を司る久久能智神と五十猛神よ。

 火を司る火之夜藝速男神よ。

 土を司る埴安神よ

 金を司る金山彦神と金山姫よ

 水を司る淤加美神よ。

 御身を慕う者に力を御貸し下さい。

 御身を慕う者を殺そうとするピュブレド・ドラゴン滅ぼさせてください。

 不老不死をドロップさせるのに最適の魔術を発現させてください。

 御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、五重五段魔法陣」


 神様を指定して、不老不死ドロップを手に入れる最適な魔術を試してみた。

 魔術が発現しなければ即座に逃げる心算だったが、心配いらなかった。

 ピュブレド・ドラゴンは瞬殺できたし、不老不死もドロップした。


 再び不老不死ドロップを口から取り入れた。

 予想通り、第二のチャクラ、スワーディシュターナ・チャクラに器官ができた。


 魔力や気からできているのか、新しい器官は精器に重なるように存在を感じられるのに、見た目は全く変わっていない。

魂魄も目に見えないから、魂魄にできた器官だと思えば深く悩む必要もない。


 それからは祝福上を兼ねて何時も不老不死ドロップを手に入れた。

 出現するピュブレド・ドラゴンを手当たり次第斃して、その度に不老不死ドロップを一つ手に入れる。


 三つ目にはマニプーラ・チャクラ、四つ目にはアナーハタ・チャクラ、五つ目にはヴィシュッダ・チャクラ、六つ目にはアージュニャー・チャクラ、七つ目にはサハスラーラに新しい器官が作られた自覚があった。


 だが、八つ目の不老不死ドロップを取り入れても何の変化もなかった。

 七つの器官のどれかが強化された自覚も気配もなかった。

 九つ、十と不老不死ドロップを取り込んでも同じだった。


 だから、その後に手に入れた不老不死ドロップは、身体には取り入れずに無限袋に保管した。


 ヴィオレッタとルイジャイアンに分け与える事も考えて、待ち合わせの日まで不老不死ドロップの収集をした。


 ピュブレド・ドラゴンを数多く斃せば、レアな不老不死ドロップが出るかもしれないと思い、確認したが、百個手に入れても全く同じ物だった。


 もっと深くまで潜って確かめる事もほんの少しだけ考えた。

 考えたが、俺が本当に望む物は手に入れた。

 これ以上強くなる必要はないし、ダンジョンを深く潜る必要もない。


 そこで、深く潜るのではなく上がっていくことにした。

 アトリビュート・ドラゴンで同じ事をしたらどうなるのか興味があった。

 五重五段魔法陣がピュブレド・ドラゴン専用なのか興味があった。


 結果は、効果はあるが確率が低くなるだけだった。

 レベルが下がると表現した方がいいのか、種族によると表現した方がいいのか分からないが、階を上がるほどドロップ確率が低くなった。


 再び神々に教えを乞えば、アトリビュート・ドラゴンが相手でも百発百中の魔術を教えてくださるのかもしれないが、もうそんな気にはなれなかった。


 本当に欲しい物は、神様の慈悲で手に入れる事ができたのだ。

 それだけでも強欲すぎるのに、更にお願いしては罰が当たる。

 そう思ったので、再び神様に教えを乞うたりはしなかった。


 約束の日に間に合うように、待ち合わせの階に登った。

 不老不死ドロップが三百個を越えた時からは、五重五段魔法陣を止めた。

 使う事のない不老不死ドロップなど無限袋のゴミでしかない。


 だから、普通に攻撃魔術を使ってアトリビュート・ドラゴンやサブ・ドラゴンを斃して、自分達が使うドロップを集めた。

 普通の素材、牙や爪、鱗や皮、精肉やホルモンなどを集めた。


 腐った王家や王国に半分取られるのは腹が立つので、無限袋に入れて公にしない。

 だから、王国に仕えている限り、村に戻っても売れないのだ。


 少し余裕をもってセオドア達と合流して、一緒に約束の階に行った。

 前日の午後について、約束の日を迎えたが、誰も来なかった。

 ルイジャイアンもヴィオレッタも来なかった。

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