第42話:属性竜と純血種竜

 ガニラス王国歴二七三年九月二四日

 王都・西地区・王都ダンジョン

 田中実視点


 地下六十階、六十一階、六十二階、六十三階と安全確実にダンジョンを攻略した。

 ボス部屋などなく、運が良ければ実力がなくても深く潜れてしまう。


 ヴィオレッタ以外の祝福上げを中止しているので、彼らの実力が上がらない。

 慎重に潜らないと、出現するドラゴンの強さが守護神像の結界を超えていたら、取りかえしがつかない。


「ドラゴンを見て生きて帰った者はいないと言われています。

 ただ、伝説で語られるドラゴンの姿はよく知られています。

 ドラゴンは一頭一頭強さも姿も違うと言われています。

 遥か昔から純血を保つドラゴンが最も強く、精霊と混血したドラゴンは少し弱いと言う伝説ですが、真偽のほどは分かりません」


「その伝説で語られている、純潔を保つドラゴンと混血したドラゴンの姿を、できるだけ詳しく教えてくれ」


 ただ見学するだけになっているセオドアが、知っている限りのドラゴン伝説を教えてくれたが、とても面白かった。


 この国、この世界の共通認識ではないかもしれないと言っていたが、とても興味深い話だった。

 

 純潔を保ったドラゴン、伝説ではピュブレド・ドラゴンと呼ぶそうなのだが、俺の知っている西洋のドラゴンと全く同じだった。


 一方精霊と混血して少し弱くなったドラゴンは、伝説ではアトリビュート・ドラゴンと呼ぶそうなのだが、その姿は混血した精霊によって違っている。


 風の精霊と交わり空を飛ぶようになったアトリビュート・ドラゴンはワイバーンに似た姿だった。


 地の精霊と交わり大地を駆けるようになったアトリビュート・ドラゴンはベヒモスと同じような、象に似た姿だった。


 水の精霊と交わり水中を泳ぐようになったアトリビュート・ドラゴンはレヴィアタンと同じような、鰐に似た姿だった。


 セオドアの話してくれる伝説を信じるなら、地下六十階層から出現するようになったドラゴンは、アトリビュート・ドラゴンのように思われた。

 アトリビュート・ドラゴン、属性竜の中でも地属性のドラゴンだと思われた。


 とても強大なドラゴンで、俺でなければとても勝てないだろう。

 地下の街道を創り、神像を創り、守護の御力を神像に留めて、千回を超える祝福を得ていなければ、簡単には斃せなかっただろう。


「ミノル様、お願いがあるのですが、宜しいでしょうか?」


 ヴィオレッタが少し思いつめたように言う。

 まだ半信半疑なのだが、好かれている気がしている。

 邪な気持ちはないが、御願いはできるだけ聞いてあげたいと思っている。


 「なんだい、言ってごらん」


「もう三百回以上も祝福を上げさせていただいて、ミノル様には感謝の気持ちで一杯なのですが、日に日に父上と兄上達に申し訳ない気持ちが増しています。

 父上や兄上達と交替させていただきたいのですが、駄目でしょうか?」


「その孝行の気持ちはとても尊いと思う。

 分かった、今のヴィオレッタなら一日で村に戻れるだろう。

 ルイジャイアンを連れてくるのには数日かかるだろうが、大した問題じゃない。

 俺が創った地下街道を使えば、王都に来るまで誰にも知られないし、魔獣や人に襲われる事もないから安全だ、いいぞ、迎えに行ってこい」


「ありがとうございます、直ぐに行かせていただきます」


「まて、祝福三百回以上とは言っても、アトリビュート・ドラゴンが出現する階層を独りで通り抜けるには弱すぎる、地上まで送るから、慌てるな」


「ありがとうございます」


「重ねてのお願いで申し訳ないのですが……」


「分かっている、レアテスの事だろう?

 ヴィオレッタがルイジャイアンを連れて戻るまでの間に、祝福上げを手伝う。

 余裕をもって、十日後に四十五階に迎えに行くから、それまでには祝福回数が二百回くらいになっているだろう」


「ありがとうございます、心から感謝します」


「気にするな、ヴィオレッタとは夫婦になり、レアテスとは兄弟になるんだ。

 それと、セオドアたちも自分達で祝福上げしたらどうだ?」


「それは、自分達に合った階層で祝福上げするという事でしょうか?」


 セオドアが確認してきた。


「ああ、そうだ、今のお前達なら、四十階層くらいなら楽々狩りができるだろう?

 もしかしたら五十階層でも狩りができるかもしれないが、油断して死んでは何にもならないから、安全確実に少しずつ深くしていけ。

 祝福よりも金を優先するなら、持てないくらいドロップがでるたびに地上に上がって売ればいい」


「祝福上げはよろこんでやらせていただきます。

 今の私たちは、実戦経験のない数字だけの祝福です。

 実際に魔獣やサブ・ドラゴンを斃したわけではなく、少し傷をつけただけで祝福された、見せかけだけの祝福回数です。

 これでは、実戦で思わぬ不覚を取る可能性が高いです。

 祝福回数に見合った魔獣やサブ・ドラゴンを斃せるようになります」


「実戦経験の豊富なセオドアらしい考えだ、好きにすればいい」


「お前達も祝福上げで実戦経験を重ねなさい。

 下手に地上に出てドロップを売ったら、王家や有力貴族に目を付けられます。

 誘惑に負けて団規を破ってしまったら、死ぬ事になりますよ」


 セオドアが優しい言葉で厳しく脅迫する。


「直ぐに地上に戻るぞ」

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