第33話:ミノル・タナカ騎士団
ガニラス王国歴二七三年七月一九日
アーロン・パッタージ村・ドーナツ城
田中実視点
ドーナツ城とアーロン・パッタージ村が、押し寄せる商人と領民によって繫栄している時、王都では激しい政争が繰り広げられていたそうだ。
アポストリディス宮中伯とパラスケボプロス侯爵は、自分達の不正と失策を隠蔽しようとしたが、政敵がそれを許さない。
俺とルイジャイアンが有力貴族に提案した策が通ったのが大きかった。
アポストリディス宮中伯とパラスケボプロス侯爵を裏切って告発文を奏上した者の免罪を、国王が認めたのが大きかった。
表立っての罰を免れたとしても、悪事を行ったと叱責されたも同然だから。
更に千もの騎士と兵を失ったパラスケボプロス侯爵は、積極的に遠征する兵力と財力を失っていた。
とはいえ、敵を領内近くに迎え討っての戦いは可能だそうだ。
ある程度の譲歩はしても、後々挽回できないような譲歩はしていない。
互いの主張が激しく戦わされ、なかなか決着がつかない。
一日でも早くダンジョンに潜って不老不死ドロップを手に入れたかったが、そんな状況では、ルイジャイアン達を放り出して行く事はできなかった。
ただ、日に日に領内の状況は良くなっていくのを見るのは面白かった。
パラスケボプロス侯爵家の騎士や兵士だった者が、身体に呪いを刻まれた事もあり、俺に臣従する事になった。
更に南北の脇街道を護るために騎士を雇うと言った事で、希望者が集まってきた。
問題があるとしたら、騎士の希望者が多過ぎて、全員を召し抱えたら、普通なら脇街道の通行料だけでは赤字になって破綻してしまう事だった。
だが俺の場合は、その気になれば食糧と武器と防具を現物支給できた。
鉄の武器や防具よりも高価な、魔獣やドラゴンの素材から創った物を渡せた。
もちろんタダで渡したりはしない、支払った給料から代金を払らえる者にだけ売ってやったが、金のない者には貸し与えてやった。
通行料だけでは支払えない給料は、塩と砂糖、香辛料と魔獣素材を売った金で補填するから、何の問題もない。
たった数日で、魔境周辺で一番大きな交易都市となったドーナツ城は、信じられないくらいの大金が毎日動く。
その殆どの商品が、俺が日本から持ち込んだ物か、俺が魔境で狩った魔獣の素材なのだから、手に入る金は半端ない金額だった。
俺の大好きな時代小説では、江戸で日に千両動く街が三つあったという。
日本橋の魚河岸、浅草猿若町にある江戸三座芝居、男の欲望を満たしてくれる吉原の遊廓が、それだけ繁栄していた。
それに比べて、ドーナツ城では毎日大金貨が万枚以上も動いていた。
俺の手元には四千枚以上の大金貨が残るのだ。
予定を越えた騎士が集まっても何の問題もなかった。
「新人はここに集まれ、俺が騎士団長のルイジャイアン・パッタージだ」
全てを丸投げしていいと約束してくれたルイジャイアンは、集まった騎士と降伏臣従した騎士と兵士をまとめて、新たな騎士団を設立した。
これまで自分が持っていた騎士団を中核にして、新たな騎士団、ミノル・タナカ騎士団を設立しやがった!
俺が金を払って雇っている騎士と兵士だから、俺の家臣なのは確かだ。
弱者を傷つけないように統制しなければいけないから、騎士団や兵団を設立して規則を作り守らせないといけないのは分かるが、俺の名前を騎士団名にするな!
ドラゴン騎士団とかタイガー騎士団とか、俺の名前なんて使わないで、もっとかっこいい名前を付けるのが普通だろう!
「何を言っている、領主などの代表の名前を騎士団に付けるのは常識だ。
敵味方を明らかにするためにも、領主や団長の名前を冠するものだ」
などと言って全く取り合ってもらえなかった。
国中から毎日最低でも五十人位の騎士や兵士が集まり、多い日には百を越える。
今では総数が三千を越え四千に届きそうだ。
元からルイジャイアンに仕えていた、心から信頼できる者は、側近として近くにいるかルイジャイアン・パッタージ村の守備に就く。
呪いの刻印があるので裏切る心配のない元侯爵家の騎士や兵士は、ミノル・タナカ城に駐屯している。
新たに集まった三千弱の騎士と兵士は、基本ドーナツ城に駐屯するが、交代で二つの脇街道を巡回して敵に備える。
募集の理由が理由なので、騎士としての実力が伴わない者も多い。
実力が伴わない者は、ルイジャイアンが徹底的に鍛えていた。
ルイジャイアンは、実力と性格で選んだ者を、騎士長や騎士隊長という指揮官を任命して、未熟な騎士や兵士が領民や商人を害さないようにしていた。
だが、ルイジャイアンは彼らを信用していなかった。
「ミノル、元侯爵家の連中に印した呪いの刻印だが、団の規律を破った不名誉な連中を罰する呪いに変えられないか?」
「やろうと思えばやれるだろうが、それはちょっと酷くないか?」
「騎士団の規律を破らなかったら発動しないのだぞ、どこが酷いのだ?
それに、団の規律を破った者が罰せられるのは、当然の事だ。
それとも、ミノルは陰に隠れて領民や商人を害してもいいと言うのか?」
「そんな事は絶対に言わん!
絶対に言わんが、それでは辞めてしまう者が続出するのではないか?」
「辞めたい者は辞めればいい、正直、これほど多く集まるとは思っていなかった。
領地や城を護るだけなら、半数になっても十分だ。
数が減るよりも、領主のミノルや団長の俺の名誉が穢される方が問題だ。
名誉が穢されたら、社交界で信用を失う」
「分かった、ルイジャイアンがそこまで言うのなら、呪いの騎士団章を身体に刻めるか、神様に願ってみよう」
「そうか、任せたぞ。
それが終わったら、王都に行ってダンジョンに潜れ。
絶対に裏切らない騎士や兵士が二千いたら、もう何も心配いらん。
安心して不老不死を手に入れに行け」
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