第27話:威圧と激痛
ガニラス王国歴二七三年五月三〇日
ルイジャイアン・パッタージ村領主館
田中実視点
戦いが始まる前日にルイジャイアンと色々話し合った。
虎の威を借りる狐もような奴は大嫌いなので、つい過激な事を口にしてしまったが、よく考えれば全部神々からお借りした力なのだ。
「皆殺しにするのは簡単なのか?」
「いや、今の言葉は忘れてくれ。
向こうが先に手を出さない限り、情け容赦のない虐殺はしない」
「そうか、その方が良い、その方がミノルの為だろう。
ミノルの目標は不老不死なのだから、よけいな事はしない方が良い。
ダンジョンを治める王家と戦いを始めてしまったら、王家を滅ぼして国やダンジョンを管理しなければいけなくなる。
戦う相手はアドリアだけにした方がいい。
力を見せつけるにしても、パラスケボプロス侯爵までにしておけ」
「宮中伯とは争わない方が良いのだな?」
「宮廷で力を持つ奴は、正面から堂々と戦うのではなく、裏に回って卑怯な陰謀を仕掛けて来る。
気を付けないといけないのは、王家の敵にされる事だ。
国を治める気がないのなら、止めておけ。
以前に村を治めるのも嫌だと言っていただろう?」
「ああ、言った、他人の生活と命を背負うのはごめんだ」
「だったら交渉事は全部俺に任せておけ。
俺も暴れん坊だが、この世界で生まれ育った分、常識は知っている」
「ああ、頼む」
そんな風にルイジャイアンに任せる事になったのだが、翌日になって、当のルイジャイアンが宮中伯の無礼に激高して、王家相手に戦争を仕掛けそうになった。
ルイジャイアンは、宮中伯を相手に下手に出た交渉をする気だったようだ。
悪くても、副大臣格の宮中子爵や腹心の宮中男爵が来ると思っていたようなのだが、実際に来たのは下っ端の宮中騎士だった。
しかも、交渉する事も許されなかった。
王家の意向と侯爵家の軍事力を背景に、一方的に城と村を寄こせと言いやがった。
ルイジャイアンと家族を処刑しないのが、王家の恩情とまで言いやがった。
宮中伯に舐められた事で、それでなくても短気で武闘派のルイジャイアンが怒り狂い、王家が相手でも戦争すると言い出してしまった。
「おい、昨日言っていた事はどうなった?
下手に出てでも王家とは争わないと言ったのはルイジャイアンだぞ」
「うるさい、下手に出るにしても限度がある。
宮中騎士ていどに舐められたら、どんな無理難題を押し付けられるか分からん。
下手に出るにしても、ある程度は力を見せておかないと全て奪われる」
「ルイジャイアンに任せると言った以上、どのような結果になろうと文句は言わん。
戦うというのなら全力を尽くして勝つ。
向こうが攻めてきたたら、皆殺しにしていいのだな?」
「……いや、皆殺しにまではしなくていい。
連中にこちらの力を見せつけられたら、それで十分だ」
「殺さずに力を見せつけろだと、難しい事を言う」
「やれないのか?」
「いや、分からん、これまでは祝福上げの狩りしかしてこなかったから、手加減ができるかも分からない」
「ミノルならゴタゴタ言わずに試してくれるのだろう?」
「ああ、やった事がないならやって見ればいいだけだ」
話がまとまるのを待っていたかのように、アドリア・アンドリューの軍とパラスケボプロス侯爵の軍が俺の城に攻め寄せて来た。
アドリア騎士軍の総数は百人ほどだ。
総人口が四百人から五百人と聞いているから、宮中伯や侯爵に存在感を示そうと、無理をして人数を集めたのだろう。
パラスケボプロス侯爵軍の総数は千人ほどだ。
有力貴族の中で、最も魔境の近くに領地を持つ侯爵と聞いたが、有力貴族として動員する兵力が千人というのは多いのだろうか、それとも少ないのだろうか?
米が主食の日本と麦が主食の欧州では、激しい戦乱の時代でも動員兵力に三倍以上の開きがあったはずだが、魔術や魔境がある異世界の基準が分からない。
まあ、いい、侯爵家に十万兵を動員する経済力があったとしても、俺には神々の加護があり、千を超える祝福を受けて強化された身体がある。
それに、激しい戦いになる事を考えて城を強化してある。
美しさを優先して大理石で城壁を創ったが、城壁外側と門扉を輝緑岩に変えた。
二重だった大理石の門を輝緑岩の四重門に強化した。
更に城壁と門扉の表面に、日本の神々の壁画を描いた。
描いた神々の壁画に守護の神通力を留めて頂いた。
立体的な神像に留めた御力ほどではないが、数十程度の加護しか得ていない人間が、この世界の弱い神々から授かる攻撃魔術程度なら、軽く弾き返してくれる。
「「「「「力の神クラトスよ、どうか私の願いを御聞き入れ下さい。
御身を慕う民を御救い下さい。
御身を慕う民に、主君の為に戦う力を授けてください。
主君と王家に盾つく逆臣を討伐する力を授けてください
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、ボディー・ストゥレン」」」」」
侯爵家の騎士と兵士が、身体を強化して城門に突撃した。
普通の城門なら、あの突撃で破壊できるのだろう。
だが、厚みが一メートルもある輝緑岩の城門は簡単に破壊できない。
それどころか、神々の守護力で弾き飛ばされている。
このまま放って置いても攻め疲れて諦めるだろう。
城壁をよじ登ろうとしても、守護力で弾き飛ばされるだけだ。
神々によったら、ある程度登らせてから弾き飛ばす方がいるだろう。
城壁の半ばから空壕の底まで落ちたら、ほぼ確実に死ぬ。
殺してしまったら、俺たちの強さと恐ろしさを広める者がいなくなってしまう。
「遠く大八島国にて疫病を司る疫病神よ
御身を慕う民を御救い下さい。
御身を慕う民を殺そうとする者達を疫病にしてください。
決して死なないが、激しい下痢と嘔吐、痛みにのたうち回らせてください。
小便をしても、涙を流しても、風が吹いても激痛に苦しむようにしてください。
御身を敬い信じる者の願いを御聞き届けください、疫病」
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