第6話:神の祝福
ガニラス王国歴二七三年五月五日
ルイジャイアン・パッタージ騎士領
田中実視点
商人と護衛を殺した後で、領主館に入れなかった護衛も殺された。
罪状は商人と共謀して領主の財産を盗んだ罪だそうだ。
よく話を聞くと、領主の森で狩りをするだけで死刑だという。
いや、落ち葉や枯れ枝を使っただけで重い罰金刑に処せられるという。
夜営の時に森の枯れ枝で焚火するだけで罪を犯す事になるなんて!
「魔境は誰のものでもないから大丈夫だ。
王都に近い安全な森、貴族や騎士の領地と認められている森に入らなければ良い」
そう言われても、日本から来た俺には魔境と普通の森の違いが分からない。
この世界の事を色々と話してくれるというので、気になる事を聞いてみた。
ルイジャイアン殿の家族や家臣に犠牲者が出ることなく、商人の護衛を皆殺しにできたので、ルイジャイアン殿の機嫌がとてもいいので、話が聞きやすい。
「防壁の上でヴィオレッタ殿と兵士が魔術を使うのを見た。
見よう見まねで試してみたが、魔術は使えなかった。
思い切って自分の世界の神に願ったら、魔術が使えた。
昔話にそのような例は残っていないか?」
「……私の知る昔話や伝承に、別世界の客人が魔術を使った話はない。
この話は誰にも言わない方が良い。
この世界では多くの神が信じられていて、人によって加護を与えてくださる神が違うのだが、教会や神官の中には自分が信じる神以外を邪神と否定する者がいる。
別世界の神を信じていると言ったら、殺されるかもしれない」
「分かった、そういう事ならこの世界の神に加護をもらった事にする。
後でこの世界の神をひと通り教えてくれ」
「分かった、今日中に教えてやろう」
ルイジャイアン殿と話し合って、俺の持ち込んだ上白糖と食塩を使った経口補水液は、疫病による下痢が激しい者に与える事になった。
体力のない老人と子供に優先的に与える事になった。
比較的症状の軽い者には、商人が運んできた黴の生えた大麦と砂の混じるの塩を使って、経口補水液の代用になる麦重湯を作って与える事になった。
同時に、領民が疫病から助かったら、隣領を迂回して他領と交易する事になった。
俺の目的は不老不死になる事だから、商売はルイジャイアン殿に任せる。
その為には大体の卸値と小売値を決めておかなければいけない。
最初に約束した薬代わりにする上白糖と食塩の値段は以下の通りだった。
上白糖二kgを小金貨四六四枚と小銀貨九〇枚と小銅貨六八枚
食塩二kgを小金貨六枚と小銀貨八九枚と小銅貨六四枚
合計で小金貨四七一枚、小銀貨八〇枚、小銅貨五〇枚を手に入れた。
ただ、これからは小売値の四割でルイジャイアン殿に売る事になった。
危険な魔境や敵対する領主を避けながら売り歩かなければならない。
売り歩く領民、他領の商人などにも利益を与えないといけないからだ。
「キログラム当たりの想定小売価格」
上白糖は小金貨二三二枚と小銀貨四五枚と小銅貨三四枚
黒胡椒も小金貨二三二枚と小銀貨四五枚と小銅貨三四枚
食塩は小金貨三枚と小銀貨四四枚と小銅貨八二枚
日本産の良質な小麦粉、強力粉がキログラム小銀貨八枚
二五キログラム入りの業務用袋で小金貨二枚。
一七ミリ色付き透明ビー玉:一個小金貨一〇枚
六ミリトルコ石 :一個小金貨一〇枚
一〇ミリシトリン :一個小金貨二〇枚
一六ミリメノウ :一個小金貨四〇枚
「田中実からルイジャイアンに売る卸価格」
上白糖は小金貨九二枚と小銀貨九八枚と小銅貨一四枚
黒胡椒も小金貨九二枚と小銀貨九八枚と小銅貨一四枚
食塩は小金貨一枚と小銀貨三七枚と小銅貨九三枚
強力粉がキログラム小銀貨三枚と小銅貨二〇枚
二五キログラム入りの業務用袋で小銀貨八〇枚。
一七ミリ色付き透明ビー玉:一個小金貨四枚
六ミリトルコ石 :一個小金貨四枚
一〇ミリシトリン :一個小金貨八枚
一六ミリメノウ :一個小金貨一六枚
「それと、神の祝福というのは何なのだ?」
俺は神の名前をひと通り教わってから、次に気になっている事を聞いた。
「神の祝福とは、神の願いを叶える事で身心が強くなる事だ。
ミノル殿も体験したと聞いているが、身体が眩しいくらい光り輝く。
一番効率的なのが、神々が嫌っているモンスター、魔獣や魔族を殺す事だ。
選んだ職業を一生懸命学ぶ事でも祝福が得られる」
「身心が強くなるというのなら、寿命も長くなるのか?」
「いや、病気やケガで死ぬ確率は下がるが、寿命自体は長くならない。
人族ならだいたい六十年で死ぬのが普通だ。
神の祝福を多く得た者でも、百歳まで生きる者は稀だ」
「身心が強くなっているのに、弱る事もなく死ぬのか?」
「そうだ、多くの祝福を得た者は、死後に神の側近くに仕えられると言われていて、前日までとても勇ましく戦っていた者が、朝になったら死んでいる事が多い」
「だとすると、不老不死になるためには、ダンジョンでドロップを手に入れるしかないのか?」
「そうだな、ドロップしたその場で飲んでしまわないと、王族や大貴族に奪われる。
どれほど多くの祝福を得た者でも、王家や大貴族の軍に狙われたら渡すしかない」
「分かった、ダンジョンに潜って手に入れる方法を教えてくれ」
「不老不死のドロップを手に入れたという話を聞いた事がないから、確実な方法は教えられないが、若い頃にダンジョンに潜った事があるから、思いつく方法を教える。
だがその前に食事にしよう、もう良い時間だ。
愚かな商人から美味しい狼を取り返したから、それを御馳走する」
「父上、狼を斃したのはミノル殿です」
ヴィオレッタが俺の手柄を言ってくれる。
「おお、そうだったな、とはいえ、領内の獣や魔獣は全て私の物だ」
「分かっております、そういう決まり事も教えていただきたい。
私の住んでいる世界と法が違うので、何時何処で間違いを犯すか分からない」
心配事に目途がついたので、ルイジャイアン殿の機嫌が更に良くなっている。
俺の作った経口補水液と、俺の指示通り作った麦重湯が効果を表し、疫病患者の顔色がとても良くなったのだ。
ルイジャイアとルイジャイアの妻アンジェリカ、俺とラザロスとヴィオレッタの五人で夕食を食べる事になった。
狼を食べるのは、結構な心理的抵抗があったが、異世界でそれなりの権力を持つ騎士がもてなしてくれるのだ、断る事などできない。
それに、食べてみると意外に美味しかった。
日本でも江戸時代には犬が食われていたし、今も韓国をはじめとしたアジア諸国では普通に食べられているから、元々美味しい食材なのだろう。
色々とこの世界で生きて行くのに必要な知識、常識を教わっていたのだが……
カーン、カーン、カーン、カーン、カーン
「魔獣だ、急げ!」
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